第3話蝕まれる体

レジェンド。

それは優れた人材をコンピュータ化することで生み出された存在。

一方的な戦争によって失った戦力を補填ほてんするため、新兵に供給されるAIエーアイである。


(そんなレジェンドに俺はなったって言うのか? だとしたら的外れだ)


自分がレッカのパートナーに相応しくないと感じるタカマルが現在いるのはデバイスのデータベース。

デバイスは彼女が着ている軍服の胸ポケットだ。

すると少女に見える金髪の兵士は廊下で足を止めそのデバイスを取り出し、スリープモードを解除すると真剣な表情で画面を見つめる。


「うん? どうした?」


タカマルは反応に困った様子でそう返答を待つ。


「あのねイカズチ。今日の戦闘で私思ったの。リッパーシリーズみたいな脅威に備えてるつもりでも気持ちが追いついてなきゃダメなんだって」


「レッカ、お前の機体操作、戦闘技術は俺をはるかに超えている。問題はその諦めの早さだ」


彼女には優れた才能があるものの、負けを確信するのが明らかに早すぎる。

愕然がくぜんとした表情をし、動けなくなる。

そんな兵士がいるならば戦力外通告をされクビを切られるだろう。


「もっと自信を持って戦え。もちろん指揮官の指示を破ることはしないようにな」


「講師にもよく言われた。すぐに諦めるのは悪い癖だって」


戦闘において戦況を見極めることは極めて重要だ。

しかしそれは兵士個人ではなく指揮を任されている者の役割。


「兵士は指揮官や上層部の命令を聞き動くのが仕事だ。たとえ死に直結することだとしても」


「そうなんだけどね。どうしても自信がなくなっちゃうの」


下を向くレッカは自分の意気込みが急に恥ずかしくなり、思わずため息を吐く。

そんな時目の前に現れたのはエースパイロット、ビージーだった。


「レッカ兵。ちょっといいか」


「なっ、なんでしょうか?」


先輩でありエースの彼が何の様なのだろう?

不思議に思いながら敬礼する。

ビージーは「まあそう硬くなるな」とそう言いつつデバイスを取り出し画面に映っているサムライを見せる。


「始めましてだなイカズチ。俺はビージーのレジェンド、サムライだ。よろしく頼む」


「こっ、こちらこそ。よろしく頼む」


いきなり同じレジェンドである彼に動揺しながらも、しっかりと挨拶を行うタカマル。


「ビージー先輩もレジェンドを相棒にしているんですね」


「あぁ、サムライにはよく助けられてる。おっと、話がれたな。レッカ兵、上層部から俺達6人に大事な任務を伝えるため来てほしいそうだ。あっ、6人と言うのはレジェンドを含めた人数だぞ」


「6人? 残りの2人は誰です?」


彼女の質問にビージーは「確かぁ」と記憶を探る。


「あぁ思い出した。ダース兵とエンジェルと言うネームがデバイスに出ていたな。新兵ながらあの狙撃には驚かされたよ」


「ダース君もレジェンドを持っていたんですか? なんで私に言ってくれなかったんだろう?」


不思議そうな表情で左手の薬指をあごに当てると、レッカは同僚の隠し事されたことが気になり始める。


「それよりサムライ達について行った方がいいんじゃないか? 遅刻したらどうするんだ」


「イカズチの言う通りだ。レッカ兵、ビージー、早く行くぞ」


レジェンドの2人にお叱りを受け、兵士2人は確かにと思いながら隊長の待つ部屋に向かうのだった。



数分後隊長室に到着しビージーがドアを2回ノックする。


「ビージーです。遅れてしまいすいません」


『お入りください』


隊長の指示に合わせて「失礼します」と出入り口を開ける。

中に入ると緊張気味のダースが隊長の指示を聞いている様子だった。


「ようやく出揃いましたね。では話しましょうか。今回あなた達に頼みたい任務を」


微笑みながら隊長は右側にあるモニターをデバイス操作で起動し、目的を映し出す。


「3人には首脳達との会議に出る女王陛下の護衛に加わってもらいます。テロ組織や単独の奇襲に備え各機体で守りを固めてください。失敗は許されません。出撃は1週間後、緊張感を持って挑んでくださいね」


「「「はい!」」」


3人は隊長に敬礼をし、デバイスから詳しい情報を受け取った。


部屋を出るとダースにムスッとした表情で視線を送るレッカは彼に近寄っていく。



「ダース君まさかレジェンドを相棒にしてるなんて。私にも教えてくれても良いのにー」


「れっ、レッカには関係ないでしょ」


「関係ない訳ないじゃん。私達は幼馴染なんだから。それぐらい話してくれたって」


そう、レッカとダースは幼い頃から交流があるいわゆる幼馴染。

彼女にとって仲の良い友達。

しかし軍に入ってから何かを隠している様子だった。


「ダースよ。なぜこのエンジェルをした隠しにするのだ?」


「エンジェルさん! 今はダメです!」


エンジェルの突然の発言にデバイスを取り出し怒鳴るダース。


「ふん、挨拶ができないほど不親切ではないぞ。私の名はエンジェル。ダースのレジェンドだ。これからの任務、よろしくお願いする」


「俺のはタカマル・ヒガシミヤ。レッカからはイカズチと呼ばれてる。エンジェル、こちらこそよろしく頼む」


「タカマル・ヒガシミヤ? ほぉー、珍しいなぁ。レジェンドに成る前の記憶があるとは」


彼女は過去の記憶を持つタカマルに興味が出てきた様で、不敵に笑み浮かべる。

するとビージーが近寄り「話に割り込む様で悪い」と謝罪をしながらデバイスの画面を観せる。

そこに映し出されているのはさっき送られた作戦内容だ。


「今回の任務で向かうのはビルメア。この距離だと女王陛下は専用の飛行機で行かれる。つまり空中戦も見越して護衛をしなければならない」


「しかしビージー先輩。僕達が乗っている〈高起動型アンカーⅡ〉は地上で力を発揮する機体です。それ専用に改造するにも時間がありません」


〈高起動型アンカーⅡ〉は地上戦用に特化した機体。

空中戦を想定しておらず、何かしら改造しなければならない。


「デバイスに送られた物をよく観てみろ。俺達のために〈アンカーⅡ・スカイタイプ〉が用意されているそうだ。コンテナ機は丁度6機乗る大型。地上戦にも備え護衛しなくちゃならない」


〈アンカー〉と言う機体にはさまざまなバリエーションがあり、用途に応じて乗り換えるのがインギロス軍人流の戦い方である。

さらに操縦席共通宣言が出て以降コックピットがすべて同じ物になっているため操作感覚は然程さほど変わらないだろう。


「任務は今日から一週間後、そのためにも準備しなくちゃな。お互い頑張ろう」


ビージーはそう言って荷造にづくりをするためその場から立ち去った。


「よーし! ダース君、エンジェル、イカズチ、任務のために空中戦のシュミレーションをしよう! てっあれ!? ダース君は!?」


「ダースなら何やら焦った様子でどこかに行ったぞ。レッカ、幼馴染とは言え少し馴れ馴れしいんじゃないか?」


AIエーアイの彼でも分かる彼女の行き過ぎた言動。

それにはとある理由があることを、まだ知らない。



息を切らしながらダースは充電が切れ掛けているデバイスにモバイルバッテリーを繋げる。

その光景を見た2人の軍人は足を止める。


「おいおいダース、少しはトレーニングしたらどうなんだ? それともAIエーアイの彼女にむさ苦しいところを見せられないってか? ハッハッハッハ!」


「やめろよ。あのレジェンドは………」


「うん? なんの話………なんだ。あっ、頭がぁぁぁ!?」


ジョークを言った兵士は突然頭痛に襲われる。

それはまるで万力に締められている激痛。


「今、ダースをバカにしたな? 侮辱したな?」


エンジェルの発言に相棒は今の現状をなんとか止めるべく「やめてください!!」とデバイスのマイクに思い切り叫ぶ。

すると兵士の激痛が治まり、その場で泡を吹きながら気絶した。


「今エンジェルさんは先輩を殺そうとした! 僕はそんなことを望んでいない! 軍人としてまだ未熟なんです! ジョークを言われて当然なんで……うっ、ゲホゲホ」


彼女の加護に蝕まれ、ボロボロになったその体。

意識を保ち「うちのエンジェルさんがすいませんでした」と仲間に頭を下げ謝罪すると、保健室へ気絶した兵士を2人で肩を貸し連れて行く。


「悪かったな」


「何を言ってるんです。元々は僕のレジェンドが冗談だと認識しないのが悪いんですから」


「いや、お前が背負っている物も知らないで言ったこいつに原因がある」


彼は良く知っている。

エンジェルがレジェンドの中で危険な存在だと言うことを。


「なぜ、そのことを?」


「俺の同僚が彼女の部品になった。そのあとはえなく病院行きだ。だがどうやらインギロスの軍はその力を使い回したいらしいな。しかも口止めまでさせてやがる」


苦笑する中で事情を説明し始め、ダースは負担が掛かった内臓のキリキリとした痛みに耐えながら静かに聞く。


「別にエンジェルを恨んでる訳じゃない。許せないのは強さに溺れた兵器をまだ作り出している者達だ。この世にはまだ戦争をしている国は確かにある。しかしだ。戦いをしていない国まで最終兵器リーサルウェポンを持ち、尚且なおかつ1人の兵士が当たり前の様に使うのはどうかと個人的に思う」


「僕は、僕は弱いんです。いざ機体に乗って戦闘を行うと震えが止まらなくなる。だからエンジェルさんの部品に選ばれた。でもその事を他の人に言っていけないと隊長に言われました」


言えなかった。


つらかった。


込み上げて来る涙、そして震える体が今までため混んでいた孤独感こどくかんを表していた。


保健室に到着すると2人はベッドに戦友を寝かせる。

廊下に出て先輩に別れを告げると「ダースくぅぅぅぅぅん!!」と大声でレッカが後ろから抱き付いて来た。


「もうダース君たらー! 1人で何か抱え込んでるでしょ! 分かってるんだから!」


「まったく。幼馴染とは言えお構いなしのスキンシップもいい加減にしてほしい物だ」


目をキラキラさせながら幼馴染感をムンムンにする彼女にタカマルは呆れた様にため息を吐いた。


そんな状況に戸惑いつつダースは自分は1人じゃないと自覚し、薄っらと微笑むのだった。

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斬機のリッパー ガトリングレックス @GatlingRex

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