第2話復讐心の塊
少女が殺戮集団の一員なのは分かった。
もしかしたら仲間が潜んでいるのではないかと警戒し、サムは焚き火に向けてバケツに入った水を勢いよくかける。
火が消え視界が暗くなったことを見計らい、ビームガンを構えつつ〈ソードリッパー〉と名付けられていた機体に乗り込む。
シートを投げ捨て、その場を歩いて逃走する。
(兄………か。ソードリッパーに乗り込んでいた彼女の兄を俺が殺した。国を守るためとは言え過去の罪だ。彼女に追いかけられる覚悟はしないとな)
シンキからはリッパーシリーズを操る悪魔、殺戮集団からすれば仲間の機体を利用している泥棒。
そんな彼の正義は歪んでいるのかもしれない。
だがそれでも戦争などと言う神に背いたことを国にさせる訳にはいかない。
(俺はなんであろうと国を止めなきゃならない。なんと言われようともだ)
次の日、彼女の視線を感じ一睡もできなかったサムは〈ソードリッパー〉の補給のため業者にガソリンが入ったポリタンクやビームバルカンのエネルギータンクを注文していた。
「毎度あり、あんたみたいなお客さんがいるとこちらも助かるよ〜」
業者の男性は札を確認し機械に通すと、お釣りが出てきたのでそれを渡す。
「あなたも変わってるよな。お尋ね者の俺に物を売るなんて」
「プライドはないからな。お金を払ってくれればその分の物を売る。それが俺の持っとうよ」
ポリタンクとエネルギータンクの持ち手を持ち、「ありがとう。また来るよ」と感謝の言葉を述べ、店を立ち去った。
隠れ家まで歩くのにまだ時間がかかる。
警戒を怠らず、先に進んでいくサムの表情は引きつっていた。
睡眠不足や戦闘での疲労が原因だろうと判断し、速やかに帰ろうとする。
(これ以上は寝ないと辛い。だが隠れ家までまだ遠いからなぁ。何とか歩かないと)
隠れ家は町外れの海辺にある使われなくなったガレージだ。
おそらく跡は彼女につけられているだろう。
どこかで
目が覚めた時、そこはベッドの上だった。
飛び起きたサムはその場を確認すると、どこか懐かしい臭いが部屋全体的に充満している。
「ここはどこだ? 俺は確か帰る途中で………」
中はかなり暗くなっており、明かりはどこかと
探し始める。
明かりのスイッチを月明かりだけで探すのは一苦労だ。
ベッドを降り壁を伝っていくと何とかスイッチを発見し、その場で電源をいれる。
すると突然何十本物ナイフが窓を割ってサムに襲いかかって来た。
不意打ちにも取れる攻撃に思わずその場で寝そべり、刃を躱す。
木製のドアに突き刺さったナイフ、まるで生きているかの様にドアから抜け出そうとする。
「クッ、復讐鬼が。俺をここで仕留める気だな。どうする。どうすれば」
とにかくここから逃げ出すしかない、そう判断した。
ドアを勢いよく開け、部屋を出る。
明かりのない道を駆け、出口を捜索していると若いシスターが驚いた様子でこちらに歩み寄って来た。
「こんな遅い時間にどうされました?」
「シスター様! 俺を狙って殺人鬼がこちらに向かっています! 早く避難してください!」
「落ち着いてください。あなたは誰にも狙われてはいません。すぐにお部屋へ戻ってゆっくりとお休みください」
おそらくシスターは今の現状を理解していない。
迫り来る殺人鬼の少女にも気づいていない。
「俺は狂ってる訳じゃありません! 幸いにも狙われているのは自分だけです! ここで失礼します。お世話になりました」
サムはシスターを振り切り、出入口を探す。
「見ーつけた!」
少女の声を聞き後ろを振り返ると、ナイフが飢えたカラスの様に飛んで来た。
シスターを通り抜け、彼に襲いかかる。
腰を抜かした彼女は尻もちを着き、何とか助けを求めるため叫びを上げた。
(俺は誰であろうと負けない。負けられないんだ)
決死の覚悟でズボンの左ポケットからビームソードを素早く取り出しスイッチを押すと、光の刃が展開しナイフを次々と切り裂いていく。
(あの剣術、シンキ国で習う物の応用に見える。やっぱりお兄ちゃんを殺したのはこの元兵士に間違いないよね)
怒りに狂った少女は赤い瞳を狂気に満たし、スカート裏に隠していたナイフを一斉に放ち、サムに向かって一直線に刃が襲いかかる。
(殺す! 絶対殺す!)
だが攻撃を見切った彼にはすべて防ぎ切るなど造作もなかった。
ビームソード片手にナイフを溶かし着り、使い物にならなくする。
そして一気に少女との距離をダッシュで詰め、ついに首を右手で掴み上げた。
「おい、なぜ戦場の場以外で剣を振らせたんだ。しかも一般人を巻き込んで、お前は俺だけを狙っていればいいはずだ」
「うるさい! 殺す! あなただけは! 絶対に殺す!」
「兄を殺したのは確かに俺だ。だが他人を巻き込むな。戦争をさせないのがお前達の目的のはずだろ。ふん、それも
先輩の言っていた者達とは到底思えない言動や行動をする少女に落胆すら覚えたサムはビームソードの電源を切り、左ポケットにしまう。
そこにようやく神父達が駆けつけ、恐怖で動けなくなったシスターに寄り添う。
「ジュリー、大丈夫ですか?」
「はい。あの方がいなければどうなっていたことか………」
ジュリーと言われた彼女はサムを見つめ、救われたことを手を合わせて感謝する。
「神父様、早く警察に連絡を。この少女はエスパーであり犯罪者です。しかもリッパーシリーズのパイロットだ。とにかく急いで」
冷静に物事を運び敵を警察に突きつける。
後はこの場から姿を暗ますだけだ。
おそらく自分を連れて来たのはこの神父だろう。
捕らえさせる口実を作ったことも知らないであろう神父に感謝し、少女を壁に縛る。
これで命を狙う者がまた1人居なくなった。
(ようやく戦闘に集中できる。しかし)
油断はできない。
相手はサイコキネシスを使用できる。
絶対に警察へ送るまで監視を怠れないのだ。
固定電話で警察を呼ぶシスターを横目に神父はサムに向かって歩みを進める。
「彼女は指名手配されています。確か名前は………そう、アリス・ザ・リッパー」
「リッパー? ジャック・ザ・リッパーは知っていますが。たかが殺人鬼の異名でしょう? まさか本名がリッパーなんて」
ジャック・ザ・リッパー、それはかつてとある国で起きた未解決の連続殺人事件の犯人、その異名である。
なぜ異名なのか、それは警察がこの事件を解決できないがために作り出した幻想の犯人像だからである。
連続殺人と言うのも単体の事件もすべて同じ犯人がやったことだと警察の悪意によってまとめられた物だと言われている。
そう、世間はそう決めつけこの事件は謎のまま幕を閉じた。
「あなたもそう思いますよね。おそらくジャック・ザ・リッパーを真似た偽名。これ以上事件を起こさないよう、祈ることしかできません」
神父の
「ひいおじいちゃんを………殺人鬼扱いするなぁぁぁぁぁ!!」
逆鱗の叫び声と共に建物を突き破ってきたのは桃色の機体、その右腕だった。
アリスを優しく掴み、外に脱出する。
「しまった!?」
このままではロボットに教会を破壊され、皆殺しにされるだろう。
ソードリッパーは隠れ家に置いたまま、せめて人を避難させなければ。
「皆さん、落ち着いて避難をしてください」
『はい! 神父様!』
神父の指示を聞き、シスター達は駆け足で避難用の出口に向かう。
「神父様、後は俺に任せてください。助けてくださったお礼がしたいんです。そもそも彼女は自分を追い、ここで仕留めるつもりなんでしょうから。その罪滅ぼしはさせていただきたい」
「あなたが何者なのかは知りません。ですが神は必ず罪を許してくださいます。1人で背負わないでください」
神父の言葉はとても優しく感じる。
そして育ての親であるシスターと同じく、上っ面だけではない偉大さが身に染みて分かった。
一方アリスは自分の機体であるサウザンドリッパーの手の平からコックピットに乗り込み、怒りから歯を食いしばる。
桃色の機体には2つのボックスが取り付けられており、1つに500機の超小型ソードビットが搭載されている。
ソードリッパーと酷似しているがより細身であり、軽量化が図られている。
「お兄ちゃんの敵ーー!!」
復讐に取り憑かれた彼女の狂気がサウザンドリッパーを操り、ソードビッドを起動する。
ボックスから放たれる刃が次々と教会に侵入していく。
しかし中には誰も居らず、それを感じ取りすぐ様収納する。
が、警察の黒きロボット〈パートス・ブラック仕様〉が2機到着、アサルトライフルの銃口を向けてくる。
「そこのリッパーシリーズのパイロット。すぐに機体から降りて来なさい」
「私の邪魔をしないでよ! 行け!
怒りの叫びと同時にボックス内から〈
そして〈パートス〉2機を貫き、パイロットである警察を切り刻んだ。
「兵器を私に見せた時、あなた達は死を見る」
ソードビットをサイコキネシスによって起動する装置〈サイコモーション〉でボックスに回収し、復讐の炎を
そして兄を殺害した男、サムを殺すべく捜索を続けるのだった。
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