第8話5機目のリッパーシリーズ
インギロスの兵士が乗り込む人型兵器〈高起動型アンカー〉が〈ビーストキメラ〉とリッパーシリーズの被害を確認する。
「本当にまあやってくれるぜ。武器を無くすために武器を使うんじゃあ何も解決しないってのによぉ」
『リッパーシリーズもそうだが最近シンキの野郎に加えてテロリストの〈ファング〉の目撃情報もある。いつ襲撃されるか分からないな』
兵士達は3つの勢力の行動に呆れつつも、戦場の処理を行う。
「うん? なんかジェット音が聞こえないか?」
『それが敵の奇襲ならまずい! 背後から聞こえ………」
後ろを振り返ろうとする〈高機動型アンカー〉。
そこに〈ビーストキメラ〉が奇襲を掛け左手に持ったアサルトライフルを連射、コックピットに命中し崩れ落ちさせた。
「このテロリストが! ここで倒してやる!」
両腕のブレード部分を展開し、敵に向かって突っ込んで行く。
「国の兵士が! 一々
残像残しながら単調な動きだと
あまりの踏み込みの重さにメインカメラが破壊された。
「なっ、何も観えない」
視界を失った時点で彼の死は確定している。
上空で〈ビーストキメラ〉が背中に装備されているヒートホークを右手で掴み取り、そのまま勢いよく振り下ろす。
その強烈な破壊力にコックピットは破壊され、オイルを飛び散らせながら背中から倒れた。
「ハハハ! やっぱ兵士との戦いは物足りないぜ!」
パイロットは戦いを楽しみ、次の場所に移動しようとすると見えないなにかにぶつかった。
「なんだ? 機体がこれ以上進まねぇ」
不思議に思い後ろに退がろうとすると背後に気配を感じ、振り向こうとする。
その時だった。
金属が擦れる音とモーター音が聞こえた後、〈ビーストキメラ〉の全身が強く拘束される。
「どうやら、僕の
機体のスピーカーから流れる男の声に、過ぎったのは強者の声だった。
「お前がリッパーシリーズか………」
あまりのワイヤーの細さに視界に捉え切れていなかった。
まるで
「これで終わりです。武器を持つお人」
そう微笑むとワイヤーが強く締まり、〈ビーストキメラ〉を強引に縛り潰した。
爆発音が聞こえた他の〈ビーストキメラ〉3機が〈高機動型アンカー〉のコックピット部分を踏みつけながら咆哮を上げ、リッパーシリーズにアサルトライフルの銃口を向ける。
リッパーシリーズの名は〈トラップリッパー〉。
他の機体と同じヘッドにイエローのボディー、両腕にはトラップワイヤーが仕込まれており、これが最大の武器である。
モーターが搭載され、発射口から発射可能。
その威力は凄まじく、鉄板を貫通するほどである。
〈クローリッパー〉と同じ部品を腕以外は流用しているが、妨害電波を流すことはできない。
その分より軽量化に成功しており、より機動性が高くなっているのだ。
〈ビーストキメラ〉達がアサルトライフルを連射すると、リッパーシリーズは温めていたバッグパックを起動し上空へ飛び上がる。
「このキーカー、ザ・リッパー兄妹の長男として全力で参ります」
キーカー・ザ・リッパー。
27歳の男性。
ザ・リッパー兄妹の長男で元々はメカニックだったが親から託されたリッパーシリーズによって生活はがらりと変わった。
すべての武器を破壊する目的を変わらず持ち、現在シンキの機体をこのトラップワイヤーで切り裂き、貫いている。
そして今シンキから帰宅していたところである。
そんなキーカーは右腕のワイヤーを射出し、〈ビーストキメラ〉を貫こうとするが左にスライド移動され躱されてしまう。
だが地面に突き刺さるとモーターを起動、自身を敵機に急接近させる。
そして右腕のワイヤーを射出し、相手のコックピットに風穴を開けた。
「なに!?」
思わぬ奇襲の方法に他の〈ビーストキメラ〉のパイロット達は敵が強者だと改めて認識し、興奮した様子でニヤリと笑う。
アサルトライフルを投げ捨て、ヒートホークを
右手に一気に加速する。
そこに〈パートス・ブラック仕様〉2機が到着し、アサルトライフルを3機に向けて連射する。
「ザコが邪魔すんじゃねぇ!!」
野獣は咆哮のサウンドを流し、残像を残しながら繰り出されるヒートホーク。
「はっ、速すぎる!?」
あまりのスピードに目が追いつかない警察官。
〈パートス・ブラック仕様〉のコックピットは粉砕され、パイロット
スラスターを出力を上昇させ、次の弱者を狙う〈ビーストキメラ〉。
「こんなところで死んでたまるか!」
ビームサーベルを手にし接近戦へ賭けに出た警察官だったが、勢いよく投げられたヒートホークが縦回転しながらコックピットに直撃する。
「グワー!?」
爆発を引き起こした〈パートス・ブラック仕様〉から野獣は武器を引き抜き、再び咆哮を上げ〈トラップリッパー〉に突っ込んで行く。
(さすがにまずいですね。ここは援護が欲しいところです)
敵の戦闘力が今までの相手とは明らかに違うと気づいたキーカーは、兄妹に連絡を取ろうとする。
「ヘイ、メー」
スマホの音声認識機能メーに呼びかけると、ピロリンと言う電子音が流れる。
「アリスに電話させて」
『はい』
女性の音声と共に着信音が聴こえ始め、アリスの電話に繋がる。
「もしもし、キーカーです」
『もしもし、久しぶりだね。ちょっと聞いてよ。トローお兄ちゃんが………』
「それよりGPSを使ってこちらに来てください。インギロスに敵襲です」
兄の言葉に、驚きを隠せない彼女は思わず『ウソでしょ?』と動揺する。
「とにかく、早く来てもらえると助かります」
『わっ、分かった。すぐに向かうね』
電話がプツっと切られ一呼吸するキーカーは〈ビーストキメラ〉の攻撃を躱し続け、反撃のチャンスを狙うのだった。
一方その頃アリスとケン、そしてサムは各々の機体に乗り込み、スマホのGPSを確認しながらその場を後にする。
「まさかまだ〈ファング〉の機体がいるなんて」
ケンの不安そうな一言に気を引き締め2人に着いていくサムは操縦桿を強く握り、野蛮な野獣の言葉を思い出す。
まだシンキの兵士である事を拭えていない。
しかしそれは当たり前だと自覚する。
シンキを救いたい、その気持ちは2年経っても変わらない。
裏切り者と言われようと、反逆者と言われようと。
(俺はシンキが起こす戦争を止める。そのためなら、俺は悪魔に成る)
気持ちを新たに進んでいると、2機の〈ビーストキメラ〉とリッパーシリーズの1機が戦闘を行なっていた。
「あれが5機目のリッパーシリーズ」
『そう。あれがキーカーお兄ちゃんの機体、〈トラップリッパー〉よ』
ケンが説明しながら左腕のチェーンソーを発射すると、攻撃に気づいた〈ビーストキメラ〉の1機は即座に攻撃を躱し、喜びの咆哮を上げる。
「おい、リッパーシリーズが3機も来てくれたぜ」
「それは良いぜ! もっと俺達を楽しませろ!」
野獣達はバックステップで下がりながら、攻撃を仕掛けようとしている〈高機動型アンカー〉からアサルトライフルを奪い取り、後ろ蹴りでコックピットを破壊する。
「この野獣が。戦うためなら欲望を通すか?」
「あんた同じ様なもんでしょ」
アリスのツッコミに頭が上がらずなにも言えないまま大剣を構えつつ地面に降り立つと、サムは〈トラップリッパー〉に通信を入れる。
「こちら現在〈ソードリッパー〉を
『サム・イラバ? そうですか、君がシンキの反逆者の。僕はキーカー・ザ・リッパーと申します。ザ・リッパー兄妹の長男です。援護助かります」
挨拶を足早に済ませ、戦場を駆ける。
それと同時に〈サウザンドリッパー〉と〈チェーンソーリッパー〉も地面に着地、〈ビーストキメラ〉を全力で殺しに掛かる。
「行っけぇ!
〈サイコモーション〉によってボックスの発射口から出撃するビッド達、イワシの大群を彷彿とさせる集合体となった動きで敵機を襲う。
しかしそのスピードではすぐに躱されるのが関の山である。
「甘いぜ!」
残像を残しながら右スライド移動で
すると突然チェーンソーアームが騒音を鳴り響かせながら突っ込んで来た。
「だから、甘いんだよ!」
それでも余裕で回転する刃を躱し切り、アサルトライフルをアリスに向けて連射する。
「クウ!?」
思わず声を出し、〈サイコモーション〉で脳からビット達に自分を守らせる様に命令を出す。
すぐ様防御体勢に入り銃弾を防ぐと、再び攻撃に転じる。
「ケン、こいつらを必ず倒すよ」
『言われなくても』
バックパックの出力を最大まで引き上げ、〈ビーストキメラ〉に向けて2機は突撃する。
「完全にムキになっていますね。サムさん、2人は僕が」
『分かった。残りの1機は俺が倒そう』
「頼みます」
まだ会ったばかりだがこの戦場で判断を誤れば確実に死が待っている。
それにサムはキーカーから狂気に
モニターに映る作業着を着た金髪の男性キーカー。
優しそうな表情とは裏腹に、何人も武器を持つ者を殺してきたことが荒れた手で分かる。
それは返り血の鉄分が拭い切れず残った物だ。
そんな中銃口を〈ソードリッパー〉に向け、野獣がトリガーを弾く。
銃弾が次々と高速で射出されるも大剣を盾にし防ぎながら悪魔と化した元兵士は敵機に突っ込んでいく。
「俺は予告する。お前はこの剣技、一打で倒される」
「ホォー、まるで野球のホームラン予告みたいだな。それがウソか誠か、示してみろ!」
〈ビーストキメラ〉のパイロットは弾切れを起こしたアサルトライフルを投げ捨てヒートホークを握り直し、守りを堅める。
「一打ぁぁぁぁ!!」
繰り出される剣先による突進。
これを喰らえばひとたまりもないだろう。
(その程度の攻撃、いつでも躱せる)
咆哮のサウンドを流しながら高く飛び上ろうとする。
だが、動かない。
「ど、どうしたって言うんだ」
操縦桿を動かすがまったく反応しない。
拘束されている訳ではない。
最近メンテナンスしたので故障でもない。
ではなにが起きているのか。
「お前には分かるはずがない。神を信じず、戦いに没頭するお前には」
「チィ、これが神の奇跡だと言いたいのか!? グワァァァァァァ!?」
大剣によってコックピットが貫かれオイルが噴射する野獣、引き抜かれた刃から血液が滴り落ちる。
「神よ。感謝します」
教会での教え、必ず神は見守っている。
それを信じ生きてきたことが報われた。
そう解釈する。
いや、そう思わなければ自分が壊れてしまう気がしたからだった。
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