第42話 故郷へ
アンタレスは部下に巻物を手渡すとスコルの地へ向かわせた。「あのこぞう……今や世間をにぎわすストーン軍団だと、ワシの目に狂いはなかった。あんな若者とともに戦いたかった。あいつならワシの戦場へ駆けつけてくれるだろう。さあ、出立するぞ」
伝令を授かった部下は二名。一名は傭兵騎士団ラグナロクのもとへ、もう一名はストーン軍団のもとへと早馬をとばした。
リオニア王国の助力を得て、二千騎の手勢を集めたアンタレスは『獅子の長城』を
スコルの国では、ロンディル卿が台頭し国家を指導するが、彼はリオニア王国の操り人形に過ぎなかった。強国リオニアにとって小さなスコル国などどうでもよかった。ロンディルは私腹をこやすために悪政をしていたが、好きにさせている。
その横暴は続き、廃墟になっていた
「ストーン軍団」のうわさを口伝えに聞きつけ、各地から同志たちがやって来て、その規模はふくらむばかり。犯罪者や他国からの亡命者、はてはノールやトロールといった人間以外の生物まで加わっていた。
ストーンは、その集団をひとつの大きな家族、力を合わせて混乱期を生き抜く仲間だと捉えていたが、スコル政府はそれを許さなかった。
いまやスコルの国を支配するロンディルはストーンに出頭を求める。
「ストーン兄ちゃん、ロンディル卿なんかの言うことなど無視しちまおう」と弟分のレパルはいう。
「そういうな、国家の意志だ。無下にすれば、国を挙げて軍が押し寄せることになる。考えてもみろ、俺達は国のために戦いこそすれ、国と戦ってどうする?」とストーンはなだめる。
彼らがそんな話をしている時、アンタレスからの伝令がやって来た。
「レパル、軍勢を集めてくれないか。しかも、至急だ」思い詰めた表情でストーンが言う。
「やはり行くのか。わかった、すぐにみんなを集めるよ」レパルは意気揚々として話す。そして、合計千人近くが集合した。
ストーン軍団は、伝令が指示したレストアールという場所へ向けて出発した。
ところが街道に出ると、スコル平和教導部隊という名のロンディルの私兵たちと遭遇する。
「ストーンに告ぐ。即刻、兵力の解散を命じる」
「どういうことだ。なぜ、ここにロンディルの兵たちが」
「ストーン、君に逮捕命令が下ったよ」
「なんだって、俺が逮捕だって、どうしてだ? 」
「罪状は、クーデター未遂。そういうことだ」ロンディル兵の数は、およそ、八百騎。ここで戦ったとして、なんとか突破することは可能だと思える。
しかし、ほんとに内乱になってしまう。しかも時間と兵力も失するため、アンタレスを救えなくなってしまっては元も子もない。
「しかたない。ここで、解散だ」ストーンは観念した。
「ストーンさん、なにも、あんなやつらに」
「大丈夫だ、ロンディル卿と話し合って、わかってもらうさ。それよりレパル。ここは
「わかった。ストーン兄ちゃんも気をつけて。ロンディル卿のやつ、信用できん!」
連れていかれたストーンは、ロンディルの館で簡単な取り調べをされる。その際に武器を外された。騎竜剣もいったん預けなければならなかった。
ロンディル卿が目の前に現れた。狡猾で神経質そうな初老の男だ、狐が猿に化けて人間の服を着たような人物だ。周りにはずらりと私兵たちが立っていた。
それでもストーンはロンディル卿に面会できたことをよろこぶ。
しっかりと話し合えば理解をしてもらえるのではないかと期待していた。
「ロンディル卿、ラグナロクが大公の援護に向かわず引返したって本当か? まさか故意に遠回りさせたのでは。なぜ、そんなことを?」ストーンは質問した。
「語るに及ばぬ。この者をひっとらえよ。わしへの、いや国家への謀反の罪は重いぞ」ロンディルはそっぽを向いたまま淡々と言うと、警備の兵士たちが至近距離でストーンに小型の機械式石弓を向けた。スコルの国にこんな武器はなかった。リオニア製の新兵器だ、素人が使っても簡単に人を射抜ける。
「謀反だって。大公を助けようとしたことが、なぜ反逆になる?!」
問い詰めるストーン。
「この国の主は、もはやアンタレス大公ではないのだよ。わかるかね、ストーン」
「ロンディル?!」ストーンは、拳を振り上げる。が、脇にいた兵士達が機械式石弓を放った。数本の短い鋼鉄の矢がストーンの体を深々と貫く。麻酔でも塗ってあるのか、体がしびれて動けない。
「えーい。連れて行け。
ロンディルが叫ぶ。
「それまでは、闘技場の地下牢にぶち込んでおけ。騎竜剣とか言ったな、あの厄介な剣は手渡すなよ。地下の金庫に厳重に保管しておくといい」
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