第3話油断は死を意味する
朝、神父に別れを告げ、隠れ家に戻ったサムは今後のために〈ソードリッパー〉をチューニングしていた。
(シンキを止めるために、俺は戦うしかないんだ)
パソコンで
すると情報を得るために流しているテレビからシンキの動きがニュースで放送された。
『今日午前、シンキの戦闘用ロボット〈ペガサス〉3機〈メドゥーサ〉1機がペルシー、チュウズ州を襲撃しました。ビーレ大統領は国々に宣戦布告をし、戦争を起こす構えを取っています』
画面を横目に見た彼は母国の愚かさを痛感し、ため息を
「始まったか」
そう一言言い漏らし、〈ソードリッパー〉のチューニングを急ぐのだった。
一方戦果を挙げた〈メドゥーサ〉を隊長機とする4機の部隊はペルシーのチュウズ州を制圧し、避難所に隠れている市民達を捜索していた。
「我々の任務は市民の虐殺だ。情は捨てろ。生き残りを出すな」
『分かりました』
隊長である男性グワンは連射可能なビームライフル、アサルトビームライフルとシールドを〈メドゥーサ〉に装備し、任務を遂行するべく指示を出す。
〈メドゥーサ〉は〈ペガサス〉とは違い翼が無く、変わりにスタンウィップを右手に仕込まれており、ヘッド部分には電力ケーブルが取り付けられている。
こうすることでより機動性を高め、メインカメラがそれに対応できるのだ。
4機はそれぞれ別れると、市民を殺戮するため行動を開始する。
「兵器は俺達が破壊する。覚悟してもらうぜ」
死神と名乗るリッパーシリーズのパイロットである1人が狙っているとは知らずに。
ビームライフルを構え、静けさしかないこの町で避難所を探すなど容易だった。
するとモニターに一瞬ノイズが走ったと思えば、ジェット音が急接近して来る。
「うん? なんだこの駆動音は? まだ機体の生き残りがいるのか?」
警戒し始めたパイロットだったが、突然体を貫かれ死を迎えた。
爆発音が聞こえ、敵の思わぬ奇襲に戸惑いながらグワン達は通信を
『グワン隊長、相手はおそらくリッパーシリーズだと思われます。同胞の仇をここで撃つべきです』
『そうですよ隊長。今後のためにも撃破した方が良いかと』
隊員の言葉を聞き、隊長として内容をまとめる。
敵はおそらくこの部隊を狙っている。
だとしたら任務続行は難しいだろう。
「良し。相手が我々を妨害するならば、排除するまでだ。とりあえずこの町の公園にある噴水に集合だ。死ぬんじゃないぞ!」
『はい!』
パイロット達を集結させ、リッパーシリーズを3機で討伐する作戦。
通信を切り、隊員達を信じグワンはチュウズ州ではデートの待ち合わせ場所としてよく使われている公園の噴水付近に向かった。
「死神に小細工は通じない。1機ずつ潰して、1人ずつ冥界に送ってやるぜ。なあ、そうだろう。相棒」
死神はバックパックを起動させ、一気に加速すると〈ペガサス〉を視界に捉え、鋭い爪で貫きにかかる。
モニターに一瞬ノイズが走り、それを見たパイロットは敵の接近を予期し作戦を速やかに考える。
(相手の駆動音と迫って来る音が聞こえる。ならば!)
敵の気配を感じ翼を羽ばたかせ、上空へ飛び立つ。
そして微細な機械音からビームライフルの照準を合わせ、エネルギーが尽きるまで撃ちまくる。
「その戦術は確かに俺を倒せることは間違っちゃーいない」
突如として地面が大爆発を引き起こし、パイロットは勝利を確信する。
「やった。やったぞ! 仇を取ったぞ! グワン隊長にご報告しなければ!」
爆発が止み、地面を降り立つと急いでグワンに通信を入れる。
『どうした? こちらはもう噴水付近に着いているぞ』
「グワン隊長! やりました! リッパーシリーズ1機を叩きま…………」
突然の破壊音と共に通信が途絶えた。
それは隊員の死を意味している。
「相手は策士だな。まさか1度死んだと思わせるとは。背と背を合わせろ。そしてメインカメラをソナーモードに切り替えるんだ。敵はおそらく透明化が可能なのだろう。しかし体温と機体の温度までは誤魔化せまい」
『分かりました!』
彼らは背中合わせに銃を構え、メインカメラをソナーモードに切り替える。
するとモニターに一瞬ノイズが走り、なにかにグワンが勘づいた。
「速やかにハッチを開けろ! 相手は我々のメインカメラを妨害電波であたかも透明に観せているぞ!」
お互いハッチを開け、リッパーシリーズを視認しようとすると隊員の前に死神が現れた。
その機体の名は〈クローリッパー〉
緑色に塗装され、上半身がソードリッパーのパーツを流用しているが、腕はアイアンクローになっており、機動性も相まって相手機体を一瞬の内に貫くことが可能である。
さらにバックパックはかなりの出力を出すことができ、機動性をさらに高めている。
「隊長! リッパーシリーズが目の前に現れました!」
「了解した! 共に打ち倒すぞ!」
「はい!」
2人は銃口を〈クローリッパー〉に向けて連射するが、死神の動きに翻弄されビーム弾がまったく当たらない。
「そんなもん俺には当たんねぇよ」
次第に距離を詰められた〈ペガサス〉のシールドごとコックピットは貫かれアイアンクローにパイロットの血が染み付いた。
「さて、あと1機だ」
死神にとってビーム弾など簡単に躱せてしまう。
アイアンクローからダラダラと返り血が垂れる中隊員達の死をバネにし、グワンは隊長として部下の無念を晴らすため、弾切れを起こしたアサルトビームライフルを地面に落とすと、ビームサーベルをバックパックから引き抜き〈クローリッパー〉に向かっていく。
そして仕込んでいたスタンウィップを伸ばすと勢いよく振るい、胴体に命中する。
死神を痺れさせ、バックパックを起動し、距離を詰めようとした。
「クッ………やるじゃないか………」
〈クローリッパー〉のパイロットはあまりの電撃で操縦が効かなくなったことに、笑みを浮かべながら死を悟った。
その時だった。
「この音は、まさかまだリッパーシリーズが」
そのリッパーシリーズとは、サムの乗る大剣を持った機体〈ソードリッパー〉だ。
「その命、貰い受ける」
青き機体とは不釣り合いの巨大な赤き右腕から繰り出される大剣の縦斬りを右サイドステップで躱し、ビームサーベルの光の刃をそちらに向ける。
「おのれ! お前は何人兵士を殺してきた!」
「戦争をするために利用される兵士が言えたことか?」
スピーカーから流れたサムの声に聞き覚えがあったグワンは裏切り者に怒りが爆発する。
「サム・イラバ! かつてお前は優秀な兵士だった! だが今は我々シンキを脅かす存在! ここで粛清してやる!」
開いていたコックピットを閉じると、スタンウィップを振るい、〈ソードリッパー〉に攻撃を仕掛ける。
「たとえ先輩であろうと、容赦はできない」
ビームバルカンで〈メドゥーサ〉の右腕を破壊し、ムチを落とさせた。
それと同時にビームサーベルが地面に落下、武器を失ったグワンだったが、戦う闘志は消えていない。
「格闘戦になるか。大得意な戦術だ。覚悟してもらうぞ! サム・イラバァァァァァァ!」
バックパックを起動し、〈ソードリッパー〉に向けてかなりの速度で攻撃を仕掛ける。
突然の相手から繰り出される右足によるあびせ蹴りにすぐには対応できず、胴体を蹴られ吹き飛ばされる。
あまりの衝撃に大きくコックピットが揺れ、装甲がヘコむ。
「この速度。〈ペガサス〉の機動性を上回っている。それを使いこなすとは。シンキに利用されなければその技量を平和に使えただろうに」
「お前が戦争をさせまいと戦っているのは知っている。だが! 兵士として国に従うのが
「操り人形に成り下がったか。ならばここで死んでもらう」
大剣を片手にバックパックを起動し、サムは高速でサイドステップを繰り返しながら〈メドゥーサ〉を貫きにかかる。
「この俺を………この死神を………忘れるなよ!」
後ろから繰り出される死神の爪。
両方の攻撃に対しグワンは高く飛び上がり、2機で自爆させる作戦に打って出る。
(これで皆が報われる)
勝利を確信したその時だった。
なんと大剣がこちら向かって飛んで来た。
「なに!?」
いくら〈メドゥーサ〉の起動性が優れていても、この近距離で放たれれば避けることは不可能だ。
コックピットは貫かれ機体の起動は完全に停止、まるで糸が切れた操り人形の様に崩れ落ちた。
大剣を引き抜き、血をはらうと〈クローリッパー〉の方を視界に入れる。
すると死神はバックパックを停止し、ギリギリで止まる。
「あんたがシンキの反逆者か? 俺はトロー・ザ・リッパー。死神を名乗らせてもらってる」
「…………」
「なんだよ。名前を教えてやったんだから名乗ってくれてもいいじゃないか」
サムが警戒するのも無理はない。
アリス・ザ・リッパーの兄妹である彼に果たして名を言っていいのか。
そんな考えが頭に過ぎる。
「トローと言ったな。俺はお前の兄妹である1人を殺した。なぜそんな俺を狙わない?」
「そんなもん戦場で戦死したんだから仕方ない、そう思いたいからに決まってるだろう。復讐なんてしたところでシジが蘇る訳じゃない。武器を破壊するには武器が必要だ。シンキを止めたいんだろ。だったら俺達のところに来い。歓迎するぜ」
シジ、それが自分が殺してしまった最初の被害者の名前。
サムはスピーカーから流れるトローの声に、震えが感じ取れた。
「分かった。俺の名はサム・イラバ。トロー、俺の戦いに付き合ってくれ」
「おうよ! すべては武器を無くすために!」
こうしてサムはリッパー兄妹の仲間と成り、次の戦いに向けて一旦隠れ家へ帰還する。
アリス・ザ・リッパーへの恐怖に胸を締め付けられながら。
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