大学生の《私》のもとに配達された《私》からの小包。段ボール箱のなかには手紙がひとつ、貼りつけられていた。彼女を励ます、他愛のない手紙だ。けれどもそこには私自身でなければ知らないようなことが書かれていた。彼女の懸念をよそに手紙は毎日のように配達され続ける。
彼女を元気づけてくれるそれらの手紙が、段々と心地よくなってきた頃、ある事件が起こる――
細やかなこころの揺らぎまで映しだす筆致。季節の風まで感じ取れるような描写のひとつひとつ。確かな筆力をもって綴りだされた物語に最後まで、惹きこまれ、暫くは読了感に酔いしれておりました……。
題名にある《カーネリアン》というのは天然石です。パワーストーンとしても人気があり、身につけている者を励まし、元気づけてくれる力強い幸運の護石です。ですが、所有者が心身ともに疲れきっているときにも「ポジティブ」な波動を送り続けてくるので、しばらく放っておいて欲しいときなどはいったんはずしておくのもいいのだとか。また立ち直りはじめたときに、身につけると復帰を後押ししてくれるみたいですね。
最後に……
人生にはさまざまなことがあります。
ましていまは何かと気掛かりの多い大変な時代です。現在、落ちこみ、なやんでいる御方もおられるでしょう。
ですが、どうか、わすれないでください。あなたに「元気でいてほしい」「いつでも笑っていてほしい」と想いを寄せてくれるひとがいることを。ほんとうにつらいときはそうした声が聴こえなくなってしまったり、励ましの言葉がわずらわしくなってしまったりすることもあるでしょう。けれどもちょっとばかりきもちが落ちついた後で振りかえれば……ああ、ひとりではなかったのだなあと想えるかもしれません。
わたしは、この物語を通して、そんなふうに語り掛けられたようなきもちでいます。
不思議なことが起こります。
主人公——美紗子さん宛に美紗子さんから手紙が届くのです。
そしてその内容は、美紗子さんの生活をタイムリーに知る人でなければ送ることのできないものでした。
いったい誰がなんのために?
そういった疑問を抱えつつも、毎日届く手紙に元気付けられる美紗子さん。
しかし、あるときを境に、美紗子さんは手紙に対して不信感を持つように。そして——
田舎から上京して頑張る女子大生の日常と成長を描いたヒューマンドラマ。
この物語を彩るために用いられた筆致は写実的でありながら芸術的。緻密でありながら軽妙。
旋律のように流れる文章に身を委ねれば、春のうららかさと乾き、夏の日差しと雨の匂い、秋の憂いと実りを感じることができます。そうして冬に至るとき、そこに待つのは凍えるような寒さと寂しさだけではなく、心華やぐイルミネーションとクリスマスソングなのです。
人生とはつまり、四季の清濁を併せて呑むことだと、私はそのように思いました。
そう言えば、芳醇な四季を味わい尽くすような物語であるにもかかわらず、タイトルとキーアイテムになっているのはカーネリアン。石の名前ですね。
移ろうものと移ろわざるもの。
有機と無機。
この対比を読んだあとに考えてみるのもまた一興。
読んだあとにも楽しみのを残してくれるのも、この作品の素晴らしい点だと思いました。