読ませる力のある作品

 ストーリー展開は比較的早いですが、だからといって読者を置いてきぼりにするようなことはありません。淡々と設定を開示するのではなく、そこに人間の感情や生活を見せることで、世界観を理解しやすくしています。恐らく、設定をストーリーに落とし込むのがうまいのだと思います。

 キャラクター性の表現については、設定を開示しながらもそれに寄りかかりすぎることはなく、ストーリーの流れの中で、そのキャラクターの発言や身なり、一挙一投足から表現していて、すっと頭に入ってきます。
 特に主人公、アルヴィンの価値観は、様々なストーリーを通して少しずつ、しかし確実な繋がりを持って開示されていくため、彼が何故そのような価値観を持つに至ったかまで、自然と理解できる作りになっています。
 更にそれが「火の魔女」の章の秘密に繋がっていくため、無駄のない構成になっているといえます。

 魔女と審問官の関係性は、敵対的でありながらも、その審問官の魔女に対する認識は果たして真実なのか、疑問が投げられています。
 魔女の定義も「火の魔女」の章では曖昧で、次章で少しずつ明らかにされていく。
 それも、ただの設定の説明という形ではなく、「不死の魔女」を通じて語られる様々な秘密と関わり合い、まるで共鳴するかのように理解することができます。

 総じて、ストーリーの展開とそれに合わせた設定の開示が巧みで、読ませる力のある作品といえるでしょう。

 キャラクターに関しては、主人公のアルヴィンの目的が一貫しているものの、魔女や枢機卿などの秘密を知る中で、葛藤が生じるさまが繊細に描かれています。
 他のキャラクターに言及するのなら、いわゆる敵方に属するキャラクターたちが生き生きと、そしてその裏での闇が濃密に描かれ、魅力的に映ります。その闇の濃さを引き出しているのは、それまでに判明している設定であり、そこに至るまでのストーリーだと思います。
 ストーリーの巧みさが、キャラクター性を補強しているといえるでしょうか。

 そして、その闇を生み出したものの正体が明らかになるとき、アルヴィンたちの反撃がはじまる――。

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