第5話 セーラー服は最強

 もう二度と着ることがないと思って、クローゼットの奥に仕舞い込んでいたセーラー服をベッドの上に置いた。

 冬服はブラウン基調のセーラー服で、スカートの裾と上着の襟や手首のところとリボンは濃い焦げ茶色をしている。夏服はアイボリーが基調になっていて、あとは冬服と同じだ。


 セーラー服の中でも、可愛いか可愛くないかと言えば、可愛いランキングトップ3に入るだろう母校の制服だが、咲良はこの制服は可愛すぎて自分には似合っていないと思っていた。他の子が着ると清楚で可愛らしい制服も、自分が着ると何やらいかがわしい物に見えやしないかと、毎朝制服を着る度にため息をついていた。


 第一、このセーラー服は大きな胸にはむいていないのだ。上着はバストに押し上げられてお腹がスースーするし、すぐに胸当て(フロント布)のスナップボタンが外れてしまう。スカートは吊るしだからお腹が丸見えになることはないが、見えて楽しい物でもない。


 季節的に夏服冬服どちらを着て見せるかも微妙だ。

 とりあえず冬服を着てベッドに座って一枚自撮りする。自撮り棒なんか持っていないから、全身が入るように調整するのが難しい。次に夏服を着て自撮りし、二枚まとめて陽向のスマホに送った。


(よし! 約束は達成した)


 すぐに陽向の既読がつき、ワンコが嬉しそうに走り回るスタンプが届いた。

 ついで、「立った姿も見てみたい!」との思わぬリクエストまで届いた。

 どうしたもんかと悩みつつ、姿見を使って撮ってみた。

 何枚かとり、きちんと全身が写ったものを送信する。


(陽向君に言われて送っちゃったけど、もしかして私ってイタイ人になってない? 自撮り写真送りつけて、どれだけナルシストなんだって思われない? いくら数ヶ月前まで着ていたとはいえ、しかもセーラー服姿って、コスプレチックだったんじゃない?!)


 今更そんなことに思い当たった咲良は、どうにか画像が消せないものかと思ったが、既に既読がついたということは、陽向はセーラー服姿の咲良を見てしまっている訳で……。それでもやっぱり消去しようとスマホに手を伸ばした時、ピロンと着信音が鳴り、「保存しちゃった」との文字が目に飛び込んできた。


「ウワァッ! 」


 咲良は、制服がシワになるのも気にせず、ベッドの上を転がり回る。


 再度ピロンと着信音が鳴り、ブレザー姿の陽向の写メが「お返しね」と送られてきた。

 陽向の写真は今セーラー服を着て送った沙綾の物と違い、高校時代の物に違いなかった。卒業式なのか、桜の木の下でWピースをしている陽向のソロの写真。ニパッと全開の笑顔が無性に可愛かった。

 咲良は今度は違う意味でのたうち回る。


(アァッ……。なんて尊い!! やっぱり、可愛いは正義だァッ! )


 ★★★


(……エロッ)


 ベッドを背景に、制服姿の咲良がいつものクールな表情で写っていた。


 確かに写真を見たいとは言った。でも、さすがに着るのは恥ずかしいから、高校時代の写真を見せてねという意味で言ったのであって、セーラー服姿に着替えた写真を送ってという意味ではなかった。


(もう、これは永久保存だよな! )


 陽向はすぐにSDカードの写真ホルダーに写真を保存する。

 鼻血が出そうで、つい鼻を左手で押さえ、ついつい右手は……。


(いやいやいや、別にただのセーラー服姿で抜くほどガキじゃないし)


 陽向の視線は送られてきた写真を隅から隅までガン見する。

 ピンクの小花柄にレースのあしらわれた布団カバーに、お揃いの枕。ベッドの枠も白のお姫様調フレームで、なんとも乙女チック全開だ。


(やっぱ、こういうのが好きなんだ)


 可愛いと褒めた時の咲良の反応から、いつも着ているのはシック&クールなモノトーンであったり、色目も抑え気味なブルーなどの寒色系が多いが、実際はこういう暖色系や可愛い系が好きなんだろうなと納得する。

 陽向からしたら、好きな物を好きなようにしたらいいと思うのだが、咲良は似合う物と好きな物は別に考えているのかもしれない。


「似合うと思うんだけどな」


 立ち姿も見たいとアピールすると、鏡越しに撮っただろう写真を送ってきてくれた。お返しに、卒業式で桜の木の前で撮ったブレザー姿の自分の写真を送った。大抵の写真が女子の友達に囲まれているものばかりだが、唯一一人で写っているもので、亜美が待ち受けにするからと撮った写真だ。よく撮れたからと陽向に送ってきたものを消さずにいた。あの時、陽向の女友達(亜美からしたら先輩)を蹴散らす勢いで追い払ったから、亜美は彼女らにかなり顰蹙を買っていた。

 亜美曰く「私がヒナ先輩の彼女ですから、ちょっと離れて貰っていいですかぁ? 」と、陽向と写真撮ろうと群がってきた女子の間に気後れなく割り込みベタベタと離れなかった。女友達達は「ヒナとの付き合いはうちらのが長いのに生意気! 」「ポッと出の彼女の癖にウザイ! 」と、非難轟々だった。


 そう言えば、そんな高校時代の女友達の一人から昨日グループラインがきていたなと思い出した。既読をつけると返信しないといけないから、面倒くさくて放置していた。高三の親しい友達(女子五人と陽向)のグループラインだから、誰が見てないかわからないし。


「ちょっと見ちゃったんだけど……」から始まる文章は、いわゆるゴシップ系だろう。彼女らのうちの一人は北海道の大学、二人は関東の大学と専門学校、残り二人は地元に残った。ラインの発信源は地元の一人だ。

 グループのトーク画面を開くと、四人が好き勝手喋っていた。


 パーッと流し読みをしていると、どうやら話のネタは陽向の彼女(すでにあまり彼女という認識は陽向にはないのだが)の亜美についてらしい。どうやら、GWの最終日に亜美をラブホで見かけたということだ。しかも相手はガチマッチョの外人だったと。


(なるほどなるほど。久しぶりにヤッた時、なんか弛くなったと思ったけど、バージン相手にした後だからそう感じるのかなって思ってた。まさか、ガチマッチョの外人のせいとはね。っつか、あいつ病気とか貰ってないよな? )


 彼女に浮気をされたというショックは全くなく、陽向が心配したのは別のことだった。今のところ何も症状はないが、調べた方がいいかもしれないと、陽向は舌打ちする。

 もちろん最初から最後までゴムはつけたが、万が一ということもある。

 まだ大学の女友達は純然たるお友達で、気軽にできる相手かどうかは様子見てる最中なのは良かった。もし病気とか貰っていて、それをうつしたりしていたら洒落にならなかった。主に、陽向の大学生活がだ。


 ちなみに、つい先日関係を持ったバイトの先輩である華については頭からスッポリ抜けていた。


 見た目可愛いワンコ系男子は、最低最悪なイケチン野郎であった。









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