第13話 遊園地デート3

(今までの彼氏? 

 彼氏なんていたことないけど)


 告白されたことがない訳じゃない。というか、頻繁に好きだとか付き合って欲しいとか言われてきた。しかも、話したこともない人からがほとんど。

 正直、見た目や身体目当てとしか思えなかった。だいたいの人が、顔見てすぐに視線が下がる。見ている場所なんか丸わかりだ。 

 胸だ。

 別に胸を強調する服なんか着たことないし、露出狂でもあるまいし谷間を曝け出している訳じゃない。なのに、彼らは大体が顔を見た後は胸を見る。チラチラ見られる場合もあれば、ガン見されることもあった。そこに咲良の顔はないと言うのに、胸に向かって告白してくる男もいた。

 そんなあからさまな態度を受けて、告白を受ける女子がいるだろうか?


「女子校だったし、出会いとかなかったから……」


 別れたと言っていたが彼女のいたことがある陽向だ、この年齢で彼氏がいたことないとか、もしかして引かれる案件ではないかと、咲良は言い訳するように言ってみる。


「マジかぁ……」


 いつもはニコニコ笑顔を絶やさない陽向が、珍しく無表情でマジマジと咲良を見ている。やはりこの年で彼氏がいたことないとか変なのかと、咲良は内心冷や汗をかいた。


 陽向に何人彼女がいたかはわからないが、明らかに女子に対する態度はなれている。自然に手をつないだり、とにかくパーソナルスペースが近い。家族や親しい友人、もしくは恋人でなければ、嫌悪感を抱いてもおかしくない距離感を、スッと詰められる陽向の女子に対するポテンシャルの高さ、さらに見た目の可愛さから彼女なんて十人や二十人いてもおかしくない。(ある意味正解。身体の関係だけで言ったらそれ以上いるだろうから)

 そんな陽向からしたら、誰とも付き合ったことのない咲良が野暮ったく思えるかも……と考えると、なんとも居た堪れない気持ちになる。


「女子校だとね、ほとんど彼氏とかいない子ばっかりなのよ。彼氏がいたのなんか、クラスで数人……五人もいなかったと思うし」

「へぇ、そうなんだ……って、あっ!」


 いきなり大きな声を出した陽向に、咲良もビクリと身体を揺らした。

 陽向は観覧車の窓から外を眺め、ガックリと肩を落とした。明らかに落胆したその様子に、咲良も観覧車の外を見た。しかし、特にかわった風景もなく、観覧車がてっぺんを越えてゆっくり下がっているだけで、それでもまだ高さはあり、何かが見えなくなったという訳でもなさそうだ。


「どうしたの? 」

「頂上で……したかったのに! 」

「え? 」


 頂上と言うからには観覧車が一番高いところにきた時に、何やらしたいことがあったようだ。話していたせいで、その機会を逸してしまったらしい。

 写真でも撮りたかったんだろうか?


「もう一回乗る? 」

「……いや、また次に来た時にチャレンジする! 次も一緒来ような」

「うん」


(やった! 次もまた一緒に来れるんだ)


 さっき下がったテンションが急上昇する咲良だった。


 ★★★


 咲良の初彼が自分であるという衝撃の事実に、気がついたら観覧車は頂上をわずかに越えてしまっていた。

 頂上でキスしようと思っていたのに、なんという失態!!!


 初彼が陽向であるなら、ファーストキスだってまだ(付き合った時に頬にキスはしたけれど)なんだろうから、絶好の初キスのタイミングだったと言うのに。陽向的には、誰に見られていても、どこでだってキスくらいはできるが、慣れていない咲良からしたら、観覧車の上の箱から覗いて見られるような環境での初キスはレベルが高いだろう。しかも、咲良が美人過ぎるせいか、前後の箱に乗っている乗客が風景を見るのではなく、陽向達の乗っている箱をガン見していたのもあり、陽向は泣く泣く初キスを断念した。


 それから沢山乗り物に乗り、小学生のように遊び倒した。

 今までの彼女達とも、もちろんデートはしたことはある。陽向の気持ち的には、即Hで致したら解散で良かったのだが、甘々を求める女子も多かったし、Hするついでにちょっとお茶したりマックに寄ったり。デートと言われればデートだったのかもしれないが、基本目的はセックスだ。その過程であったり付属するだけの事柄。

 そんな陽向が、まるで小学生の時のようにはしゃいでしまった。咲良に彼氏がいたことがないと聞いてから、何故か咲良の初めてを安易に奪いたくないという、今までの陽向からしたら意味不明な気持ちが芽生えてしまったのだ。そうしたら、スキあらば……と仕掛ける気持ちがなくなり、予想外に遊園地が楽しめてしまった。


「すっごく楽しかった」

「うん、僕も」

「私……、家族以外と二人でこんなに長くいたことないかも」


 僕も、エロいこと抜きに女子と二人でこんなに長いこといたことなかったよ。……なんてことを考えている陽向は、人畜無害そうな純真無垢な笑顔を浮かべながら、咲良の手を握って歩く。見慣れた商店街を抜け、薄暗い住宅街へ足を向ける。夕飯時を過ぎ、子供は布団に入る時間、人通りはほとんどない。


「楽しかったね。店長様々だ」

「本当にね」


 いつもはクールでどちらかというと無表情気味の咲良が、フワリと微笑む。どこからどう見ても、老若男女人種問わずビューティーと称されるだろう咲良だが、今陽向の隣にいるの咲良は可愛らしい以外に言いようがない。


「……可愛い」

「?」


 ボソリとつぶやいた陽向に、咲良はどこかに可愛らしい物体があるのかとキョロキョロさせる。咲良の目に入るのは無機物の電柱くらいだ。


「……咲良が可愛すぎてたまらない」

「え? 私? 」


 ありえないとびっくり固まった顔まで可愛くて、陽向の心臓がバクバクしてしまい、咲良を直視することすらできなくなる。


(あぁ、……やばいくらい好きだ)


 咲良への好意は自覚していた。自覚はしていたが、予想外にやってきた初恋に、陽向の戸惑いも大きかった。彼女やその他諸々は今まで数多くいたが、やらせてくれる女子が好きなのであって、好きだから付き合うとか、好きだから身体を重ねたいなんて思ったことはなかったのだ。

 それが、咲良のことは好きだから触れたいとは真摯に思うのだが、自分の欲よりも咲良を大事にしたいと思ってしまった。こんな気持ちは初めてで、まるで小学生の恋愛のように、手を繋ぐだけでいっぱいいっぱいになってしまう。


「やだな、陽向君のが百倍可愛いじゃない」

「……可愛い……か」

「うん、憧れちゃうくらい」


 自分のキャラ的にアザト可愛いを目指してきた。可愛いは陽向的には最大の褒め言葉の筈なのに、咲良には可愛いじゃなくて……、カッコイイって思われたいとか!! ちょっと自分でも意味がわからない。


「断然咲良のが可愛い! 無茶苦茶可愛いから。僕の中では咲良が一番可愛いからね! 」


 自我崩壊気味になりつつ、陽向は耳まで赤くして言った。


「クスクス……、ありがとう。嬉しい」

「本当に本当だから」

「うん」


 陽向は咲良を抱き寄せてハグをした。いつも見れない咲良の微笑みは破壊力が半端なく、これが精一杯だった。

 やましい気持ちはないよと、身体を固くする咲良の背中をポンポンと叩く。咲良の良い香りと、柔らかい二つの丸い膨らみを意識してしまったのは、まぁ陽向が陽向であるとして勘弁して欲しいところだ。


「陽向君って、女子高生みたいにスキンシップするよね」

「しない。これからは咲良以外とはしないよ」

「彼女……(役)だから? 」

「彼女だからね」


 彼女役と彼女、二人はいまだに勘違いど真ん中にいた。























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クールでナイスバディな彼女は、実は可愛い系が大好きです 由友ひろ @hta228

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