第33話 嵐の夜の公都
ある嵐の夜だった。
街には止む事もなく警鐘が鳴り響き、敵国の兵士達がうろついては残党狩りが続いている。真紅の
オリオウネ軍は、あきらかに騎士や兵士でない者たちは見逃した。非常に規律のある軍隊だ。統率していたリカルド公爵の命じるところが大きい。
残党狩りの対象は、スコルの将や騎士たちであり、兵士なのか領民なのかわからないような者たちにまで手を下すことはなかった。
敗軍の将・アンタレス大公はまだ、降伏を宣言していない。
スコルの主力部隊も敗北したとはいえ、散開してしまている兵力を結集して再編すれば、二千人は下らない。ただ、再編のためには信頼できる指揮官が何人か必要だ。
頼みの綱、傭兵騎士団ラグナロクの四百騎の軍勢もほぼ無傷のまま、残っていた。
「オリオウネは、兵力をスコルに集中させている。もし、背後から帝都を強襲できれば、この劣勢を覆すことは可能だ。ラグナロクを北上させて、狙うはオリオウネの帝都、即位したばかりの皇帝リーアス、その首をもらう!!」
リオンをレントゥの船まで無事に連れて行ったストーンは、自分の下宿に戻り少し休んだ。すぐにでも公都へ行きたかったが、さすがに体が動かなかったのだ。
ほかの騎竜剣というのにも驚いたが、オリオウネの
「むにゃむにゃ、うるさいな~、まったく」
不機嫌そうに眠い目を
ストーンは驚いてベッドから転げ落ちた。すかさず、枕元に隠し持っていた護身用の短剣を手に取って構えていたのは訓練を積んだ者の芸当であり傭兵剣士としての習性だった。
それほどのつわものを驚かせたのは、
「すまぬ、かくまってくれ。礼はこいつでどうだ」と、砂利のようなものが山ほど詰まった布袋を投げよこす。
大男がふつうに人間の言葉を話したのを聞いてストーンは、ほっと、胸をなで下ろしつぶやく。「ふぅ~、化け物かと思ったぜ」
「失礼な
外套で覆われていたが、腰に吊るされた
刀剣にこだわりのあるストーンは、それが相当の逸品だと見ていた。
(ただのグレートソードではない、いちおう両手持ちの剣のようだが、刀身の大きさの割に柄のバランスがおかしい。いわゆるバスタードソードにしては大きすぎる。この男、体躯がいいが、まさかこれだけの大型剣を片手で扱えるのか)
おそらく、この大男は敗軍・スコルの名のある剣士で間違いない。
ストーンは、この怪しい訪問者に敵意はないと見て、握り締めていた短剣を収めた。
「こぞう、たいした短剣さばきだな!」
大男が口を開いた。
「こぞう、ストーンというのはお前で間違いないか。この古道具屋の二階に腕の立つ傭兵が住んでいると小耳にはさんだ。ちょうどよい護衛を探している。リオニアまで付いて来い」彼は命令口調で言う。
ストーンは問わなかったが、この男はリオニア王国へ亡命するつもりなのだと悟っていた。スコルの軍隊に属したことはなかったので顔は知らないが、兵士長とかいうレベルではない、もしかすれば、軍団長や師団長クラスの大物か。
スコルの将で有名な人物といえば、ウィリウィリ軍団長、ジャバト軍団長、イクリール師団長あたりか。
それとも、将軍・グラフィアス。まさか、そこまで大物なら一介の傭兵など当てにしないか。
事情がある依頼者に名前をうかがうことはできないが、リオンのように偽名でもよいから名乗ってくれればいいのだが、名無しだと呼びかける時にこまる。どれだけ偉い人なのかわからないが、おっさんだから、おっさんと呼ばせてもらおう。
「よし、引き受けるぜ……おっさん!」
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