第4 夜会の序章



「ある日のことです。次女が戦場の塹壕で仰向けになり空を見ていると、空が光ったように見えたそうです。そして、その光はだんだんと強くなり、真っ白に光る大きな球が空から四つ落ちてきたそうです。娘は、敵の新しい武器かと思ったそうですが、落ちてくる場所が防衛軍と侵略軍の丁度真ん中あたりだと目測したそうです。おかしいと思ったそうですが、確かにその四つの球は音もなく地上に落ちたそうです。そして、その球が地上に落ちた瞬間に光が大地を走るように広がったと言うのです」


 彼女は、そこまで一気に喋り続けたが、また一息つくと締めくくりの言葉を発した。


「以上が、戦地から届いた次女からの手紙です」


 彼女が喋り終わると、少しの間、沈黙が続いたが、やがて一人の黒いスーツに身を包んだ男性が、


「なるほど、不思議な光景ですね。新しい形の爆撃弾かもしれませんが、音もなく光を発するだけだとしたら、何か別の影響もあったかもしれませんね」


 と言った。


「はい、確かに影響は有ったと思います。数週間前に二人の娘から手紙が届き、息子とは数日前に、電話でお話が出来ました」


「何よりもご無事でよかったです」


と先程の黒いスーツの男性が言った。


「有難うございます。次女からの手紙では、その日以来、侵略軍からの攻撃が止まったというのです。また、長女からの手紙では、戦地の白いテントの下でうめいていた、傷ついた兵士たちが、まるでモルヒネでも打ったかのように静かになったというのです。その時間は、次女が光る球を見た時間と一致していることを私は知っていました。そして最後に、長男からの電話では、周りの幾つもの国が、この侵略は直ぐに止めるべきだと、各国が声明文を同時に発信してくれると、約束を取り付けることができた、というものでした」


 メンバー全員が沈黙している中で、この部屋のホスト役らしい老紳士が言う。


「では、奥様、祖国へ帰れる日も遠く無いと言うことですね?」


「はい、私の子供達が戦場から帰ってきた時、私も帰ろうと思っております」


「承知いたしました。このクラブの会員は自ら脱会をお望みにならない限り生涯続きます。祖国に帰られても、日本に来ることがあれば、いつでもお寄りくださいませ」

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