第6話不死鳥に成れず、鬼神に成れず

チームレッドのインギロスへの襲撃。

それを知ったサム達3人は各々の機体に乗り込み、バックパックを起動する。


「ケン、あいつらの機動性はかなりの物だ。〈チェーンソーリッパー〉の破壊力で確実に仕留めてくれ」


トローの指示を聞きケンは首を縦に振り「なんとかする」とそう言って燃える町を駆け巡り、攻撃を行なっている赤き機体達を視界に捉える。


「見つけた。真っ直ぐに3機いる」


ターゲットを発見し、4本の腕に付いているチェーンソーを起動させ、バックパックによる加速で突き進む。


「よし! サム、俺達も行くぞ!」


「分かった。抜かるなよトロー」


死神の張り切った声にサムは冷静に背中の電磁マグネットを停止させ、大剣の持ち手を強靭な右手で掴む。


そして構えを取り直し〈フェニックス〉に向かって剣先で貫くべく、突進して行く。


攻撃に気づいたチームレッドはイフリートを地面に落とし、ビームサーベルを手にリッパーシリーズを迎え撃つ。


「来たなリッパーシリーズ。リーカン、デイガー、町破壊は一旦やめだ。これよりロボット壊しを開始する」


「分かりました!」


「あいよ」


それぞれ狙いを点け、戦いが開始する。

〈ソードリッパー〉が突っ込んでいく〈ペガサス・チームレッド仕様〉は剣先を躱し、右手に搭載された発射口から小型ミサイルを背後から射出する。


「あまい!」


だがブースターによる左回転で機体をすぐ様相手の向きに方向転換し、大剣でミサイルを切り裂く。


「接近戦では俺に勝てない。〈ペガサス〉では尚更な」


わざわざスピーカーから発言を放つほど、サムは敵に呆れていた。


今更〈ペガサス〉では倒されないと慢心しているのは自身でも理解している。

しかしそれは煽りも含めての発言、果たして引っ掛かるか。

そう思っていると無言で赤き翼馬よくばの翼が着脱され、陸戦を挑みに来た。


「なに? 機体の翼を落とすとは。天に見放されてもいいのか?」


翼を落とすこの行為、それはかつて自分が〈ソードリッパー〉を倒すべく必死の想いで行った物だった。


そもそも〈ペガサス〉にウィングがなぜ搭載され、着脱できるのか。

元々この機体はバックパックだけでは高空飛行ができないことが難点だった。

高空飛行ができれば長距離の運用が可能であり、この開発時には戦争を行う準備を整えているのが分かる。

その際に考えられたのは、バックパックにバーニアが複数搭載された翼を搭載することだった。


そのため本来戦闘に不必要である翼を着脱式することで、重量をいざと言う時に軽くでき機動性の向上が可能だ。


しかし戦闘後戦場から脱出できないことから、シンキ兵はこの戦いを毛嫌いすることが多い。


「あんたが、操縦している機体がどこまで強いか、新兵である俺には分からない。だが、その慢心が悲劇に繋がることを思い知ることになる」


操縦桿を強く握り直すデイガーは出力をバックパックに集中させ、凄まじいスピードで〈ソードリッパー〉に急接近して来る。


(このスピード。地上戦なら〈フェニックス〉より上か?)


そう、彼の〈ペガサス〉は〈フェニックス〉に着いて行けるようにチューンナップされたカスタム機。

移動速度は〈フェニックス〉と同等、いや、それ以上である。


右手に持ったビームサーベルを振り上げ、迫って来る〈ペガサス〉に対しサムはなんと右手から大剣を離す。

この判断に行き着いた理由、それは大剣ではビームサーベルを防ぐことができないからである。

光の刃は光の刃同士でなければ受け切ることはできない。

それを理解した上で今を戦っているのだ。


「戦場で武器を手放すことが、どこまで無謀なことか知るんだなぁ!」


振り下ろされる光の刃がコックピットを斬り裂かんとした時、〈ソードリッパー〉のビームバルカンが起動し、放たれたビーム弾は相手のコックピットに命中するもコーティングが施されているのか弾かれてしまった。


(効かない? ならば)


それは咄嗟の判断だった。


左手で相手の右腕を押さえ込み、巨大な右拳でコックピットへ殴りかかったのだ。


勢いよく繰り出された拳は〈ペガサス〉を大きく吹き飛ばし、地面に叩きつけた。


「新兵のお前には格闘戦はできまい。このまま仕留めさせてもらう」


落とした大剣を右手で取り、大きく振りかぶる。

そしてバックパックを起動し、そのまま両断しに掛かった。


一方でケンはその巨体から繰り出したチェーンソーをことごとくリーカンに躱されていた。


「いくら強力な武器であろうと、当たらなきゃ意味がないぜぇ」


敵を見下しながら上空へ移動しイフリートを回収、発射口を〈チェーンソーリッパー〉に向ける。


「終わりだ!」


引き金を弾こうとしたその時。


「接近戦だけがこの子の戦い方じゃない」


2本の左腕が〈フェニックス〉に向かって勢いよく飛んで行く。

ケーブルで繋がった腕はブースターによってさらに加速し、駆動音と共に機体を破壊しに掛かる。

思わぬ攻撃に対しリーカンは即座に飛行モードに変形し、上空へ上昇した。


「飛んで来るチェーンソーとは、これはたまげた。だがなぁ!」


イフリートを手にしたことにより、火炎放射で丸焼きすることができる。


「ビーフジャーキーに成りなぁ!!」


放たれる火炎は〈チェーンソーリッパー〉を直撃し、溶かしに掛かる。


「熱い、だけど」


チェーンソーが回転する2本の左腕がブースターによって上空へ上昇し、〈フェニックス〉の背後を貫く。

操縦者を失った不死鳥は地面に降下し、イフリートの火炎放射をまともに浴び大爆発が起きた。


チームレッドが引き起こした火事の被害を改めて見たケンは故郷を破壊されなにも思わないはずもなく、涙目になりながら強く操縦桿を握り〈チェーンソーリッパー〉の腕を引き戻すのだった。



一方で〈クローリッパー〉のパイロットであるトローは相手の機体に妨害電波を飛ばし、メインカメラから観えないようにしながら攻撃の機会を伺っていた。


というのも〈フェニックス〉の飛行モードでは鉤爪がまったく当たらず、無闇に攻撃を仕掛ければバックパックから鳴る噴射音で位置がバレてしまうからだ。


(仕掛けるのは今じゃない。待つんだ。相手が力果てるまで)


燃料は無限ではない。

だがそれは途方もない時間であり、〈クローリッパー〉のエネルギーが切れる可能性もある。

さらに警察や軍が向かっているはずだ。


武器を破壊すると言う目的を持つ彼ら、トローとケンにとって警察、そして軍は敵である。

焦りから冷や汗を掻き始めると、〈フェニックス〉が突如〈ソードリッパー〉の方へ突っ込んで行った。


「サム、敵機がそちらに向かった。俺が来るまで耐えてくれ」


『分かった。この〈ペガサス〉もどきにやられる前に頼む』


今まで優勢だったサム、しかしデイガーの戦闘センスの高さに翻弄されていた。


「リーカン先輩………あなたとの付き合いは今日までなかった。ですが、赤き不死鳥は死を見ぬ訳じゃない。引き継かせてもらいますよ。この赤く染まった翼馬よくばで!」


彼の言葉に同調するように〈ペガサス〉の速度はさらに上昇、ビームサーベルの光の刃が〈ソードリッパー〉を仕留めに掛かる。


「俺はヒーローじゃない。れっきとした犯罪者だ。だから………だからこそ………こいつと戦える!」


想いを力に変え、そして歯を噛み締めながらサムは店長から聞いていた対ビーム用兵装を起動させる。

すると大剣の刃が黄色く発光し始め、ビームサーベルによる攻撃を防いだ。


「なに!?」


衝撃の瞬間だった。


光の刃は光の刃でしか受け止められないはず、なのになぜ。

グルグルと回る思考の中で、援護にやって来たハモがイフリートの放つ火炎放射でハッとなったデイガーはスラスターによるバックステップで回避した。


『デイガー、相手は化け物じゃない。ただの人間だ。コックピットを狙えば勝機しょうきはある。お前も兵士ならそれだけは頭に入れておけ』


「分かり………ました………」


『なにを迷ってる。これは戦争なんだ。国の命令に従うのが兵士の務め。いくら新米でも学んだことだろう』


最初は自信を持って戦っていた。


自分ならできると思っていた。


だが今は違う。

あの大剣を持った悪魔はなんであろうと己を超えてくる。

あまりの敵機の強さに恐怖心が彼を暗く、引きった表情にさせた。


「俺は負けない! 生き残るんだ! うおぉぉぉぉ!!」


震える手が次第に決意の叫びによって収まり操縦桿を動かし、左、右へと小刻みに〈ペガサス〉を前進させる。


「死神のお通りだぁ!」


そこにようやく現場に到着したトローが相手に見えていないのを確認するとサムの前に立ち、〈ペガサス〉のコックピットに向かって鉤爪で刺し貫きに掛かる。


「デイガー! 敵機は透明化し攻撃を繰り出している! 速やかに………」


「敵の攻撃? しかし間に合いません!?」


バックパックの起動音に気付いたハモはデイガーに指示を与えるが間に合わないと判断、戦闘に割り込む様に戦闘モードに変形し、見えない死神へドロップキックを繰り出す。


「どこを狙っている?」


〈クローリッパー〉にジャミングされているのは〈ソードリッパー〉も同様である。

サムに見えているのは〈ペガサス〉に〈フェニックス〉が蹴りを繰り出している様子。

これはチャンスだと認識し、その強靭な右腕で大剣を不死鳥に向けて投げつけた。


後ろから貫きそして撃破したと同時に、トローの機体が自身の鉤爪で赤き翼馬よくばを引き裂こうとするが、直前に左サイドステップで躱されてしまう。


「ハモ先輩までやられた。相手の攻撃を忠告してくれたのに、それなのに俺は………なにもできないのか………」


たった1機で悪魔達に勝てるはずがない。


「うん? ケン、サム、時間切れだ。インギロスの軍がこっちに来る」


トローから軍が来ると言う知らせ。

それは撤退の時間である。


「分かった」


「了解」


絶望の中、3機がその場を離れて行くのを確認すると、同じく場から逃走した。


(あの悪魔達はいずれシンキを壊滅させる。それほどの戦力を有しているんだ。そんな相手に俺が勝てるのか? いや、失態を犯した以上国に何かしら罰せられる。どんだけ階級を落とされるか………)


ようやくパイロットに成ったと言うのにこの座間である。

デイガーはシンキに戻るため、戦場を後にする。

その後到着したインギロスの兵士が見た物は、悲惨な戦闘の爪痕だった。

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