第4話 嘘でしょ?

 ハウスキーパーたちは時々信じられないような理由で仕事を休んだりする。

 ヘッドハウスキーパーになってからは、朝、仕事前にピーンと携帯のメッセージ着信音が響くとちょっと緊張する。それは大抵「今日は仕事を休む」というハウスキーパーからの連絡だからである。


 これまで私が受けた、驚きの仕事を休む理由を紹介しよう。どれも読み間違いかと何度も確認してしまったものである。


・車が壊れちゃったから、誰かが迎えに来てくれないと仕事に行けない。

(幼稚園の送迎じゃないんだから自分で車の手配くらいしようよ。)


・家に遊びに来た息子の友達に携帯を盗まれて、休むことを連絡できなかった。

(息子って確か小学生よね!?)


・仕事着が乾いていないからちょっと遅れる、と連絡したまま休む。

(え?まさか外干し? 注:アメリカでは普通乾燥機を使う。)


・飼っている犬が逃げ出して見つからない。

(それは大変だけれども、これって休む理由になるの!?)


なかには「体調が悪いから休む」と連絡してきた人が、隣町で遊んでいる写真をフェイスブックに投稿していたりもした。


 もちろんまじめな働き者のハウスキーパーもいるが、こんな低賃金の仕事にくる人には訳ありも多い。そんな人たちと働いていると日々ハプニングの連続である。

 次は私が体験したいくつかの出来事を紹介しよう。


・高校生のハウスキーパーがドラッグをやっている人たちを警察に通報していた

 掃除のために窓を開けたところ、マリファナの臭いがして、隣の駐車場でドラッグをやっていた人たちを見つけたそうだ。(高校生でマリファナの臭いがわかるとは!)


・盗みをして転売する

 新しく雇ったハウスキーパーが、数日働いた後のこと。

ある人が、ホテルの備品のブルーライト(清掃後の確認に使うもの)を持って訪ねてきた。「おたくのハウスキーパーがこれを5ドルで売ってたよ」と。

 ホテルのシールと備品ナンバーがついたそのブルーライトは確かにホテルの備品であった。


・不法滞在で強制送還

 ある寒い冬の日の朝。仕事を始めた直後にフロントデスクの人が、ムキムキマッチョな警察官のような人を2人連れて、私の方へ歩いてくる。

 (いったい何事?)

 私の中に緊張が走る。 

それはよく見ると泣く子も黙る国土安全保障省(テロ、国境警備、出入国管理を取り仕切っている省)の係官である。そのうちの1人が、手に持った5センチくらいの書類の1番上にある写真を私に見せて「この人物を知っているか」と聞いてきた。それは写真を白黒コピーしたもので、極悪凶悪犯のような顔が写っている。

 そんなことを聞かれた私はもう緊張マックスである。 

 初めはこんな人知らない、と思ったけれど、よく見てみると、エルサルバドル出身のエドではないか。私が思わず「エド……」とつぶやくと、係官に「そうだ。彼女はどこにいる?」と聞かれたので、彼女の所まで案内をした。

 エドはその後、係官としばらく話したのち、係官に前後を挟まれて、連行されていった。

 ドラマのワンシーンのようなあっという間の出来事だった。

 後から聞いた話によると、交通違反からビザの滞在期間が過ぎていることがわかり、不法滞在者としてそのまま収監、そして本国に強制送還されたそうだ。


 予想外の出来事にであうと、私はいつもあたふたしてしまう。胃のあたりが重くなることもしばしばだ。

 そんな私に、以前ヘッドハウスキーパーをしていたトーリーはいつもこう言う。

「私はそのストレスに耐えられなくてヘッドハウスキーパーを辞めたのよ」と。







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