第7話 ヒスパニックの人たち 

 ホテルで勤めて3年半。これまでここで多くの人と出会ったが、仕事仲間から聞く話は日本とは違っていてとても興味深い。まさに異文化そのものである。今回は特にヒスパニック(スペイン語圏)の人たちのことを語りたいと思う。


 ホテルで出会ったメキシコやキューバなど中南米出身の彼らは、生活は大変でも明るく楽観的な人たちで、いい加減な一面もあるが、概して働き者である。


 ある時、妊娠しているハウスキーパーに話を聞いていたら、旦那が少し前に不法滞在が見つかりメキシコに強制送還されてしまったという。そんな状況でも、そんなことを微塵も感じさせずガハハと笑いながら生きている姿は思わず尊敬してしまうほどたくましい。

 

 一緒に仕事をすると、時間にルーズだったり、いろいろ緩いと思うけれど、緩くおおらかだからこそ、経済的にも社会的にも厳しい環境を力強く生きていけるのだとも思う。彼らはファミリア(家族)とアミーゴ(友達)をとても大切にしていて、お互いに助け合い、その結びつきはとても強い。


 ヒスパニックの人たちの多くは工場や工事現場、また農場など肉体労働現場で働いている。彼らには独自のコミュニティがあり、そこではスペイン語が通じるので、英語に不自由なまま、仕事場でもほぼスペイン語で通す人が多い。


 ホテルで、カタコト英語のヒスパニックの人たちと英語に不自由な私のコミュニケーションは時に大変だ。英単語を並べ、身振り手振りで話し、時には絵をかき、分からない部分は想像力で補うというかなり強引なものだ。しかしそんなコミュニケーションで知る彼らの実態は驚きの連続である。


 ・スピード違反で捕まったが罰金が払えなくて運転免許を没収。それでも平気で無免許で運転を続けている人。(そんな人と同じ道路を走っているとは!)


・飲酒運転で捕まり、その後、何度か受けないといけない呼気テストをすっぽかして拘置所に入れられたり、それで不法滞在がばれて強制送還される人。(ばれたら困るんだから、気を付けようよ)


 ランドリーで働くマイラも20歳でアメリカに来たときは、友人のパスポートを使って入国したそうだ。

 同じくランドリーのリアの旦那もまた強制送還でメキシコに送られたそうで、リアは旦那を呼び寄せるために、仕事を3つかけ持ちしながら一生懸命働いている。彼女が言うには、実際に密入国ブローカーなるものが存在し、1人密入国させるのに必要なお金は1万ドル(約100万円)だという。


 どれも私には強烈な話ばかりである。


 そんな彼らは多少のことでいちいち落ち込んだり、めげたりはしない。生きていればなんとかなるさ、という考えでとにかくたくましい。まじめで仕事上の一つ一つのことにあたふたする私には、見習うべきところである。





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