第2話それぞれ違う三兵

「ようやく出たね。サムのニセモノをぶら下げてるパイロット」


リッパーシリーズの1人、16歳の少女ケン・ザ・リッパー。

金髪で赤き瞳を持つ彼女に何人の兵士が殺されたことか。


「ふん、ありがたいねぇ。俺の出番を待ってくれるお客様がいるのは」


ビージーはジョークと挑発を両方口にしつつ〈パラサイトブレイド・ビージー専用機〉に搭載された全身のカッターを展開する。


「サムライ、お前はお前の意志がある。心がある。他人のニセモノなどと言われる筋合いはない」


レジェンドであり相棒のサムライ。

彼はケンの言うサム・イラバと言う犯罪者英雄の脳をスキャンし、生み出された。


サム・イラバとはとある国を救うため罪を犯し、リッパーシリーズに手を貸した男性。

すでに処刑された人間、それを拭いきれない彼女に倒されるわけにはいかない。


「すでに俺は別人だと理解している。安心して戦闘に集中しろ。全力でビージーをサポートする」


バックパックを起動し臨戦体勢りんせんたいせいを取ると一気に加速、目にも止まらぬ剣術を食らわせる。


「サムのニセモノを作ったこと。母国だとしても私は許さない」


装甲にキズが付くもののまだ動き続ける〈チェーンソーリッパー〉は背中のチェーンソーアームを射出し彼らを仕留めに掛かる。


「僕は撃ち抜く。確実に、関節部分を!」


そこにハイになったダースがスナイパービームライフルによる正確な射撃で左足の関節を射抜いた。


「今だ! ウォォォォォ!!」


バランスを崩した機体、この絶好のチャンスを見逃さずレッカはホバーで勢いよく突っ込み展開したカッターでメインカメラが付いた顔部分を切り裂いた。


「これ以上の戦闘行為は無意味。大人しくお縄に着きなさい」


メインカメラを失った以上相手は視界を奪われたも同然。

足が撃ち抜かれ、動けない状態。

するとビージーが〈チェーンソーリッパー〉の背後で右腕の刃を突き立てた。


「全員油断するな。こいつには仲間がどこかにいるはずだ。居たら確実に仕留めろ」


この基地にもう1人のリッパーシリーズが潜んでいる。

兵士達はさらに警戒を高め、あたりを見回す。

その時だった。


「どこを狙って………ウヲヲヲヲヲ!?」


なんと仲間のはずの〈高起動型アンカーツー〉が連射式ビームライフルで隊長機を爆散させたのだ。


さらに右腕のカッターを展開し、容赦なく2機のコックピットを何度も突き刺した。


「俺は知っている。あの動き、攻撃の独特なセンス。そう、死神!!」


リッパーシリーズの1人、トロー・ザ・リッパー。

集団の中で機体を最も多く撃墜し、死神の異名を持つ彼は軍人であったビージーの父を殺害している。

軍人として復讐心で動くことは二流であり、間違いなのかもしれない。

だが死神を殺せるこのチャンス、それだけで息が荒くなり闘争心が脳を支配する。


「死神を倒すのは俺だぁぁぁぁぁ!」


高く跳び上がり、高速連続回転蹴りを繰り出す。


「そんなもんかよぉ。エースパイロットって言う肩書きは」


赤き瞳で余裕の表情をする死神は自分とは真逆の状況であることを読み取り、攻撃をあっさり躱す。

連射式ビームライフルのトリガーを弾きビーム弾を連射、回転しながら着地した〈パラサイトブレイド・ビージー専用機〉のブレード部分に命中し弾き飛ばされる。

すぐ様体勢を立て直し倒された仲間が手にしていたビームライフルを回収、素早く死神にターゲッティングした。


「相手の機動力ではビーム弾を躱すことは不可能。撃ち抜けビージー」


「言われるまでもない!」


サムライの命中補正が掛かり、トリガーを弾かれると同時に正確な射撃が繰り出された。


「だから、エースパイロットの肩書きはそんなもんかよ」


だが相手は死神の異名を持つ男。

打ち切った連射式ビームライフルをビーム弾にぶつけ爆破、その2秒後閃光弾を投げつけあたりが光に包まれる。


「レッカ、敵はこの場から逃走するつもりだ。その水鉄砲で仕留めるぞ」


タカマルのメインカメラには死神が仲間のケンを救出し、逃亡するところが見えている。

しかしレッカのモニターには閃光によって視界が真っ白になっていた。


「そんなこと言っても。光が………」


「仕方ない。俺が照準を合わせてタイミングを言う。引き鉄はお前が弾け」


彼の指示に彼女は首を縦に振り、操縦桿のトリガーに薬指を掛ける。


「分かった。イカズチの足手まといには、もう成りたくないから」


この場から離れようとするリッパーシリーズに対して後ろから仕留めに掛かる。

ロックオンした標的ひょうてき、ここで逃せば損害を受けただけの役立たずにレッカ達が見られる。


初めてだった。


自分が他人にたよられる者に成るのは。

だからこそ彼女にもっとたよられたい、支えたいと思った。


「今だ!」


「ふん!」


トリガーが弾かれ連射されるビーム弾。

すると〈チェーンソーリッパー〉のチェーンソーアームが射出され、まるで彼らを守るようにして爆散した。


「あいつら、自分の機体を遠隔操作して撃墜を死守しやがった」


光が消えていく頃には死神の姿はなく、兵士達があれほどの脅威きょういと戦っているのだと感じた。


「やっぱりイカズチはすごい! 絶対落ちこぼれじゃない! 前世はやっぱりスーパーパイロットだったんだよ!」


「いや、俺は落ちこぼれだ。自分の事だけで背いっぱいで被害者を出した。それに倒せるチャンスを不意にした。レッカにとってはすごくても、世間から見れば役立たずなんだろう」


落ちこぼれ、彼にとってその言葉は永遠に取れない弱者の勲章くんしょう

〈ライトニングストーム隊〉はその様な人間の集まり、おそらくさっきの戦いの様な的確な指示や操縦ができたのは自分の実力ではなくコンピュータに成り人間をやめたからだと自己分析した。


ありえないほど機体の操作がしやすく尚且なおかつメインカメラが視界として直結、頭でターゲットの倒すための処理が丸々可能なのだ。


そんなハイスペックに改造を施された彼は自惚うぬぼれるでもなく、これ以降も兵器のパーツとして生きていくと言う底知れぬ恐怖が脳に過る。


(俺はこれからどうなるんだ?)


心の中で質問してもどうにもならないのは分かっている。

それでも口に出して言ったところでレッカが困惑するだけだと口を紡いだ。



加護の効力が無くなり、大量の汗をかきながら息を荒くするダース。


「リッパーシリーズの機体を撃墜する手助け。良くやったぞダース」


エンジェルが微笑みながら褒めると、頭を抱えながらうずくまる。


「これは僕の力………じゃありません………すべて………加護のおかげなんです」


「何を言っている? 加護を使いこなせるお前が弱いわけがない」


彼女にとっては加護に耐えきれる人間をとして認めているのだろう。

過去に潰れた者が多くいたことを彼はその目で見ている。

いずれは自分も潰れる運命、それでも使い続けるのは弱さを誤魔化ごまかすため。


「エンジェル、僕はこのアンカーの部品でしかないんです。あなたの加護を受けている限りは」


「ダースよ。お前は自分が成長していないと勘違いしているのだ。安心しろ。私はずっとそばにいるからな」


支配マインドコントロールされているのは十分に理解している。

それでもこの天使になにかを求めている。


軍人失格とは理解している。

それでも頼ってしまう、この力を。



「クソ! クソ! 次は必ず仕留めてやる!」


膝を拳で叩き怒りをぶつけるビージーを見たサムライは何も言わず、次の戦いに備え機体のOSオーエスをいじり始める。


(ビージーの戦闘データを更新。より攻撃的になったな。まったく、復讐心が勝ると冷静さを欠く。だが仕方ないことだと割り切る必要がある)


助言を言うのもまた必要なことだ。

しかし彼の狂者の本能を止めることはできない。

父親を死神に殺され、いかれる気持ちはよく分かる。


(だからと言ってビージーをこのまま狂者にしておく訳にはいかない。相棒としてなんとかしてやらねなければ)


分かっている。

分かっているが、できない。

サムライの中でなんらかの後ろめたさがある。

それがなんなのかが分からない。


(リッパーシリーズの言う過去の自分など俺は知らん………正直気になっているのは事実だ)


知らないと断言しているが、薄っらと思い起こされる正義感だけで突き進んでいた過去。

そのフラッシュバックはリッパーシリーズと戦闘後に度々起きる現象。

彼にとってそれは迷惑なだけだ。


(またか。このフラッシュバックは絶対に追求してはいけない気がする)


前世の自分の記憶など不必要と判断する。

いや、しなければならなかった。



一方その頃リッパーシリーズのトローは不貞腐ふてくされるケンを連れて調達した〈高起動型アンカーⅡ〉を運転していた。


「あのパイロットとサムのニセモノ、次は必ず潰す」


「まあなんだ。ケンの気持ちはよく分かる。だけどよぉ、そのためには〈チェーンソーリッパー〉の代わりが必要だろ。俺も手伝ってやるから欲しいやつを取りに行こうぜ」


彼らの目的は世界から武器を無くすこと、そのためなら武力を行使すると言う矛盾を持つ。

インギロスの悪魔と呼ばれるのは殺意に満ちた強引さと理解できない動悸どうきだ。


「俺達の親はリッパーシリーズを開発したあと何者かに殺された。兵器があるから殺されたんだ。だからこそ破壊し続ける必要がある」


表情は変わらなければトローの感情は揺れ動くことはない。

ただ気掛かりなのはプロレスラーの相棒を殺した同じくプロレスラー、シルバーブレッドの存在。

試合を観た時、あれは人間ではないと確信した。


(あの強化人間も所詮は兵器。いずれ容赦なく壊してやる。そのためにも戦力がさらに必要だな)


こうして2人は隠れ家に帰還し、敵が着いて来てないか確認したのちに中に入るのだった。

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