第5話悪魔の過去、そして子供達に
ジャック・ザ・リッパー、殺人鬼として有名な彼はどんな人物だったのか。
それは100年以上も前、ジャックはインギロス国のロボット工場で働き、妻と2人暮らしをしていた。
ある日の事、戦争に使われる兵器開発に参加させられメカニックを担当していると、とある設計図に目が入る。
それは戦車でも戦闘機でもない、自立稼働型兵器の物だった。
戦争でこんな物が使われるとは、そう驚きながら作業を続けた。
この出来事がリッパーシリーズの製作に大きく関わってくるとは、ジャックも心の底から思っていなかった。
まず完成したのは近距離と中距離をメインとして戦闘を行うブラウンの機体〈モンキー〉だった。
武装はトマホークにマシンガン、装甲の高いシールドで身を硬めている。
だが当たれば即死と言うのは生身と同じ。
兵士達が〈モンキー〉に乗って戦闘に出ると思うと、メカニックとして不安になった。
(これも仕事だ。パイロットの事を心配してどうする)
仕事だと割り切り、機体を次々と作成していく内に妻から1通のメールが届く。
それはお腹に子供を授かったと言う喜ばしい知らせだった。
ジャックはすぐにケータイで電話を掛け、ニヤつきながら「良かった。本当に良かった」と大層喜んだ。
数ヶ月後戦争は激化し、機体の性能が
〈モンキー〉の後継機である〈モンキーⅡ〉を設計図通り量産していく作業員達。
(この国が勝とうが負けようが関係ない。それで幸せな生活が送れれば良いんだ)
ジャックの頭の中は妻と今後産まれる子供の事でいっぱいだった。
テレビで映し出されるニュースではインギロスが優勢だと言う一方で、戦争行っている両国に批判をする政治家達の声に耳が痛くなった。
(私も政治家からすれば大罪人なんだろう。こんな戦争、早く終わってくれ)
インギロスが始めたことではないこの戦い、しかし勝てばこの国も悪者扱いされるのだろう。
それが気に食わなかった。
彼の中で時間の経過がここまで遅いのは始めてだったからである。
それからジャックは兵器開発をしている内にとある計画が進んでいると言う噂をメカニックから聞く。
それはこの戦争が終わってからの内容で、新たに5機の自立稼働型兵器の設計図が書き起こしていると言う。
その場の者は全員理解していた。
インギロスは戦争をする準備をしているのだと。
それに対して否定的な考えを持ったのはジャック、たった1人だけだった。
しかしただのメカニックに意見する立場などない。
自分がやる事は機体を作り、それをパイロットに乗らせること。
家庭を持つ自分がボイコットなどできるはずがない。
そんな時だった。
突然敵国の機体がロボット工場を襲撃して来たのだ。
避難するため走るジャックに迫って来る1機の機体。
死にたくないと言う恐怖心から
「私には家族がいる! ここで死んでたまるかぁぁぁ!」
近くにあったトマホークを手にし向けられたマシンガンの連射をブースターによる上昇で回避、さらに上から振り下ろした刃が機体を両断した。
機体の損傷から吹き出すオイルを浴びながら、次の敵を仕留めに掛かる。
メインカメラに映った敵機に向かって急加速し、トマホークで叩き潰す。
あまりの優位な戦いに、ジャックは思わず身震いした。
(私は自身に恐怖を覚えている。悪魔と成らんとしている自分自身に)
2機の敵機を破壊した。
それはつまりパイロット2人を殺したことを示している。
自己防衛と言えば聞こえは良い。
だが実際に人を殺めている。
罪を犯したと言う実感が湧くのに、時間はそう掛からなかった。
(ザ・リッパーと言う名を汚したこの罪、許してくれ。いずれ産まれる子孫達よ)
もう後には引き下がれない。
〈モンキーⅡ〉を巧みに操縦し、次々と機体をまるで鬼神の如く破壊していった。
その後彼と乗った〈モンキーⅡ〉を見た者はいないと言う。
現代に戻り、ケンと呼ばれた少女と死神を名乗るトローに向けられる視線にサムは目を細めながらカップに注がれたコーヒーを息を吹き覚ましつつ一口飲み入れる。
「ケンさぁ、良いだろう。武器を無くしたいと言う想いはサムも同じなんだから」
「だとしてもシジお兄ちゃんを殺した張本人を家に連れ込むのは………トローお兄ちゃん、さすがに頭のネジ飛んでるよ」
2人は会話を聞いて自分が犯した罪は拭いきれない物だと改めて理解させられる。
家族が殺されると言うことがどこまで辛いことか。
サムにとって家族は教会の人達、もし同じことをされたら恨むのは当然のことだろう。
「とにかく。サムは俺達を頼ってくれた。戦争を終わらせるためにここまで来てくれた。目的は同じ、だろ?」
質問をしてくるトローの表情はいつでもこっちに来い、と言う自信有り気な顔だった。
冷ましたコーヒーを再び口に運び、飲み干すと、トローの顔を見つめる。
「あぁそうだ。俺は君達を頼ろうとしている。お願いだ。シンキ国を止めてくれ!」
頭を下げ2人へ頼み込む姿に、丁度帰って来たアリスは怒りの炎を激らせ叫びを上げた。
「アリスお帰り〜」
「トローお兄ちゃん! ケン! なんでこいつが家にいるの!」
甲高い声で放たれる質問に対しトローは鼻を鳴らすと、ゆっくりと立ち上がる。
「アリス、まだシジの事を引きずってんのか? 無理とは言わないがサムにもチャンスを与えてやれよ」
「トローお兄ちゃんはおかしいよ! 兄妹を殺した奴を招いて、その国を救うなんて!」
「どうせシンキを止めることは決まってただろう? いずれ兄妹以外の人間が戦力として必要になってくる。だからこそ今の内にスカウトしていかなきゃいけないんだよ」
戦いにおいて戦力が
兵士であるサムには理解できた。
しかし幼いアリスに伝わるはずもなく、混乱したまま「もう知らない!」と泣き喚きながら2階へと上って行ってしまった。
「こうなることぐらい分かってたはずでしょ。分かってなかったんならどうかしてると思うよ」
コーヒーを飲み、目を細めるケンの冷たい発言にトローは大きなため息を吐く。
頭を掻きながらリモコンでテレビを点け、ニュースがやっているチャンネルに切り替える。
『昨日の夜、ダンザのマイヤ州をシンキの機体である〈フェニックス〉が全焼させました。火は3時間ほどで消し止められましたが、多くの被害者を出しました。また同時刻にリッパーシリーズがその場にいたことから、彼らを追ってやって来たと専門家は推測しています』
〈フェニックス〉。
敵の機体の名を知り、サムは店長の笑顔を思い出す。
(店長。あなたは俺に物を売ってくれた。革命なんて無謀なことをしようとしている俺に。あなたが直してくれた〈ソードリッパー〉、存分に使わせてもらう)
拳を強く握り続きを観ていると、速報が流れて来た。
『速報です。シンキは新たに弾道ミサイル、〈
シンキの攻撃が止むことはなく、証拠隠滅をしようとする辺りおそらくチームレッドの作戦失敗の後始末を行ったように見える。
「杜撰なやり方だな。ミサイル1発で終わらせるなんてよぉ」
「シンキの武器、こうなったら全部破壊しなくちゃね」
「おぉ? ケン、ようやくやる気を出したか?」
トローの満面の笑みにケンは息を漏らすとサムに顔を合わせる。
「サム、私はあなたのために戦う訳じゃないよ。武器を破壊する。ただそうしたいだけ」
「それはツンデレか? いや、茶化すのはこれぐらいにして。シンキの武器はすべて破壊する。忘れるなよ。俺達がヒーローじゃないってことをなぁ」
冗談を言いつつ真剣な眼差しで見つめる彼に、サムは必ずシンキを止めると改めて誓い首を縦に振った。
一方その頃チームレッドは新しく配属された部下が挨拶にやって来たので厳しい眼差しで見定めていた。
20代の男性兵で短く整えられた黒髪、丸身を帯びた目、決意の闘志を燃やす黒き瞳、左頬に2枚の
「
ハキハキとした声で敬礼を行うデイガーに、ハモは表情を歪める。
(上の奴ら、俺達の部隊に新人を送りつけやがって)
手振り素振りで分かる。
こいつは新米の中の新米だと。
「俺の名はハモ、隣はリーカン。デイガー、俺達チームレッドの目的は他国を内部から壊滅させること。そしてリッパーシリーズをすべて破壊することだ。お前はこれから一般兵とは違う汚れ仕事をする事になる。覚悟は良いか?」
「はい! 2人の足でまといにならないよう、精一杯やらせていただきます!」
威勢は良い、威勢だけは。
これがどこまで続くか、
「上層部からインギロスにリッパーシリーズが侵入したと言う情報が入った。早速だが2人共、国を壊滅させながらリッパーシリーズを仕留める。いいな」
「はい!」
「分かった」
ハモの指示を聞きリーカンとデイガーは急いで部屋を出ると、自分の機体があるコンテナへ走り出す。
リーカンとハモの2機の〈フェニックス〉、デイガーの〈ペガサス・チームレッド仕様〉はシンキを出撃し、空を駆けインギロスへ向かう。
(ふん、一丁前に〈ペガサス〉を赤くして、イフリートまで積んでやがる。本当にデニの代わりになるのか、お手並み拝見だ)
新人の機体に対して上層部への怒りからリーカンは歯を噛み締め、仲間を死を思い出しつつハモについて行くのだった。
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