何でも知ってる海石榴さんとのコメントの通り江戸時代の作者の知識が物凄い!
しかしながら、とても読み易く、内容が頭にすっと入って来るという稀有な作者の逸品!
書くのが極めて難しいと思われる北斎+娘のネタをリアル路線で描ききっております。
江戸の風俗や習慣が地に足のついた描写で描かれ、脳内に江戸の情景が蘇る。
プロ級じゃんと思ったら電子書籍で本も出されておられるプロの方でしたの落ちでした。
江戸時代は現代の我々から見ればファンタジー世界とも言えます。
時代劇を読んだことの無い方は、ファンタジー物として読んでみては如何でしょうか。
90歳まで描きつづけてまだ死のまぎわに
「あと十年、いや五年、描けたら本物の絵描きになれたのに」と残した
「ほんもの」の絵かき・北斎。
好敵手・馬琴と北斎の熱いやりとりの気持ちよさ
北斎の代筆もつとめたという絵師、娘・お栄と
女性の色気溢れさせる名筆・英泉とのひりひりと感じる恋の風情もかっこ良く
画狂人・葛飾北斎
「おのが絵と向き合って丁々発止、死に物狂いで切り結ばねばならねえ。
筆一本で、生きるか死ぬか、のるかそるかの真剣勝負だ」
-----------------------Ⓒ海石榴 / 別作・画狂残日録より北斎の言葉を抜粋
たまらない、えがきざまです。
この国を代表する絵師――葛飾北斎の名は有名です。しかしその娘、お栄という絵師まで知っておられる方は少ないでしょう。私の偏見かもしれませんが。
本作は、北斎のみでなく、そのお栄にもスポットを当てているのが白眉だと思います。
そのお栄が、北斎の生涯をまるで浮世絵の如く、ぱらりぱらりと捲るようにその過去のシーンを切り取って回想し、物語は始まります。
そしてこの時代の江戸の情景――その洒脱なところも汚いところも見たままをえぐり取ったかのような描写が見事ですね。
一幅の画のようであり、そうかと思えば長尺の、どこまでもつづくパノラマのように広がっていくこの物語、ご一読してみてはいかがでしょうか。