その「技」を使うベクトルが、彼の今の本当の心を映す

身に付けた恐ろしい技術。
それは本当に、端的に、恐ろしいだけなのか。
シンプルに表層だけを捉えて、忌むべきものとカテゴライズしていいのか。
この物語は、それは早計だと投げ掛けてくる。
類い稀な技は、結局は、それを扱う人の心によって、いかようにも作用する、と。

技術の一面だけを捉えて、恐ろしいと断じてしまうのは、浅はかだ。
技術そのものを断罪してしまうのは、愚行だ。
そんなふうに、技を扱う人の心の置き所こそが大事だと、気づかせてくれる。

ダイナマイトが戦争激化の抑止力となる、という思いとは裏腹に、戦争の激化を結果的に招いてしまった、ノーベルの皮肉もそこにある、と。

深くて、胸に染みる結末を、軽妙なトリックで見せてくれる傑作。

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