第10話2人目を消さんとする少女

突然の奇襲に対応できず、アリスは〈サウザンドリッパー〉の右腕を切断される。


「キャァァァァ!?」


吹き飛ばされる機体の中で彼女の悲鳴が上がる。

道路に激突し、横へ倒れる。

咆哮のサウンドを上げた〈サイコキメラ〉は追撃の右手の爪で貫きに掛かる。


「このぉー!」


そこにケンが両腕のチェーンソーアームを出撃させ援護するが、サイコキネシスによって弾き返される。


「え………ウソでしょ………」


驚くのも当然の反応だ。

サイコキネシスが使用できるのは数少ないと思っていたからである。

数少ないと言ってもアリスの物しか見たことしかないのでなんとも言えないが。


「哀れ、そして消えろ!」


貫かんとする少女が操る〈サイコキメラ〉の爪。


「させません!!」


そこにキーカーの放つトラップワイヤーが右腕に絡み付き、モーターで勢いよく引っ張る。


「邪魔を………するなぁぁぁ!」


〈サイコモーション〉が叫びと共に起動、パワーが増幅され逆に〈トラップリッパー〉を片手で引っ張り上げる。


「な、なんて力なんでしょう。念動力も使える相手、一体何者?」


疑問の発言に対して、モニターから〈サイコキメラ〉のコックピット内が映し出される。


「あなたは!?」


パイロットはなんと軍服を着たアリスとまったく同じ顔をした少女だった。


不機嫌に歪ませた表情をした彼女はまさにサムを見た時の兄妹と瓜二つだ。


『ふん、お前には兄妹に見えているんだろう。だがなぁ。私にとってこいつは倒す対象だ』


「倒す? そんなことさせる訳ないでしょ!」


道路に落ちたチェーンソーアームを姉を守るため、妹は必死に〈サイコキメラ〉に向けて撃ち放つ。


「そんな物、私には通じない」


だがサイコキネシスにより再び受け止められ、逆に回転する刃が〈チェーンソーリッパー〉に迫る。

コードで繋がっているため逃げる事ができない。

チェーンソーの回転を停止させ、コントロールをなんとか取り戻し腕に装着する。


「アリスお姉ちゃんを殺すなんて、絶対させない!」


「僕らの家族を殺そうなどと………思わないことです」


兄妹の友情は硬い、それでも殺さなければいけない理由が彼女にはある。


「私にはあいつを殺さなければいけない理由がある。お前達には理解できないだろうがなぁ」


サイコキネシスに〈サイコモーション〉が反応、メインカメラが赤く染まり、リミッターが外れると共に咆哮のサウンドが流れ出す。


「泣いてる。苦しそうに、泣いてる」


その咆哮はまるで悲鳴の様にケンには聞こえる。

パーツが軋み歪むことで彼女には機体が壊れて行くのが想像できてしまう。

そこに〈サイコキメラ〉は引っ張り出した〈トラップリッパー〉を投げ飛ばし、〈チェーンソーリッパー〉激突させようとする。


「そんな単調な攻撃、僕には通じません」


勢いが付いた機体からトラップワイヤーを道路に放ち突き立てるとモーターを起動し不安定な体勢から姿勢をすぐに安定させ地面に着地する。

相手の腕に巻いていたワイヤーを戻しすぐ様〈サイコキメラ〉のコックピットに向けて放つが、目では捉えきれないスピードで避けられた。


「目が追いつかないですね。ですがあれほどのスピードではパイロットも機体も持たないでしょう」


『その前に、お前達を潰す!』


操縦者は目を血走らせながら操縦桿を握り直し、〈トラップリッパー〉に向けてヒートホークを振り下ろす。


(もらった!)


まず1機を撃破したと思ったその時、仕掛けられたトラップワイヤー蜘蛛の糸に武器が引っかかる。

そのまま焼き切ろうとするが、その前にアリスが操縦する〈サウザンドリッパー〉がボロボロになりながら立ち上がった。


「行けー! 千本の刃サウザンドビット! 

あの敵をやっつけろ!」


〈サイコモーション〉が念動力に反応しカタカタとボックスから音を鳴らしながらビットを出撃させる。

千もの刃が〈サイコキメラ〉に向かって襲い掛かる。


「そんなオモチャで私を倒せると思うなぁぁぁ!」


ヒートホークを捨て、リミッターが解除された敵のスピードは凄まじく、あっという間に距離を詰められる。


「消えろぉぉぉぉ!!」


右爪による攻撃がコックピットに命中すると思われた。


しかし突然右腕パーツから亀裂が入り、砕け散る。

オイルが飛び散る光景を一言言うならば、自業自得としか言えない。


「なに!?」


〈サイコモーション〉により増幅された力に素体である〈サイコキメラ〉のパーツが耐えきれず、自身を破壊した。


「身を滅ぼしましたね。悪いですが、兵器に乗っている者には死を与えることを兄妹で誓っているんですよ」


『ここで死んでたまるか! 私は! 私は!』


パイロットの意気とは裏腹に機体が膝から崩れ落ちる姿がとても惨めに思える。

何も言わないままケンはチェーンソーを回転させ、バックパックを起動し〈サイコキメラ〉に近づかんとする。


「これ以上兄妹の死ぬなんて、嫌だー!」


怒りの叫びを上げながら、ケンは故障した敵機に突っ込んでいく。

すると腹部のハッチが開き、少女が脱出するのを確認した。


「逃がさな………」


アリスが急いで千本の刃サウザンドビットを使いパイロットを狙おうとするが、そこに割り込むように2機の〈ビーストキメラ〉達が現れアサルトライフルを連射される。


「邪魔しないで!」


ビットで銃弾から兄妹を守り、逃すまいとメインカメラで捜索する。

だが逃げ足が速く、すぐに見失ってしまった


「ダメ、見つからない」


『仕方ありません。アリス、ケン、今いる人達のお相手をしましょう』


『分かった。でも次会ったらあいつは必ず倒してみせる』


アサルトライフルが弾切れを起こした〈ビーストキメラ〉達がヒートホークをバックパックから引き抜き、咆哮のサウンドを流すのだった。



一方サムとトローはベニーを駅前に送り、すぐに戦場へ戻って行く。


「サム、俺達は世間にとって犯罪者だ。国を守るための武器を破壊し、兵士を殺していく殺戮者なんだよ」


「今更だなトロー。もう罪は拭えない。それぐらい分かっているさ」


彼は浮かない顔をした死神の発言に真剣な眼差しでメインモニターを観つめ、操縦桿を動かす。


「そう言うことを口にするとは。あの女性と何かあったのか?」


「あいつは俺達の事情を知らない。いや、知らなくていい」


「トローが言いたいことがよく分からん。まあこれ以上は追求しないでおく」


気まずい空気のまま戦場を移動して行くと、アリスにそっくりの少女が走り抜けるのが見えた。


「アリス? いや、アリスは今ケンとキーカーと共に〈ファング〉の機体を撃退しているはずだ。なぜ単独で動いている?」


「しかもあの軍服はシンキの物。とんだそっくりさんもいたもんだぜ」


瓜二つな人間は世界には3人いると言う。

だが果たしてこれは偶然なのか、サムは今後のためにも敵は排除しようと〈ソードリッパー〉の頭部にあるビームバルカンの銃口を少女に向ける。

だがそこにトローが待ったを掛けた。


「やめておけよ。この戦場には警察や軍人がウヨウヨ居やがる。そいつらと戦いたくないなら、そっくりさんを殺すのはあとにした方がいいんじゃないか?」


「………分かった」


説明を聞いて一息漏らしながら納得するサム。

もしここで殺せば警察などに見つかった場合確実に戦いへ発展する。

それは今避けなければならない。

そう言っている間に少女が見えなくなり、歯がゆい思いをしながら先に進む。


(なんだろうか。駅に行ってからトローの様子がおかしい。やはりあの女性と何かあったのか?)


顔には出さずに考えを巡らせるが、頭の中での追求をやめる。

仲間とは言え信頼関係をまだ築いたばかりだ。

それを自分から破壊する必要はない。


「3人を視界に入れた。どうやら2機の敵に攻撃されているようだ」


リッパーシリーズの周りで〈ビーストキメラ〉の残像を残すほどのスピードでヒートホークを振り回している。


「それじゃあたのんだぜサム。敵に奇襲を仕掛けてやれ」


バックパックを起動すると大剣の刃から光を放出させながら構え直し、相手の背中から振り下ろす。


切り裂かれた野獣は真っ二つに崩れ落ち、爆散した。


『サムさん、トロー、お帰りなさいませ』


「ただいま戻った。今更だが戦闘に参加する」


〈ビーストキメラ〉1機では到底リッパーシリーズ4機と戦えない。


「俺のここでの役目は終わった。まったく、天使様が扱える機体はどこにあるんだろうか」


天使と崇めている〈サイコキメラ〉のパイロットを逃す目的は果たした〈ファング〉のテロリストは残像を残し〈サイコモーション〉を回収、そしてその場から消える様に逃走した。


「敵の逃走を確認しました。後始末は軍人に任せましょう」


キーカーの指示に全員帰還を行う。


「兄貴、戻ってた時にアリスのそっくりさんを見たんだけどよぉ」


『あの子の情報は私にもありません。分かっているのはアリスを狙っていること。今度会ったら確実に仕留めなければいけないでしょうね』


表情はこんなにも柔らかいのに、妹を殺されかけたことに対しての憎しみを感じさせる。

しかし敬語の裏にある暴言に、サムとトローは気づきもしなかった。



ここはシンキの自衛隊基地にある隊長室の前。

そこにはチームレッドの生き残り、デイガーが呼び出されていた。


(なんだろう。まさかリッパーシリーズを1機も撃墜できないまま逃げて来たからってクビにされるんじゃあ)


クビになる不安に頭が重くなりながらも、ドアをノックする。


「デイガー・ダイナス兵です。失礼します」


『入れ』


隊長の命令に従い出入り口を開け、部屋に入る。


「〈ファング〉がインギロスを襲撃した。この意味が分かるか?」


「それは、あのテロリスト組織に支援する者が現れた。と言うことでしょうか」


「その通り、大統領がシェルターに入ってからあいつらは活発化した。しかも大統領府の人間が全員殺害された事件。あれを起こしたのは紛れもなく〈ファング〉だ。何かがあるのは間違いない」


まさかビーレ大統領があの野蛮やばんな野獣達と手を組んだのか?

そんな考えがデイガーの頭の中で過ぎる。


「だがそんなことは国民でも知っていること。これからが本題だデイガー兵」


「はい」


「〈ファング〉に拘束されている大統領を救出。そのために兵士を集めている」


予想外の発言に目を丸くすると、隊長はため息吐く。


「なんだその目は。まだ大統領が神と我々を裏切ったとは限らんだろう。とにかく救出には人材が必要だ。シェルターに謎の人型兵器が何機かいるのが情報で入ってきている。デイガー兵、お前には救出作戦に参加してもらう。良いな?」


「はい! 分かりました!」


「うむ、戻ってよし」


これから始まる救出作戦。

デイガーは隊長室から出ると、急いで自分の機体である〈ペガサス・チームレッド仕様〉を待機させている武器庫に向かう。


(俺も兵士なんだ。この任務、必ずやり遂げる)


戦いに向けて決意の固め、整備士に軽い挨拶をするのだった。

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