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第1話 バッドパートナー

これは大昔に起きた戦争での事、北国であるインギロスに攻め込むためバイ国の部隊〈ライトニングストーム隊〉は黄色き戦闘機体〈ライメイ〉で敵の海域に侵入しようとしていた。


「我々の目的は敵艦に自爆特攻を仕掛け、損害を与えることである! 老いぼれや落ちこぼれとはいえ、使命を与えられたことを光栄に思わなければならぬ! 攻撃開始!」


〈ライトニングストーム隊〉の由来、それには被害を及ぼしいずれ通りすぎ消えゆく嵐の様な存在であると皮肉が込められているのだ。


そんな落ちこぼれの1人、タカマル・ヒガシミヤはこの戦いで自爆する覚悟をしていた。


操縦桿を強く握り、戦艦に突っ込む。


「俺の最後………最後の輝きを見せてやる! なっ、なに!?」


突然バックパックから火花が散り、勢いが止まると海へ急降下して行く。


「こんな死に方ありかよ! クソ! クソ!」


悔しさに叫びを上げ沈む人生はここで幕をを閉じたと悟った。


目覚めるとそこは得体も知れない場所だった。

子供の頃に見た未来を舞台にしたアニメのバーチャル空間に飛び込んだような感覚が想像される。

するとどこからか男性と女性の話し声が聞こえた。


『君には人工知能であるレジェンドのイカズチを贈呈ぞうていする。戦場での成果、期待しているぞ』


『はい! これからも精進しょうじんして参ります!』


話を聞いている限りまだ戦争は終わっていないのが理解できる。


「俺達の特攻は無駄だったのか? いや、そんな

はずは………」


自分達がおこなった使命をインギロスの戦力に押し潰されたのか、それとも成功し劣勢に追い込んだか、タカマルは後者の方を願うばかりだった。


「うん? もしかしてイカズチの声かしら?」


まさかと思ったが自身の独り言が漏れていたのかと動揺する。


ウィンドウが開かれ映し出されたのは、ショートの金髪で青い瞳を持つ軍服を着た中学生ほどの少女だった。


「はっ、白人! そうか! お前達が俺をこの空間に閉じ込めたんだろ! なにを言われようが情報を漏らさんぞ!」


「閉じ込めた? なにを言ってるのイカズチ。あっそうか、もしかしてあなた過去の記憶が残っているのね!」


「イカズチ? 俺はそんな名前じゃない! タカマル・ヒガシミヤだ! まったく、飼い主が犬に名前をり込むみたいに勝手に決めんな!」


彼女はタカマルの言葉に目を輝かせ「アハハ」と幸せそうに笑う。


「記憶が残ってるレジェンドなんて夢みたい!

でもそれじゃあイカズチに色々と説明をしなくちゃね」


「だから俺の名前はイカズチじゃない!」


話を聞かない少女はデバイスを手に休憩室へ急ぐ。

その姿をウィンドウ越しに見て、タカマルの表情は曇るばかりだった。


「私の名前はレッカ・バレッチャー。インギロスで軍人をやらせてもらってる。体型は子供っぽいけど、これでも大人なんだから」


「インギロスは俺達バイ国が戦争を仕掛けた国だ。つまりお前は敵だと言うこと」


「それは過去の話よ。あなたにとってはつらいことでしょうけど、バイはインギロスとの戦争に負けているの」


信じがたい話だった。


ここは未来だと言うこともそうだが1番は母国が負けていたことである。

思わず歯を噛み締めたその後睨みを効かせた。


「そんなバカな! バイ国は無敵の部隊があるんだぞ! 敗北などありえん!」


そう、バイ国の軍には絶対的な戦力を持つエリート部隊が存在した。


だが彼女の首は横に振る。


「残念だけどこの事実は私の産まれる前の出来事。伝えられているのはインギロスがバイを返り討ちにしたと言うことぐらい」


レッカはイカズチに哀れみの気持ちを持つ。

彼にとって戦いはまだ終わっていないのを理解したからだ。


信じられないことばかりで動揺で目が泳ぎ「ウソだ………ウソだ………」と小声で繰り返すのを聞きながら休憩室に向かおうとすると出動のサイレンが鳴り響き、それどころじゃなくなる。


「ごめんイカズチ、早く出撃しないと」


「まさか俺をこのまま連れて行くんじゃないだろうなぁ」


「そのまさかだよ。サポートよろしくね」


いきなり敵国の兵士の手伝いなどと、そうタカマルが思った矢先ウィンドウが閉じられ「勝手な女だ」と独り言を口にした。


デバイスを胸ポケットにしまい方向転換、武器庫に急ぐレッカは同僚どうりょうのダース・ビヨンが同じく向かっているのを視認する。


「ダースくーん」


「レッカ、相手はリッパーシリーズ1機みたいだよ。僕達で倒せるだろうか」


リッパーシリーズ、武器を破壊することを目的とした犯罪者集団である。

インギロスの悪魔と言われるほど機体に乗る軍人を次々と葬っており、国の問題としては規模きぼが大きく、今でも社会現象になっている。


「なにを言ってるのダース君! あいつらを倒さなかったらまた軍人の命が失われる。ここで食い止めるの! いい!」


強気なレッカと弱気なダースは武器庫に到着、自分の機体である〈高起動型アンカーツー〉に乗り込みデバイスをモニターの横に設置されている装填口に接続する。

こうすることでレジェンドのサポートを受けることができ、なおかつ機体性能を向上できるのだ。


ゲートが開かれ、レッカは連射式ビームライフル、ダースはスナイパービームライフルを装備し足をホバーで浮かせる。


「レッカ・バレッチャー、イカズチ、高起動型アンカーツー、出ます!」


「ダース・ビヨン、エンジェル、高起動型アンカーツー、出る」


出撃した2人は基地を駆けて行くと、先輩達がリッパーシリーズの1機〈チェーンソーリッパー〉と交戦していた。


その黒い巨体の機体は腕をチェーンソーとし、後ろにも同じく2本の腕が搭載されている。


『早く加勢してくれ! 1機だと思って甘く見るな!』


「「分かりました!」」


先輩の1人が彼らに加勢を仰ぎ、攻撃を開始する。


「イカズチお願い。私と一緒に戦って」


「悪いが俺はエリートでもなければスーパーパイロットでもない。ただの落ちこぼれだ。残念だが期待には添えないぞ」


「そんなの関係ない! 攻撃するから回避は任せる。あなたと私なら絶対に上手くいくから、お願いだから力を貸して!」


まったく、女ってやつは。

タカマルはそう内心で微笑んだ。

落ちこぼれの自分を頼ってくれるのは家族ぐらいだと思っていたが、ここまで言われては仕方ない。


「敵国の兵士とは言え今が今だ。戦ってやるから死ぬんじゃないぞ」


「うっ、うん!」


幸い機体のコントロール方法は頭の中にある。

レッカが連射式ビームライフルの銃口を〈チェーンソーリッパー〉に向けた瞬間確実な勝利を物にするため、ブレを軽減させ命中率を上げる。


「くらえぇぇぇぇぇ!!」


叫びを上げながら引き鉄を弾くと次々と撃ち出されるビーム弾。


「ふふ、この子には効かないよ」


命中したビーム弾だったがなんとビームコーティングが施された装甲によって防がれ、逆にチェーンソーアームがジェット噴射で襲い掛かる。


「ウソ………でしょ………」


「おい! 操縦をおろそかにするな!」


愕然がくぜんとする彼女にタカマルは注意を叫びながらギリギリで攻撃を回避し、右腕に搭載された刃を展開した。


一方ダースはビームスナイパーライフルのスコープを覗き、関節部分に狙いを定めていた。


その姿をデバイス越しに見ていた彼女、エンジェルは不敵に微笑む。


「どうした? 撃たないのか?」


「うっ、撃ちますよ。ただタイミングを伺っているだけです」


冷や汗をかき始める彼の言い訳に、また微笑んだ。


「本当は怖いのだろう。人を殺すことを。たとえ犯罪者だとしても。だが慣れているはずだ。さぁトリガーを弾け。絶対に仕留めろ」


図星ずぼしを突かれ、歯を噛み締める。

確かに自身は悪人を国のために殺してきた。


とは言えそれはエンジェルの支配マインドコントロールに近き話術に踊らされているだけ。

自分の操作であって実績ではない。

そう思うとスナイパービームライフルを操作する操縦桿が震え始め、恐怖で顔を引きらせる。


「また欲しいのか? 私の加護を。頼って良いんだぞ。我々は相棒の関係なのだから。準備はとっくにできている」


エンジェルの加護。

データとして脳に送り込まれ、闘争本能を刺激する。

こうなった人間は躊躇ためらいなく敵を仕留めるまで止まらず、一種のハイ状態に成る。


「使います。あの怪物を倒せるなら………」


「ようやく折れたか。私の加護、受け取れ」


エンジェルからデータが送られ、脳へ伝達して行く。

みなぎる力、失われる恐怖心。

気が強くなったダース、震えが止まった手が自然と操縦桿のコントロールが正確となり撃ち抜きに掛かる。


「消えていただきましょう。この一撃で!」


敵の関節部分に向けて撃ち放たれた光線。

微かに〈チェーンソーリッパー〉の足に命中する。

しかし惜しくもビームコーティングが施された装甲部分であり、防がれてしまった。


「確かに武器の性能は上がっている。だけどこの子にビーム攻撃は通じない」


タカマルの操作する〈高起動型アンカーツー〉を敵機体は回転する刃の連撃で近づかせず、さらに後ろから右腕の刃での攻撃を仕掛ける2機の先輩機を背中のチェーンソーアームで八つ裂きにした。


「これ以上攻撃が届かない! レッカとか言ったな! お前だってここで死にたくないだろぉ! だったら戦え!」


過去に自爆特攻を仕掛けようとした者が言えことではない。

だが彼女を奮い立たせるにはこれしか方法がみつからなかった。


(そもそも戦いに参加させられたのはこいつのせいではある。まぁそんなことを言ったら男が廃るけどな)


力強く息を吐いたレッカは操縦桿を握り直すと、インギロスの悪魔に視線を向ける。


「私は……こんなところで……負けない!」


闘志に火がつき、ホバーで加速しながら要塞を思わせる〈チェーンソーリッパー〉に向かっていく。

そんな時だった。


通信が入り、モニターにウィンドウが開く。

映ったのはインギロス軍随一ずいいちの男性エースパイロット、ビージー・コマンテット。

30代の白人で茶髪のスポーツ刈り、鋭い青き眼光が映すのは復讐心その物。


「ビージー先輩!」


『レッカ兵、だいぶ戦力が落ちているようだな。あいつにはこの刃を味わってもらう』


彼が乗る機体の名は〈パラサイトブレイド・ビージー専用機〉。

かつてリッパーシリーズの1人が強奪、使用していた機体のカスタム機。

全身に刃が搭載されビームを展開することが可能、グリーンの塗装されたその機体はまさに鬼神が如く圧倒的なオーラをただよわせていたのだった。

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