第二部
第21話 風の帰郷
ストーンは帰って来た。
この国を離れてから三年、久しぶりに戻った
少年期に暮らした『風のすみか』へ足を向けたが、親しみ育った道場や家屋は名残さえなく消え失せていた。荒廃した丘陵にただ風が吹き抜けていく。
「ドラッケン先生……、ピティ……、俺は戻って来たよ」ストーンはそっと話しかけた。
暖かい声も、優しい
想い出はなにかも土へと還り、魂は風に運ばれ消え去っていたのだ。
竜王歴三〇七六年。ここスコル大公国は隣国オリオウネと交戦中であった。のちに第二次スコル戦役とよばれるこの戦いは、半年ちかく続いていて、国境付近で激しい戦闘が繰り返し行われていた。
傭兵を
この数年、傭兵騎士団ラグナロクに所属して各地を転戦していたのだが、そのラグナロクもスコル大公国の戦争に駆り出されようとしていた。
なにか動きがあれば、騎士団長のルカニオスから声が掛かるだろう。それまでは、しばしの休暇ということになる。
「大きな船が何隻かいるな。宿も探さねばならないし、港のほうへ行ってみるか」
ストーンは眺めのよい景色を楽しみながら丘を下った。
スコルの港はこの半島でも指折りの拠点となる港で、漁港があるだけでなく、軍用の船が出入りすることもしばしばあった。
三年前にストーンが
「遠目にもよくわかる。あの時の船によく似ている。あれは……まさかレントゥの船か。こんな戦時下になぜ、リオニアの軍艦がこの国へ寄港しているんだ?
この
戦時下でも港町は賑わっていた。
ストーンはしばらくの寝床として安い下宿を探した。古道具屋の二階という物件を見つけそこに転がり込んだ。狭くて汚い部屋だが窓からは海が見え、子どもの頃に馴染んだ波の音や海鳥の声が心地よかった。
傭兵稼業で儲けた金がある、当面の家賃は心配ないが贅沢をしたい気分ではなかった。さきほどのぞいた市場に品物は少なく、物資が枯渇するのも時間の問題だろう。
ほとんど保存食であるが食料は買いこんだ。しばらくは、何とかなるはずだ。
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