第7話ビーストキメラ
チームレッドがインギロスの州を襲撃してから2日が経過した。
無差別に国を襲うことを命令するビーレ大統領。
彼は平和の神を信じている国民からも批判を受けることは承知していた。
(私は神に逆らった。その自覚は確かにある………あるはずだ………)
戦争など誰も望んでいないことは知っている。
だがやるしかなかった。
あの悪魔達に従うしかなかった。
暗殺されない様に建てられたシェルターには自身だけではない、テロリスト集団〈ファング〉の者達が8人いる。
〈ファング〉とは、シンキの平和主義を真っ向から否定する過激派組織である。
彼らは戦いを望み、殺戮を好む狂った思想を元に集まった者達。
3年前、〈ファング〉はビーレ大統領を誘拐し、その他の人間は全員殺害、シェルターに閉じ込めた。
国民には一時的な物だと言わせ、完全に主導権を握られた。
指示を彼にさせ、戦争をさせる。
逆らえば殺されることは理解していた。
(誰も救いには来るはずがない。国民や他国には私が悪に見えているからだ)
悪に見られている。
信用を失った以上、神にも見放された自分には果たしてなにが今あるのだろうか。
と、前のドアからノック音が聞こえ気を引き締めながらネクタイを直し、立ち上がる。
「どうぞ」
ビーレ大統領の応答に対し、ドアが開く。
入って来たのは〈ファング〉の武装した2人、鋭い目をした30代男性のデンジョーと赤い淵の
お互いシンキの兵士が着用している白き軍服を着ており、それは今まで殺して来た兵士の物である。
「おいおい悪魔の大統領様、そんなに硬くなるなよ。俺達は戦いをしたいだけなんだからなぁ〜」
デンジョーの不敵な笑みから闘争心丸出しなのが分かる。
「君達はただワガママを押し付けているだけだ。今時戦争などと言う非人道的なことを望んでなんになる? 狂っている………本当に狂っている」
ビーレ大統領は死を恐れながらも、正義感と信念は持っている。
だがその考えを踏み
「私達はいつでもあなたを殺せる。そこのところは分かってもらいたい」
「ほーう。私が死ねば軍は動かん。戦争が終わるならそれも良いがね」
「痩せ我慢はよした方がいい、本当に死ぬことになる」
戦いに飢えたその眼差しは、本気の物だ。
これ以上反論すれば殺されるのは確実だろう。
そこにデンジョーが割り込み、ケラケラと笑い始める。
「やめろよバーズ。大統領の言う通り、まだ死んでもらっちゃー困る。戦争をまだ味わってないだからよぉー」
「ふん、まあいい。私達が戦える様になった時、それがお前の最後だ」
マシンガンの銃口を下ろし、真剣な眼差しを向けてくるバーズに、ため息を漏らすビーレ大統領。
「それで、私になんの様かね」
冷や汗をハンカチで拭い、イスに座り直す。
するとデンジョーはデスクに肘を当て、ニヤリと笑う。
「まあなんだ。リッパーシリーズにチームレッドがやられたって聞いてな。〈ファング〉の飢えた者達からその強者と戦いたいと通信が来た訳だ。そこで8人で考えたんだが。戦場に何人か出撃することになった。兵士は混乱するだろうけどよぉ〜。そこん所は頼むぜ」
相手はテロリスト達である。
反論すれば殺されることは理解している。
死にたくないと言う感情が彼の口を動かした。
「分かった………もう勝手にしてくれ………」
「オーケー。大統領から
スマホを取り出し、仲間に報告する間バーズがビーレ大統領に睨みを効かせる。
その瞳はまるで、飢えた狼がヨダレを垂らしながら獲物を待っているかの様だった。
こちらはリッパー兄妹に連れられてた隠れ家に帰還したサムは、〈ソードリッパー〉に燃料であるガソリンをポリタンクから注いでいた。
その姿に玄関から出てきたトローは目を丸くし、近づいて行く。
「サムはホントに細けぇよな。〈リッパーシリーズ〉なら1週間は保つぜ」
「戦いでいつガソリンが尽きるか分からない。だから常に準備してるんだ」
ガソリンを注ぎ終わり、機体から降りるとそこにはアリスがムスッとした表情で彼らを見つめていた。
(元々〈ソードリッパー〉はシジお兄ちゃんの機体。あいつが乗って良い代物じゃないのに)
彼女にとってシジは頼れる兄だった。
その機体を他人であり、ましてや殺した犯人に使われるのが信じられないのだ。
その姿をサムが視界に入れた途端、逃げる様に家に入って行く。
殺したいほど恨まれても仕方がない、そう感じながらも今後仲間として戦うのにこのままではいけないと認識した。
現在シジの部屋を借りて生活しているサム、それが余計に彼女を
「アリスはお兄ちゃん子だったからな、シジはあいつにとって俺やケンよりもくっついてた。その分反動がデカかったのは分かるんだが」
トローは苦笑気味にそう言うと、頭を掻きながら、ポストに入った請求書を手に取る。
「いつも通りの金額だな。じゃあATMに電気代とかその他諸々振り込んで来るから、サムは留守番を頼む」
「分かった。気をつけろよ」
「お前もアリスに殺されない様に用心しておけよ」
心配の眼差しを向ける死神はサムに背中を見せながら実家を後にした。
ATMがあるのはここから近くのバスで15分ほどの終点の駅。
〈フェニックス〉が起こした甚大な被害は及んでいない場所で、避難所として使われている。
避難民に指名手配犯である自分の素顔を見られない様、ツバが付いた黒い帽子と白のマスクを付け見慣れた道を進んで行く。
資金は今まで殺して来た兵士が持っていた
ここのATMはそれに対応しており、ポイントを通帳に送ることが可能だ。
(まったく。このカードがなきゃ生活費を払えなくなる。人の死で俺達は成り立っていることを理解する度、罪を重ねているのを実感するな)
カードと通帳を機械に装入しパスワードを入力、モニターを操作する。
(これで決定っと)
残金を送り、装入口から出てきたカードと通帳をしまう。
後ろを振り返りその場を後にするとスマホから着信音が流れ始める。
ジーンズの右ポケットからスマホを取り出すと、画面にはアリスの名前が記載されていた。
「もしもし、何かあったか?」
『大変! シンキの奴がまたこっちの州を襲い始めた!』
早口でなおかつ危機的な状況が理解できるアリスの口振りに、トローは兄としての責任を胸に秘めながら喋り始める。
「分かった。すぐに戻るからその間にできるだけ倒しておいてくれ」
『うん! トローお兄ちゃん早く来てね!』
通話が切られ、真っ先に心配になったのはサムだった。
(サムがもし戦場に出るとしたら、アリスに殺される可能性があるな。早く帰らないとまずい)
復讐鬼と化した彼女がなにを仕出かすか分からない。
死神は避難民の家に帰れると言う羨ましの視線に耐えながらその場を立ち去ると、バスが動かないことを察しつつ、長い道を進むのだった。
戦場で繰り広げられる銃撃と剣撃のぶつかり合い。
「こいつはシンキの兵士じゃない。凶暴性と狂気が明らかに違い過ぎる」
〈ソードリッパー〉を操縦するサムは敵の機体、そして戦い方が明らかに違う。
飢えた野獣の如く軽量化されたブラウンの装甲、ドラゴンの思わせる頭部には口が存在、腕は熊の剛腕にも勝る腕力を持ち、脚が細身でスラスターが両足に5個ずつ搭載されている。
バックパックには〈ペガサス〉とまた違う部品が搭載されており、起動性よりもパワー重視している。
その名は〈ビーストキメラ〉。
合成獣を模した機体に相応しいネーミングだ。
「まさか。あの〈ファング〉が襲撃して来たのか?」
『〈ファング〉って、シンキで暗躍しているテロリスト集団の事でしょう? そんな奴がなんでこのインギロスで暴れてるの?』
ケンの純粋な疑問に、サムは「分からない」と首を横に振る。
「武器を持つ者はすべて倒す。それがひいおじいちゃん達の想い。だから絶対に倒す!」
サイコキネシスに反応した〈サイコモーション〉によって2つのボックスからカタカタと出撃する〈
まるで巣を守る
「そんな単調な動きでぇ!」
〈ビーストキメラ〉のパイロットは叫びを上げながら機体のスラスターを起動させると走り出させ、残像が残るほどのスピードまで加速する。
あまりの速さにビッド達では追いつけず、〈サウザンドリッパー〉に向けてアサルトライフルの銃口を向けた。
「チィー!?」
無防備なアリスを守るためサムはブースターを起動させ、大剣を盾に彼女に背中を見せる。
「仇のくせに私を庇わないで!」
『そんなことを言ってる場合か!』
サムとアリスが仲間割れをしている間に引き金を弾かれ、銃弾が連射される。
攻撃を大剣によって防ぎ切るとバックパックを起動させ、接近戦に持ち込む。
「お前か、戦争を終わらせようとする裏切りの兵士は。いくら機体が違っても戦い方は抜けないようだなぁ!!」
「俺はお前の様な悪に知り合いはいない。ここで死んでもらう」
強靭な右腕から繰り出される剣技、それに対し〈ビーストキメラ〉は獣の咆哮を思わせるサウンドを響かせ大剣の刃を右手ですべてを弾き返した。
「フハハ! 所詮兵士は国の教えに囚われたまま戦死するのがお似合いだぜ!」
「黙れ〈ファング〉! 悪魔となった俺を、
サムは敵パイロットの煽りに激情し、バルカンを乱射しようとする。
が、頭部を掴み上げられ、さらに地面に叩きつけられる。
あまりの衝撃にコックピットの上で勢いよくバウンドする。
トドメを刺そうとする〈ビーストキメラ〉の爪。
その危機に駆けつけたのは、〈
敵機体をあっという間に蜂の巣にしオイルやガソリンを振り払うと、ボックスに収納される。
その光景にケンは驚きの表情を浮かべていた。
「アリスお姉ちゃんが、サムを助けた?」
「勘違いしないでねケン。私が助けたのは仇じゃない。〈ソードリッパー〉の方だから」
恥ずかしそうに言い訳を口にすると、アリスは剣を持った悪魔を立ち上がらせ、「帰るよ」と2人に一言言いながら隠れ家に向けて飛び立つのだった。
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