クールでナイスバディな彼女は、実は可愛い系が大好きです

由友ひろ

第1話 可愛いが正義の咲良と、ワンコ系可愛い男子の陽向

 ヤバイ……今日も可愛過ぎる!


 GW明けの講義は、いつもよりも学生が少なかった。五月病か、ただたんに休み明けで早起きできなかったのか、あと五分でチャイムがなるというのに、通常の三分の二くらいの人数しかいない。いつもよりも空いている階段教室は見晴らしが良く、遠藤咲良えんどうさくらは教室の前側のドアから中に入った。

 咲良はミニスカートから伸びたスラリとした足を惜しみなく晒して、カツカツとヒールの音をさせていつも座る一番後ろの席に向かう。


 一年の基礎課程のこの教室は、学部関係なくW大の一年が受講している。それでも女子などは学部毎にまとまって席についていることが多く、真ん中より後ろらへんに咲良と同じ文学部の女子がたむろしていた。咲良はそれを横目に、誰もいない一番後ろに座った。


 (あー、ワンコ系ってああいうのを言うのかな。ジェンダーレス? いや、化粧とかはしてないから、ただ単に可愛らしい顔立ちの男の子だよね。ユルフワパーマの男子にしたらやや長めの茶髪は、丸くて大きな二重の目にかかりそうで、つい払ってあげたくなる。170弱くらいなやや低めな身長も、可愛らしい見た目にマッチしている)


 文学部女子に囲まれてニコニコと談笑しているのは、上杉陽向うえすぎひなた、咲良の最推し男子だ。


 と言っても、彼に恋してるとかでは(まだ)ない。咲良は異常に可愛い物が大好きだった。それは物も人もで、可愛い物に囲まれてると至福過ぎて昇天しそうになるくらい。しかしこれは咲良のとっておきの秘密だ。


 咲良は八分の一イギリスの血が入っている。ほぼ日本人の筈が、クォーターの父よりよほど外国の血が濃く出たのか、栗色の髪は程よくユルフワな天パーで、切れ長の二重の目は十九歳に見えないくらい色気がある。鼻筋は細く高く、唇は薄めだが意思が強そうにやや大きめだ。全体に整ったクール系美人。体型もツルンペタンな日本人よりもボン・キュッ・ボンな外人体型で、Gカップの胸は、顔と同じくらい男子の視線を釘付けにした。

 咲良を知らない大抵の人間は、男子を百人斬りしていそうなクールビューティー……と彼女のことを語る。


 がしかし、咲良は実際はクールとは程遠い性格をしていた。引っ込み思案で人目を気にするタイプ。赤面症を隠す為に無表情を極めてしまった残念な娘で、本当は可愛い格好をしたいのだが、小さい時からクールでカッコいいと言われていた為、その期待(?)を裏切れずに、クールゴージャスな格好ばかりしてしまっていた。


 そんな沙綾はいまだに大学には馴染めておらず、友達が欲しい! と思いながら、私は一人でも平気ですという顔をして大学に通っていた。だからこそ、見た目が可愛らしい上、誰とでも(陽向の友達は主に女子ばかりみたいだが)人懐っこく話す陽向をリスペクトしていた。


「ヒナはGW何してたの? 」

(陽向君、ヒナって呼ばれてるんだぁ。なんか可愛いなぁ)

「うーん、高校の友達に会ったりかなぁ。バイトもちょこっと」

(陽向君、バイトしてるんだぁ)

「本屋だっけ? 」

「そうそう。けっこう重労働でさぁ、ほら筋肉少しついたよ」


 ニコニコしながら力瘤を作る陽向に、女子達がペタペタとその二の腕を触っている。


(いいな、私も触ってみたい。……って、恥ずかしい! )


 高校まで女子校だった咲良は、こんな見た目をしているにも関わらず、男子に対する耐性は0だ。


(バイトかぁ、私も何かしてみようかな)


「そういえばさぁ、うちのサークルで今度BBQするんだけど、サークル入ってない同級生誘ってって先輩から言われててぇ、ヒナって何も入ってないよね」

「うん、なんか選べなくて」

「じゃあさ、じゃあさ、再来週の日曜日、来てよ来てよ」

「うーん、バイトが休めたらね」


(日曜日もバイトなんだぁ、偉いな。バイトにサークル、みんな大学生活を楽しんでるんだね)


 咲良は涼しい顔で聞いてないふりをしながら、陽向達の会話に耳を傾けていた。


 ★★★


 GW、陽向はバイトがあるから(シフトをわざと入れた)という理由をつけ、鎌倉の実家には帰るのを止めた。家に帰りたくない訳ではなく、ただたんに高校時代の彼女と自然消滅しよっかなぁなんて、不誠実なことを考えていたからだ。


 中一の時の初カノ(身体の関係のなかった小学生時代の彼女はノーカン)から数えて八番目の彼女は、高校の後輩で、可愛らしい顔立ちだが少しお股のゆるいおバカさんだ。付き合ったのは半年前で、大学進学までの関係だなと思いつつ、たまたま彼女と別れたばかりの陽向は彼女の告白を受けたのだった。


 陽向は、見た目がなよっちい(美少年っぽい)からか、昔から女の子の友達が多く、彼女らはそんな陽向に対してかなりフレンドリーだった。陽向がわざと無害を装っていたということもあるが、全く無害だった訳ではなく、据え膳があれば積極的に食っていった為、陽向の周りには純然たるお友達と、性的関係のあるお友達セフレが混在していた。

彼女に対して誠実だったことはない陽向だが、子犬キャラが根付いていたせいか、あまりもめることなく、女子達にマスコットのように可愛がられる高校生活を送った。


 そんな陽向に告白した後輩ちゃんは、まさに陽向の女の子バージョンといった感じで、離れれば自然消滅だよね(勝手に別の男を作るだろう)なんて簡単に考えていたのだが、下手に東京と鎌倉が近かったのがまずかったのか、思った以上に後輩ちゃんが陽向に惚れていたからか、なかなか別れるに至らなかった。(といっても卒業してからまだ一ヶ月ちょいだが)


 自分からは連絡せず、後輩ちゃんからの連絡も極力出ないようにして迎えたGW、仲良くしているバイトの先輩(七歳年上女子)が家に遊びに来たいと言うので、バイト帰りに家に招待した。

 最初は二人でゲームをしていたが、罰ゲームの軽いキスが呼び水となり、いつしか深いキスに……。まぁ後の流れはご想像の通りで。ただ予想外だったのが……先輩がヴァージンだったこと。まぁ、わかっても途中で止まれなくて、いただいてしまったのだが……。


「ヒナ先輩、来ちゃいました! 」


 鍵をかけ忘れていたのは陽向の痛恨のミスだった。

 フィニッシュを決め、賢者モードに突入してちょっとした時、玄関のドアが勢い良く開き、キャリーバッグを引いた後輩ちゃんが元気に突入してきたのだ。


 悲しいかなワンルームの部屋は、遮るものもなく、ベッドが玄関の真正面にあり、素っ裸でベッドに転がっている陽向と、後輩ちゃんの視線がバッチリ合ってしまう。


「先輩、寂しかったからって浮気は駄目ですよ」


 普通ならば泣くか怒るかする場面で、後輩ちゃんはニッコリ笑顔で部屋に入ってきた。


「あ、あ……」


 先輩が慌てて布団を手繰り寄せて身体を隠した。


「えーと、こんばんは? どちら様ですかぁ? 私はヒナ先輩の彼女の亜美あみって言います。ああ、先輩の欲求不満解消してくれたんですかぁ。ありがとうございますぅ。でも、もう亜美が来たからお役御免ってやつですね。帰っちゃってください」


 亜美は床に散らばった先輩の洋服を拾うと、ベッドの上で青くなっている先輩に投げつけた。


「……彼女? 」

「あ〜、まぁ、そうかもしれないですね」


 まだ別れ話はしていないから、彼女ではないとは言えないと思った陽向は、曖昧な笑みを浮かべて肯定した。


「最低ッ! 」


 先輩は陽向をドンッと突き飛ばすと、素早く洋服を身に着けて部屋から飛び出して行った。


「ヒナ先パーイ、趣味悪過ぎですぅ。いくら亜美がいなくて欲求不満でも、あんなおばさん相手にするなんて」


 まぁ、十七歳の亜美からしたら、二十五歳の先輩はおばさんに思えたのかもしれないが……。陽向的にはアリよりのアリだったから、悪趣味と言われてもそうだねとも返せない。


「ごめん……ね? 」


 小首を傾げてションボリした表情を作ると、亜美がベッドにいる陽向に抱きついてきた。


「しょうがないなぁ、今回は多目に見てあげますよ。でも、あのおばさんは二度と抱かないでね。亜美、あんなおばさんと同列に扱われるのなんて嫌だもん」


(先輩じゃなきゃいいのかな? )


「うん、わかった」


 それから先輩とのHで汚れたシーツのまま、亜美とも身体を重ね、GW残り二日まで亜美は陽向の部屋に居座り、帰っていった。GWいっぱいいなかったのは、まぁ亜美にも陽向以外の予定オトコがあったからだろう。


 バイトの先輩は……次の日からバイトにくることはなく、おかげでシフトが鬼忙しくなったのは、陽向の自業自得である。

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