その後の話4 ホテルが休業する日
デレーチョとよばれる竜巻級のものすごい風嵐に襲われて、住んでいる町が停電になったのは5月のある日のことだった。
嵐に襲われたのは夕方6時前。約30分ほどの間に、いたるところで屋根が飛ばされたり街路樹や庭木が根こそぎなぎ倒され、道路をふさいだり、家に直撃したりして町中大変なことになっていた。我が家は幸いにも大きな被害はなかったが、送電線も切れたのだろう。停電は復旧の見込みがたたないまま、1日以上続くことになる。
一夜明けてもまだ停電は続いており、子供たちの学校も休校となった。
朝。まだ町に生々しく残る被害を横目に見ながら、私はとりあえずいつものように出勤した。
ホテルの入り口は電気がないために開けっ放しにしてあり、中へ入ると鉄筋コンクリートの建物の中はさすがに薄暗い。ちょうどその日は大学女子のソフトボール大会が行われていて、うちのホテルにも2チームが泊っていたのだが、コンピューターが動かないので、どの部屋にお客様が泊っていて、どの部屋が空いているのかすらわからない。
普段提供される朝食も調理ができないため、朝食係はバナナやスナックなどを食事代わりに買ってきていた。
階段、廊下はほぼ真っ暗なので、私はまず懐中電灯をありったけ集め、前日の記録と照らし合わせて、お客様が泊っている部屋を確定していく。
結局、ソフトボールの大会は他の町に移動することになり、チームのチェックアウトが決定した。
その後、マネージャーがオーナーと相談して、電気の復旧の見込みがたつまではお客様の安全も確保できないということで全員チェックアウトしてもらうこととなり、新たなお客様の受け入れもしない『休業』ということになった。
24時間365日休むことがない、と思っていたホテルが休業するのは初めてのことである。
フロントデスクの人はコンピューターが使えず予約者もわからず連絡できないので、ホテルにお客様が着くたびに事情を説明していた。
私はその日は、出勤してきた3人のハウスキーパーと一緒に懐中電灯を使いながら掃除をし、掃除機も使えないので箒とコロコロシートで床の掃除もして、できるだけの掃除をやり続けた。
電気が戻ったのはその日の夜9時ごろ。
普段いかに電気のお世話になっているのか身に染みた出来事であった。
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