《元気をだして》は時々聴こえなくなるから

大学生の《私》のもとに配達された《私》からの小包。段ボール箱のなかには手紙がひとつ、貼りつけられていた。彼女を励ます、他愛のない手紙だ。けれどもそこには私自身でなければ知らないようなことが書かれていた。彼女の懸念をよそに手紙は毎日のように配達され続ける。
彼女を元気づけてくれるそれらの手紙が、段々と心地よくなってきた頃、ある事件が起こる――

細やかなこころの揺らぎまで映しだす筆致。季節の風まで感じ取れるような描写のひとつひとつ。確かな筆力をもって綴りだされた物語に最後まで、惹きこまれ、暫くは読了感に酔いしれておりました……。
題名にある《カーネリアン》というのは天然石です。パワーストーンとしても人気があり、身につけている者を励まし、元気づけてくれる力強い幸運の護石です。ですが、所有者が心身ともに疲れきっているときにも「ポジティブ」な波動を送り続けてくるので、しばらく放っておいて欲しいときなどはいったんはずしておくのもいいのだとか。また立ち直りはじめたときに、身につけると復帰を後押ししてくれるみたいですね。

最後に……
人生にはさまざまなことがあります。
ましていまは何かと気掛かりの多い大変な時代です。現在、落ちこみ、なやんでいる御方もおられるでしょう。
ですが、どうか、わすれないでください。あなたに「元気でいてほしい」「いつでも笑っていてほしい」と想いを寄せてくれるひとがいることを。ほんとうにつらいときはそうした声が聴こえなくなってしまったり、励ましの言葉がわずらわしくなってしまったりすることもあるでしょう。けれどもちょっとばかりきもちが落ちついた後で振りかえれば……ああ、ひとりではなかったのだなあと想えるかもしれません。
わたしは、この物語を通して、そんなふうに語り掛けられたようなきもちでいます。