第16話 夜会の詩人
この日の夜会でも、私は一人でラガブーリンをオン・ザ・ロックで楽しんでいたのだが、一人の初老の男性が私に話しかけてきた。
いつも一人で飲んでいる私を見て、寂しそうだとでも思ったのだろうか?
彼は見るからに日焼けをしていて、自分は詩を書いて生計を立てていると言われた時には、表情には出さなかったものの、私は少し驚いた。
彼は、私の詩人のイメージと違っていて、私の想像の中にいる詩人は、色白で不健康そうな印象だったのだから。
詩人は、ゴールデンキャデラックをテーブルに置いて、私の隣に腰掛けた。
「私はアルコールが、そんなに強くないのですが、このカクテルだけはお気に入りなのです」
そう言いながら、彼は自分のことを少しづつ話し始めた。
彼は、幼い頃、失語症で障害者施設にいたことがあったらしい。
その後、どういう訳か、施設を出ることができ、少しづつ言葉も喋れる様になったのだが、感じたことを言葉ではなく、文字で表現をしていこうと日記から始め、詩を書き出して、少しづつではあるが詩集が売れだし、勤めていた工場を辞めて詩人になることに決めたそうだ。
「私が詩人だとは見えなかったでしょう? 私の詩は自然との触れ合いなのですよ。だから一年中旅をしています、寒い日も暑い日も、一年中です。だから、いつも日に焼けた肌の色をしています。詩は旅の先々で書いたもので、それがある程度集まると出版社に送っております。なので、年に数回しか、この夜会には出席しません。今夜は、私が語ろうと思っております。さぁ、行きましょう、あの暖炉の部屋へ」
私は、詩人を見た時の第一印象が、既に悟られていたことを知って苦笑いをしながら、彼の後ろに着いて、あの暖炉の部屋に入った。
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