第40話 ストーン軍団

「ストーム王国、かっこいい~!!」「王様、万歳~!!」

はしゃいでいるのはウィリウィリやレパルたちだった。

卓上には、とれたての海産物に、牛や豚の焼肉や果物、はては何かのモンスターの肉の加工品まで、ごちそうが山のように盛られていた。

 

「ストーン、あ~んして」ローゼがスプーンに乗せた美味しそうな果物をストーンの口元に近づけた。


「はずかしいなあ、やめろ。みんなが見てるだろ」

そう言いながらもパクリと食べるストーン。まんざらでもなさそうだ。

 女神のように美しいといわれるローゼに甘やかされては、ピティやリオン(レオナ皇女)のことも頭の中から消えてしまったのだろうか。 


歳はリオンたちと変わらないだろう( ピティは竜だから本当の年齢はわからないが )。ローゼはあのふたりとはまた違う雰囲気だ。

一番違うのは、少女の雰囲気のあの二人に対して、ローゼは身体のラインが大人っぽい。あの二人には言えないが、胸のあたりとか腰つきとか、背もすらりと高いし。

あっ、聞かれたら、もう騎竜剣は鞘からも抜けなくなるかもな。


長くて真っすぐな美しい黒髪、女神のように美しく天使のように愛らしいといわれる容貌、身なりは清楚な令嬢だ。ジャッカル教徒の修道院で勉強中ということだから、将来は聖女さまというところか。ストーンの妄想も止まらなくなっていた。


 ローゼがここにいるのは、依頼主のところまで連れ帰ったのだけれど、わがままが爆発して家出してしまい、ストーンの行くところについてくるのだ。



 ここはスコルの街のひとつ、ギルタブ。第二次スコル戦役で激戦地になった場所のひとつ。今はほとんど廃墟になっていた。

 リオニアの仲裁のもと、新しくスコル民主国が樹立し、オリオウネ帝国もこの地から兵を退いていた。

 半壊したような建物だが、まだ住めそうなものを見つけて改修した。そこを根城として、ストーンと仲間たちが宴会をしている。


「ストーム王国と名乗ったら、もうこれで王国って出来るのか?」ストーンが聞いた。

「さすがに無理でしょうな。ただの不良集団ってところでしょう。昔から若者らが天下御免とか夜路死苦などと書いた旗をかかげて街道を馬を連ねて走り回っておりましたが、あれとなんら変わりませぬ」ラウザナが答えた。


「やはり、そうか。俺はこれでも古代帝国の末裔である皇女様から騎士に叙任されている。このスコルの地を取り戻したら、領土にして王となれと言われた大義名分もある。それでも、駄目か? 」


「むしろ、そのほうが駄目です。本気であればあるほど、つぶしにかかって来る相手が違います。今の状態なら、せいぜい街道警備組合ハイウェイパトロールと追いかけっこをする程度ですが。いずれは、オリオウネ帝国、リオニア王国によってひねり潰されてしまいますな」魔導師は困った顔をした。


「戦争をしたいわけじゃない。あの皇女様も、そんなことは望んでいなかった。このスコルの国を立て直し、平和に暮らせる方法はないだろうか」


「ひとつだけあります。オリオウネやリオニアに勝る力のある国を作ることです。そのうえで、戦争はしない。ただ、降りかかってくる火の粉は払い落とさねばなりませんぞ」


「よしっ、それだ。決めた!! ところでラウザナ、お前、俺と戦った時にはもっと若い印象だったが急に老けたのではないか?」


「ああ、それですか。美女たちの手前、魔導の力をつかって若作りをしておったのじゃ。わしはよわい、今年で百三十歳になるんじゃがの、ふぉふぉふぉ……」


「ほんとかよ、わざとやってないか。魔導師ってやつは、何が本当かよくわからん!!」ストーンはすこし呆れ顔だ。


「ストーン兄ちゃん、ラウザナ先生。まあ、呑んでください、ぱっと行きましょう~」レパルが酒を注いでくれた。


「いらん、こんな盗賊風情の小童こわっぱに注がれては不味くなる。若い姉ちゃん、呼べや~」

ラウザナが駄々をこねだした。


「おいおいっ、ラウザナ。小童こわっぱはないだろ、レパルはあの山賊団のボスなんだ。これから月の出てない夜はひとりで出歩くなよ。それから、飲み屋の姉ちゃんたちを呼んでくるから、もうローゼたちには手は出さないでくれよ」

 個性の強い仲間たちをなだめるのはストーンにとっても大変にことだったが、楽しくもあった。


 ストーンのもとに集まった軍勢は、山賊団『風のハイエナ』百五十人とウィリウィリのかき集めたスコルの敗残兵たち約三百人、面白そうだと聞きつけて集まったスコルの若者たちが二百人近くいた。

 変わったところでは、迷いの魔街道での武勇伝を聞きつけた森に住むモンスターであるノルの部族が加わって来た。ノルというのは、狼の頭をした大柄の人型のモンスターである。族長のジャバト・アル・アクラブは、片言だが人間の言葉もわかるようだ。アンタレス大公とも旧知であり、古くから同盟を結んでいたといい、スコルの将のひとりとして数えられていた。

 結局、ストーム王国はまだ早いと、『ストーン軍団』と名乗ることにした。



 

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