失われた想いを探し、砂の地を行き巡る。歴史を紐解く旅冒険ファンタジー!

 タイトルの『水の蜂』とは、数百年前に滅びたとされる種族。水を生み出し、人々に水を与えていたという謎めいた存在を巡り、学者とその連れ、三人の若者たちがいわくのある地を訪ねゆく旅冒険――というのが物語の序盤です。

 舞台となるのは砂漠化した地であり、水溜めやオアシスといった水源が非常に貴重な世界。砂漠の町に住む少女ティナは、職場である料理店で変わった旅人と出会います。思わず息を呑むほどの美貌、艶やかな声、そして『水の蜂』について語るときの熱っぽさ。
 とめどなく紡がれる話を遮ったのは、どこからともなく飛び込んできた謎の毛玉(生き物っぽい)でした。「にょ」という不思議な鳴き声のソレと、風変わりな旅人たちとの出会いはやがて、ティナの抱える過去へとつながってゆき――。

 タイトルはシンプルですが、登場するキャラや舞台と設定はとても個性的で、ぐいぐい読んでしまう魅力があります。
 オタク気質の美人学者、毛玉を愛する無口な青年、生意気なのに繊細な少年、とメインは主に三人。&謎の毛玉。背景も個性もバラバラな三人プラス一匹が、仲良くも喧嘩したり慰め合ったりと、わちゃわちゃしているのが楽しくて。
 また、訪れた場所で現地の人と交流を持ち、起きた事件を解決してゆく流れは、連作短編に近く読みやすいです。

 とはいえ、物語の背後には大きな謎が横たわっており、不穏の影も差し始めています。『水の蜂』は本当に滅びてしまったのか、各地でうごめく陰謀の陰には何があるのか。
 真相を見届けるためぜひ、この機会にご一読ください。

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