第12話 遊園地デート2
午前中はメリーゴーランドから始まり、絶叫系ジェットコースターをニ種類乗り、少しクールダウンしようと、今は園内の周遊列車に乗っている。
次はあれ行ってみようと、陽向は咲良と繋いだ手を引っ張って極上な笑顔を向けてくる。
表情の乏しい咲良だが、そんな陽向に手を握られ、可愛らしい笑顔を向けられて、脳内では悶絶死寸前だ。
友達が非常に少ない咲良は、家族以外と遊園地なんて初めてだったし、家族と来たのも同じ遊園地で十年前、たった一度きりだ。だから大人用ジェットコースターは初体験だったりする。
パイレーツは下りた後に気持ち悪くなって、母親の膝で休んだ記憶が鮮明だった。ジェットコースターも、同じように気分が悪くなったら……と心配したが、陽向に手を引かれて「乗ろう」と微笑まれたら、乗らずにいられようか。そして、乗ってみて新発見。何気に……いやかなり楽しかった。
咲良のバックの中には、ジェットコースターが落ちる瞬間、良い笑顔で両手を上げている陽向と、そんな陽向と手を繋いだ方の片手を上げている無表情の咲良が写った写真が入っている。写真にしてはかなり高額な値段だったが、つい記念にと購入してしまったのだ。
「咲良、次はミステリーツアーにしよ。ほら、あれなら自力で歩かなくていいやつだから行けるよね」
「う……ん」
だから、その笑顔プライスレスだから。怖いなど言えるわけもなく、周遊列車を下りたその足でミステリーツアーという名のお化け屋敷へ足を向ける。
それなりに行列はできていたが、乗り物に乗るタイプのお化け屋敷だった為、スムーズに順番がやってきた。
「陽向君、お願いがあります」
「うん? 」
「絶対に手を離さないでください!」
二人乗りの乗り物に乗り、咲良は自分からしっかりと陽向の手を握り締めた。できれば腕にしがみついて、陽向の肩で顔を隠したいくらいだ。
「じゃあ、肩抱いていてあげるよ。咲良は僕に抱きついてればいいよ」
陽向は、咲良の左手を陽向の右手で握り直すと、咲良の肩に左腕を回した。
「……遠慮なく」
咲良も陽向の腰のところの洋服を掴み、いつでも顔を伏せられる準備をする。傍目にはところ構わずイチャついているバカップルにしか見えないが、咲良からしたら緊急避難だ。
乗り物はスムーズに動き出し、咲良は瞬きもせずにひたすら進行方向を睨みつけた。どこから何がくるかわからず、目をつぶるのも怖かったのだ。
★★★
今まで触れたことのあるどんな女子よりも華奢な肩、震えた手で自分の服を掴む様に、庇護欲が大爆発する。
(ヤバイ、キスしたいかも……)
陽向の心に芽生えたのは、庇護欲という名の性欲……。もちろんしたいのはキスだけではないが、怖がる咲良をドロッドロのキスで甘やかしたいと思った。
抱き寄せると、微かにフローラルの香りがして、身体の芯がズクリと疼く。おどろおどろしい回りの状況なんか、陽向の目にも耳にも入ってこなかった。
「怖かったら、目つぶったら? 」
「見ないともっと怖くない? 色々想像しちゃって」
(確かに。その服を盛り上げている双丘の形とか柔らかさとか。まぁ、目を開けたままでも妄想できるけど)
真っ暗闇の中進む乗り物に乗りながら、煩悩まみれの陽向の意識は、いかにしてこの後咲良をレスト四千五百円の夢のお城(まるで遊園地のアトラクションの一部のような装いで建つ、遊園地に隣接したラブホだ)に連れ込むかしか考えていない。
通常なら、陽向が自分から誘うことなく、女子の方からノリノリでラブホに連れ込まれていたから、陽向は自分からどうやって誘えばいいかわからなかった。なにより、彼氏彼女になった筈なのに、咲良からはその手の秋波を全く感じないのだ。だから、押し倒すとっかかりが見つからない。押し倒すどころか、ちゃんとしたキスすらできていなかった。あの、お付き合いすることにした日にした掠ったかどうかくらいのキス、あれが最初で最後だ。
(ここでキスできたら、流れでラブホに!! )
結局、最初から最後まで、咲良は瞬きもせずに大きな瞳をさらに見開いて前だけを見つめるだけで、陽向の服を握りしめてはいたものの、まんじりともせず、陽向の胸に飛び込んではきてくれなかった。あまりに表情が動かないから、もしかしたら想像よりも怖くなかったのかもしれない。
イメトレでは、お化けに恐怖した咲良が、目をつぶって陽向の胸にしがみついてきたら、「大丈夫、怖くないよ」と慰めながらチュッとしようかと思っていたのだが……。
「こ……怖かった」
乗り物が表に出て降車場所で停まった途端、咲良は陽向の洋服から手を離して、初めてゆっくりと目を閉じた。が、乗り物を降りた人が回りにいるし、次に乗る人もスタンバっていて、まさかこのタイミングでキスなんかできない。せっかく咲良が目を閉じたというのに!
「次、次はなに乗ろうか?! 」
「……次はマッタリしたのがいいかな。緊張しないやつ」
「じゃ、観覧車行こ」
陽向は乗り物から降りて咲良に手を差し出した。咲良はすんなり手を取ってくれ、そのままミステリーツアーを後にする。
観覧車はゲームセンターの建物のさらに上にあり、そんなに大きくはないものの、一番てっぺんは海まで見え、海を見ながらキスすると、将来結ばれるとか結ばれないとか……、いわゆる絶好のキスシチュのアトラクションだった。
「高いとこは平気? 」
「多分大丈夫」
咲良を先に乗せ、向かいではなく隣に座る。
「同じ方に座って傾いたりしないかしら? 」
「大丈夫だよ。あっち方面に海が見えるんだよ。ほら、後ろのカップルもこっち側に横並びでしょ」
これが普通の座り方だと後ろを振り向いてアピールする。
少し観覧車が上がるだけで、遊園地が一望でき、「あれはもう一度乗りたい」とか、「次はあそこに行こう」とか話す。
「あれ、お城がある。シン○レラ城みたいね」
咲良の指差した先には、陽向の
「あ……、だね。」
「前にあんなのあったかな? 新しくできたのかしら? 」
「ど……どうかな? 後で行って見る? 」
「パンフレットに載ってないんだけど」
(そりゃ、ないよね。遊園地外だからな。まぁ、最大アトラクションとも言えるけど)
「そうだ、陽向君って帰国子女だったりする? 」
(帰国子女? 生まれも育ちも鎌倉だけど? )
ラブホの話題を広げようとした矢先、いきなりの帰国子女発言に、陽向の頭に「?」が浮かぶ。
「外国は行ったことないかな」
「そうなの? 」
「え? なんで? 」
「帰国子女の子とか、挨拶でハグしたり、頬にキスしたりするじゃない?なんか、陽向君もそういうノリなのかなって思って。陽向君ってスキンシップが多いっていうか、誰にでもフレンドリーというか。ほら」
咲良は、繋いだ手を目の前まで上げて見せた。
「誰にでもでは……」
咲良だけ……と言えない自分に思わず詰まる。
大学の同級生女子は、確かにベタベタしてくるし、約得とばかりに陽向もそれを拒絶することはしてこなかった。
最近は大学でも咲良の恋人アピールしているから、取り巻きの数は減ったものの、いまだに数人はボディーランゲージで会話してくる。
(あれってやっぱり彼女としたら気分悪いよな。今まで気にしたことなかったけど)
「なんかごめん」
思わずうつむいて謝ると、咲良にギュッと手を引っ張っられた。
「あ、違うの、そうじゃなくて……。女の子って仲良しにはけっこうベタベタするじゃない? 陽向君は女子の友達多いし、女友達みたいなノリで手とか普通に繋げちゃうんだろうけど、私はあんまり慣れてないっていうか」
(慣れてない?
たかだか手を繋ぐくらいのことなのに? )
「今までの彼氏とか、あんまベタベタしなかった感じ? 」
「彼氏? いたことないけど」
「え? 」
この見た目で……初物?
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