第9話銀の弾丸を恨む者
帽子を被り直すトロー。
そこは戦場ど真ん中、隠れ家に急ぐ彼を2度見したのは高校生の頃の同級生、ベニー・ローズワードだった。
三つ編みに金髪を結んだ女性で白いシャツの上に身軽そうなオーバーオールを身につけ、緑色のスニーカーを履いている。
背中には大きなリュックサックを背負い、中に水が入ったペットボトルとビニール袋に入れられたパンが詰まっている。
「トロー? トローじゃない。早くシェルターに避難しないとダメでしょ」
「俺は兄妹が心配だから帰ってきたんだ。ベニーこそどうしてここに?」
ベニーは彼がリッパーシリーズに乗っていることを知らない。
だからこそウソを吐いた。
知られたらおそらく警察に突き出されるだろう。
バレないよう言葉を選び、表情を誤魔化す。
「私は駅の避難所に食べ物と飲み物を配給しに来たの。そしたらシンキのロボット達の攻撃でこのザマよ」
「そうか。それにしても兵士達はなにをしてるんだ。戦うだけじゃなくて国民を守るのも本業だろうに」
トローの発言に彼女は重いため息を吐き、涙を流し始める。
「ど、どうしたんだよ?」
突然の事に動揺する彼の質問に対し、恐怖の現場を思い出すと耐えられなくなった心がベニーを突き動かす。
抱きつきそして身を預け、泣き声を上げる。
「軍人さんが目の前で殺されたの! 私の目の前で! 相手はまるでゲームを楽しんでるみたいに笑ってた! 絶対に許せない! 絶対に!」
「俺だってそうだ。相棒を殺した奴も、それを見てた奴らも、みんな楽しんでやがった。命の大切さを理解してない人間が大勢いる。それだけで嫌気を感じるぜ」
それは2年前、夜の軍事基地での事である。
〈クローリッパー〉で待機された機体を破壊していたトローのスマホに電話が掛かる。
それは高校の後輩で兄貴と慕われているプロレスラーの男性、ビッグ・サンダーレイからだった。
すぐ様連絡ボタンを押し、耳元に当てる。
「おっ、相棒。試合はちょくちょく観てるぜ。破壊力抜群のドロップキックとタワーブリッジじゃねえか」
『さすが兄貴! 分かってんなぁ! あっ、そう言えば次の試合、絶対観てほしいんだ! なぁ頼むよ〜』
弟分の頼みなら仕方ない。
そう思った彼は明るく笑みを浮かべ、「あぁ」と口にする。
「分かった。チャンネルと放送する時間を教えてくれ」
『観てくれるんだな! やったぜ! ちゃんとメモっておいてくれよぉ。じゃあ言うぜ』
ビッグに言われた通りメモアプリを起動し、画面のキーボードを素早くタップしていく。
「オーケー。俺に観せるんだから、必ず勝てよ」
『おう、任せてくれ兄貴! じゃあ試合の準備があるから、期待して待っててくれ!』
電話を切られ、トローは相棒との約束を守るため隠れ家に駆け足で戻るのだった。
試合は2日後の深夜、自分の部屋に入りテレビを点けリモコンでチャンネルを合わせる。
「よし、ビッグ頑張れよ」
CMが終わり、プロレス番組〈シャインオブクレイジー〉のオープニングが流れる。
この番組は多くのプロレスラーが出ることに憧れており、認められた者しか出演できない。
勝てばかなりの賞金が貰える上に知名度も上がる大事な試合だ。
登場するビッグに観客の声援が飛び交う中、現れたのはこちらも人気が高い覆面レスラー、名はシルバーブレッド。
由来は
リングインした2人はお互い構え、ゴングが鳴るのを待つ。
カン! 金属音と共に開始される彼らの戦い。
まず動いたのはビッグ、その後シルバーブレッドが背後のロープで勢いをつけ相手に突っ込んでいく。
(甘いなシルバーブレッド。俺の狙いはなぁ)
事前に攻撃パターンや癖は把握済み、繰り出される弾丸ストレートを躱し、右足による横蹴りを腹に浴びせた。
勢いをつけた結果逆にダメージが大きく………いや、シルバーブレッドは倒れない。
足で踏ん張りこの体勢からカウンターの弾丸ストレートが顔面に喰らい、ビッグはポールに大きく吹き飛ばされる。
「おかしい。プロレスラーとは言えあの蹴りを喰らって踏ん張れるはずがない。しかもあのパンチ、明らかに人間技じゃないぞ」
ビッグのキックは度々観るが、喰らった相手はあまりのパワーに悶絶するほど。
素人の目でも分かるシルバーブレッドの異常差、だがテレビに映る観客は大いに盛り上がっている。
ポールを登るシルバーブレッドに対しビッグのマネジャーはこれ以上の試合は危険と判断、ギブアップを宣言しようとする。
だが言う間もなくスペースシャトルが腹に決まり、血反吐を吐かせた。
ビッグのファンは騒然とし、マネージャーが倒れた彼に駆け寄る。
『ビッグ!? ビッグ!? シルバーブレッド! これは試合なんだぞ! 殺し合いじゃない!』
激怒と涙の発言に、シルバーブレッドは謝罪の言葉を言おうとする。
『シルバーブレッド、お前は勝ったんだ。勝者が語る必要はない』
そこに銀色の弾丸のマネージャーが口出しし、それと同時にゴングが勝利を宣言した。
その後映像がニュース速報に切り替わり、トローはビッグの死が頭に過ぎる。
「相棒が死んだって決めつけるのはまだ早い。きっと明日になれば分かることだ」
動揺で目が泳ぐ中、テレビの電源をリモコンで切りベッドに横たわる。
相棒は必ず復活すると信じ眠りに着こうとするが、不安でまったく眠れなかった。
次の日、寝不足に成りながら1階のリビングに向かう。
テレビに映っていたのは、信じられないニュースだった。
『昨日プロレスラーのビッグ・サンダーレイさんが、試合中に大ケガを負い、病院に搬送されましたが、その後死亡しました』
「ウソだろ。ビッグが………相棒が………」
愕然とし、テレビの画面をじっと観つめ固まってしまう。
「どうしたのトローお兄ちゃん?」
食事中のアリスが不思議そうに見つめてきたので「いや………なんでもない。へへ」と動揺しながら苦笑する。
「変なトローお兄ちゃん」
食事を再開する彼女になにも言えず自分もカレーが入ったレトルトの袋を水が入った小さな鍋に入れ、コンロの火を点け温めるのだった。
それから〈クローリッパー〉の事をビッグに準えて相棒と呼び始め、シルバーブレッドの活躍を観る度に恨みを募らせた。
現代に戻り、泣き止んだベニーにトローは彼女が言っていた敵に警戒し辺りを見回す。
「ベニー、とにかく駅のシェルターまで逃げろ。俺は家に戻る」
「カッコつけないで。私と一緒に行きましょ。ね?」
心配して言ってくれるのは分かるが、こちらとしては余計なお世話だ。
もしここでシンキの兵士に出会したら確実に殺される。
その正義感が無駄死にを呼ぶことに彼は恐怖を覚える。
そんな時だった。
なんと通りかかった〈ファング〉の男が背後からビームガンをニヤりと笑みを浮かべながらトリガーを弾こうとする。
引き鉄の軋む音に気づいたトローは「敵だ! 走るぞ!」と叫び、ベニーをお姫様抱っこしその場を逃走する。
「逃すかよぉ」
銃口を向け直し引き鉄を弾くとビーム弾が撃ち出され、彼の左頬を擦った。
「トロー、頬から血が………」
ベニーの心配の眼差しを向けられ、痛みに耐えながら笑みを浮かべる。
「気にすんな。それよりここは俺の指示に従ってもらうぜ。いいな」
「わ……分かった」
納得した様子で目を逸らし、戦場を見つめる。
(とりあえずベニーを安全なところに連れて行かないとな。相棒はさすがに見せられないが………さてどうするかぁ?)
トロー達がテロリストから追いかけられていると〈高起動型アンカー〉が〈ビーストキメラ〉に押し倒され、ヒートホークでコックピットを破壊する様子を視界に入れる。
(野獣にやられる軍人………か)
正直彼にとって敵が少なくなって感謝だが、彼女にとってトラウマが
そんな中目の前に現れたのはサムが操縦する〈ソードリッパー〉だった。
姿勢を低くし、コックピットを開く。
「2人共乗れ、安全な所まで送る」
彼の不器用な言葉にトローは安心の笑みを浮かべ、飛び乗る。
「だから逃すわけねぇだろぉ!」
〈ファング〉の銃口が向けられると、バルカンを連射し、あの世に
コックピットが閉まり、駅の方へ移動して行く。
腕から下されたベニーはサムの顔を見てニュースで観た指名手配犯を思い出す。
「あっ、あなた。シンキのロボット達を破壊してるって言う………」
「話をする余裕があるなら黙っていてくれ。舌を噛むぞ」
戦場での移動は死に繋がる。
敵に見つかれば一斉に攻撃されて終わる。
集中力を途切らせないようケンから貰った飴を舐め始めるのだった。
一方その頃キーカー、アリス、ケンは破壊した〈ビーストキメラ〉を見て兵器の撲滅を改めて誓う。
「あいつ、どこまでトローお兄ちゃんを向かいに行ったの?」
「アリスお姉ちゃん、やっぱりサムの事が心配なんじゃない?」
妹の質問に対して姉は顔を真っ赤にして「そんな訳ないでしょ!」と叫ぶ。
「ハハハ。さて2人共、まだ兵器は残っていますよ。早く倒して帰りましょう」
「「はーい」」
キーカーが優しく微笑みながら指示を出すと、2人は兄に着いて行く。
その姿を〈ビーストキメラ〉に〈サイコモーション〉が搭載された改良型である赤い機体、〈サイコキメラ〉のモニター越しから観ていた金髪で赤い瞳の少女がサイコキネシスを使用する。
するとリミッターが外れ、メインカメラが赤く染まる。
〈サウザンドリッパー〉に向かってとんでもないスピードで一気に接近し、ヒートホークを振り下すのだった。
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