第11話反逆者は強奪者である

右腕を失った〈サウザンドリッパー〉。

アリスとケンは痛々しいその姿を見ると、改めてあのテロリスト集団に殺意が湧いてくる。


「ケン、本当にあいつは私とそっくりだったの?」


「うん。わざわざ自分の顔をモニターに映してたからはっきり覚えてる」


妹の正直な言葉に姉はニヤリと笑う。


「じゃあとりあえず〈サウザンドリッパー〉の右腕を直しにインギロス軍の武器庫を漁っちゃお」


「で、何時ぐらいに行く?」


「そうだね。やっぱり夜が1番じゃないかな? あいつらもさすがに鈍くなってる時間でしょ」


計画を建てる2人のはしゃぐ声を御守り担当になったサムはバッチリ聞いていた。


彼女達をここで失ったらキーカーに何を言われるか分からない。

何より子供の命がなくなる。

そんなことは黙っていられない。


「ならば俺も………」


彼が後ろから口を開くとその場に叩きつけられ、動けなくなった。


「うぐ………」


「シジお兄ちゃんを殺したあなたに〈ソードリッパー〉を動かす資格なんてないんだから。しかも盗み聞きしてるし」


まだサムを許す………いや、許す訳がない。

最愛の兄を殺した犯人に御守りなどされるなんてたまったもんじゃない。


「アリス、君がそこまで俺に〈ソードリッパー〉を乗せたくないのなら、インギロス軍から別の機体を手に入れさせてもらう。そのためにも同行が必須だ」


〈ソードリッパー〉を手放す?

その条件で同行することを許していい物か?

考えを巡らせ大きなため息を吐くと、アリスはサイコキネシスを解除した。


「そこまで言うなら一緒に来ていいよ。ただし絶対に〈ソードリッパー〉を私達ザ・リッパー兄妹に返すこと。分かった?」


「了解した」


こうしてサムは3機のリッパーシリーズに購入してあったガソリンを注ぎ入れ、夜に備えるのだった。



こちらはインギロスの兵器格納庫

ここではシンキから国民を守るため、新兵器が開発場から配備されていた。


それは〈ソードリッパー〉を思わせる青き新機体、その名は〈パラサイトブレイド〉。

その姿はまるで機体が鉄の寄生虫に支配されたが如く全身に刃がそこらじゅう搭載され、ヒートホークと同じくビームを展開することが可能である。

接近戦用の武器を機体に取り付けることで両手が開くのでシールドや遠距離武器を持たせることができる。

強力な頭のビームバルカンは健在、バックパックの出力も〈高機動型アンカー〉を超え〈ビーストキメラ〉と渡り合えるほどになった。


「どう言うことだ! これは強奪されたリッパーシリーズにそっくり………いや、その後継機こうけいきじゃないか!」


怒鳴り声に驚くメカニック達。

その張本人はこの中では古株の整備士、アイアン・ボーナだった。


「これが国を守る機体だと? ふざけるな! ワシはこんなもん整備せんぞ!」


インギロスの国民にとってリッパーシリーズは世界を脅かす恐怖の象徴しょうちょうであり、愚弄の根源だ。


その後継機などもってのほか、そう整備士一同そう思っている。

発注した隊長は声を聞きつけ、アイアンに駆け寄る。


「我々には優れた機体が必要だ。それを乗りこなせるパイロットもだがな。そのためにもシュミレーターと模擬戦を行うことは大統領からも許可が出ている」


「お前さんはあいつらがこの世でなにをしたか分かるか? 防衛のための機体や武器などを破壊し、悪魔と化したあの兵器達リッパーシリーズを」


睨み付ける老いぼれに呆れた様に目を細める。


「それは操縦者の問題だ。あの犯罪集団に渡らなければ必ずや国を守ることができる」


「どうだかな。昨日の戦闘でおそらくあいつらも損失を受けているだろう。だとしたら………」


「そんなことは絶対にさせない。軍人をなめると痛い目に合う。その事を教えてやる」


アイアンの言葉を遮り隊長は拳を作ると、〈パラサイトブレイド〉を強奪させんと言う意志を固めるのだった。



夜、〈ソードリッパー〉〈サウザンドリッパー〉〈チェーンソーリッパー〉がアイアンの予想通り軍事施設を襲撃してきた。


なんとしてでも〈パラサイトブレイド〉を取られてはいけない。

〈高機動型アンカー〉の部隊は新兵器を奪われることを死守するべくビームライフルで射撃するが、襲い掛かるチェーンソーアームの餌食になる。


「私と仇は武器庫に向かうから、ケンお願いね」


「分かった。気をつけて行ってね」


ケンにその場を任せ、武器庫へ向かうアリスとサム。


「させるかぁぁぁぁー!!」


その光景を見た1人の兵士が両腕のブレードを展開し、悪魔2人に突っ込んでいく。


「邪魔」


サイコキネシスによって〈サイコモーション〉が起動、〈千本の刃サウザンドビット〉がカタカタと音を鳴らしながら動き出し出撃すると〈高機動型アンカー〉をはちの巣にした。


「なんとしてでもあいつらを止めろ! これ以上被害者を出すな!」


『はい!』


指揮官の命令に兵士達の指揮が高まり、チェーンソーアームによる攻撃をサイドステップで躱しつつビームライフルで射撃しようとするが、〈千本の刃サウザンドビット〉での守りが硬く狙いを定められない。


その隙に武器庫の中にサムとアリスは入り口を破壊し侵入すると、そこにはインギロスの新機体〈パラサイトブレイド〉やリッパーシリーズに互換性がある機体達が待っていた。


「これは………」


「どうやら、軍はリッパーシリーズをまだ捨てきれなかったみたい。私の超能力で〈ソードリッパー〉と〈サウザンドリッパー〉用の右腕を動かすから仇はさっさとこいつに乗っちゃってよ」


「分かった。手早く済ませるぞ」


サムは機体の姿勢を低くしコックピットから降りると、点検中であろう新兵器に乗り込む。

ハッチを閉めコントロールパネルに触れ、〈パラサイトブレイド〉を目覚めさせる。


「コード、パラサイトブレイド。それがお前の名か」


モニターに映った起動時のコードネームを読んだ後、メインカメラの映像を観て〈高機動型アンカー〉達が待ち構えてるのを確認した。


『2人共ごめんなさい。敵を倒しきれなかった』


ケンの通信を聴きサムは「謝る必要はない。丁度ぶつを入手したところだ」とボックスに入っているシールド、そしてビームライフルを手にし銃口を敵に向ける。


「下がっていろケン。手に入れたビームライフルで敵を撃ち抜く」


無謀な発言に彼女は思わず「えっ………」と口に漏らす。

もしこんなところでビーム弾を撃てば弾薬などに命中した際大爆発を引き起こす。

それを分かっていてやるならば、止めなければならない。


『武器庫の中で撃つなんて無茶だよ!?』


「無茶を通さなければ生き残れない時もある」


ターゲットをロックオンしビームライフルのトリガーを弾くと、ビーム弾が発射され〈高機動型アンカー〉を貫いた。


「バカな!? リッパーシリーズは恐怖を感じないのか!?」


兵士の1人が叫んでいる間に背後からチェーンソーアームで貫かれ、爆散した。


「背後の部隊はどうした!」


『全滅です!』


その一言に指揮官は思わず絶句する。

この短時間で優秀ゆうしゅうな兵士が搭乗している〈高機動型アンカー〉が全滅したことに驚きを隠せなかった。


「私とこの子を無視するなんて、いけない人達」


チェーンソーアームがまるで獲物に喰らいつく蛇の様に次々と撃墜していく。

さらに一気に加速してきた〈パラサイトブレイド〉が繰り出すレーザーブレードによって両断され、危機的状況だ。


「悪いが、俺の目的を阻むならば容赦はしない」


『それじゃあこのまま帰るよ。これ以上居る理由もないし」


アリスが〈サウザンドリッパー〉に右腕を装着させたのでリッパーシリーズの2人はモニター越しに相槌あいづちを打ち、その場から撤退する。

刃の悪魔を逃すまいと1機の〈高機動型アンカー〉がビームライフルの銃口を〈パラサイトブレイド〉に向ける。


「リッパーシリーズに奪われるぐらいなら、この世から消してやる!」


トリガーを弾き、発射されるビーム弾。

しかし発射音に気づいたサムはすぐ様後ろを振り返りシールドで防ぎながらビームライフルで射撃、撃破される。

これ以上の被害を出さないため、指揮官は攻撃を中止させた。


部下を失う辛さは誰よりも知っているつもりである。

だからこそ彼に映ったリッパーシリーズの後ろ姿を視界に入れると、拳を握り大きな叫びを上げるのだった。



リッパーシリーズから降りた彼らは隠れ家に帰還すると各々の部屋に戻って行く。

その内のサムが自分の身勝手な行動に懺悔ざんげの言葉を寝る前に口に出す。

悪魔に成り切れていない自分、神に見放されているのかどうかも分からない不安な自分、今の現状を乗り越えていかなければならない自分。


「俺は悪魔になったはずだ。誓ったはずだ。なぜ今更神に懺悔をしている? 自分の国を救うためと他の国を襲った者を救ってくださる訳がない」


ベッドの上に寝そべり口にした言葉は迷いばかり。

寝付けないまま20分が経過すると、入り口のドアからノックが聞こえてきた。


『サムー、ケンだけど寝付けないからハチミツ紅茶作ってよ』


彼女の要望に応えるためベッドから立ち上がりドアを開ける。

フリフリが付いた可愛らしいパジャマ姿を見た彼は(研究者の娘なのだからお嬢様らしい服装をするのは当たり前か)と自己納得する。


「来た来た。早くキッチンに行こうよ」


「そう急かさないでくれ。戦いの疲れを残したくないんだ」


急がせるケンに頭を右手で支えながら階段を下りて行くと、そこからキッチンに向かう。

そこにある2つのカップにケトルで温めたお湯を注ぎ入れ、紅茶のパックを漬ける。

十分色が付いたところで引き上げると冷蔵庫から取り出していたボトルに入った蜂蜜はちみつをスプーンで溶かし入れ、ゆっくりとかき混ぜた。


「お待たせした」


「ありがとう」


リビングにあるテーブルのイスで座り待つケンへ紅茶が入ったカップを届け、自分も席に座りフーフーと息で冷ます。


「いただきます」


「召し上がれ」


2人は紅茶を一口飲むと、話はケンと言う名前ついて。


「私ね、自分の名前が好きじゃないの。だってどこかの遠い国じゃあ男の人の名前なんだもん」


「親が付けてくれた名前なんだ。きっと由来があるんだろう。そんなこと言ったら親とは血のつながりが俺にはない。それでも大人になるまで育ててくれたシスター様に感謝している」


「サムって教会で育てられたの? だとしたら罰当たりだよね。まるで神話に出てくる堕天使みたい」


純粋な発言に苦笑しつつ「そうだな」と子供に対して大人の一言口にし、紅茶を味わうのだった。

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