第10話 三人
彼は目が覚めると、昨日のアルコールが残っていないかを自身の覚醒で確かめた。
ただ、昨日の夜、遅くまで起きていたせいで目が覚めたのは昼前であった。
彼は、横目で息子の位牌に目配せして、
「おはよう」
と言った。
それから軽い食事をして、顔を洗い、ライディング・スーツに着替え外へ出ようとしたが、ふと足を止めて自室と寝室を兼ねている部屋へ戻った。
そして、机の上に置いてある小さな写真立てを、ウエスト・バッグに大切にしまい込んだ。
「今まで一人にして済まなかった。これからは三人で出かけよう。それとも、すでに好きな人ができて新しい人生を始めているのかな? きっとそうだろう、君は美しい。でも、これからの休日は、申し訳ないが、私と浮気をしてほしい・・・。さぁ、今日からは三人でツーリングだ。そして、私も、いつの日か新しい生き方を見つけなければならないね」
彼は二輪にまたがると、後ろから小さな腕が回されてきた温もりを感じた。それと同時にウエストバッグの中で、小さな写真立ての中の美しい女性が微笑むのを感じることもできた。
「しょうがないわね、もう過去のことだもの、許してあげるわ。その代わり、あなたも新しい幸せを見つけるのよ。それまでは、休日だけ、あなたと浮気してあげる」
「分かっているさ。さぁ、三人乗りは禁止されてるからね。二人とも見つからないようにしていてくれよ」
彼はギアを切り替えて、スロットルを回し、ゆっくりと車庫から出た。
そして二輪はエンジン音だけを残して、フォレスト・ロードへ向かう、真っ直ぐな国道へと消えていった。
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