第9話 皆でハイタッチ!
人手不足が続くホテルでは、チェックアウトの部屋(つまり掃除をしなければならない部屋)数が多いのにハウスキーパーが足りないことがよくある。
これまでで1番大変だったのは、チェックアウトの部屋が35もあるのに、たった1人しかハウスキーパーがいなかった時である 。そして、運悪くその日の予約は満室であった 。
満室、ということは、35部屋を次の客が来る前に掃除し終えなくてはならないということだ。チェックインの時間は午後3時。時間は限られている。ハウスキーパーが無理なくこなせる1日の仕事量は10部屋くらいである。それと比べても35部屋は1人のハウスキーパーではとても終えることができない量だった。
そこで私はメインテナンスやキッチンの人、さらにマネージャーまでほぼ全員に部屋の掃除の手伝いをお願いしてまわった。皆、「俺、ハウスキーパーの手伝いなんて初めて」なんて言いながらも、快く手伝ってくれる。
涙が出るほどありがたかった。
私はゴミ集めやベッドメイクなど彼らができそうなことを1つずつ頼んで、全員分業体制で掃除した。全体を把握できるのは私しかいない。そして、部屋全体の掃除ができるのも私とハウスキーパーの二人しかいない。
客のチェックアウトはまちまちなので、どの部屋が掃除が出来て、どの部屋が出来ないのか。掃除中の部屋も、どの部分が終わっていてどの部分が終わっていないのか。私は全体の状況を把握し、掃除を手伝ってくれている皆がスムーズに動けるように、ホテル中を走り回り、手が足りていない部分を補ってまわった。
掃除を終えた部屋は仕上がりをチェックして(これをルームチェックという)、準備が整い次第フロントデスクの人に報告しないといけない。チェックインの時間より早く来たりする客に対応するためだ。
ルームチェックは私の仕事だが、私も他のことで手一杯である。なのでこれは以前ヘッドハウスキーパーをしていたトーリーにお願いをした。
そんなこんなで、すべての部屋をなんとか夕方4時前までに終えることができた時には、「やったー!!」と皆でハイタッチして喜んだ。
体はへとへとだったが、ものすごい達成感に満たされた。
後でその話を知人にしたら、「よく手伝ってくれたね。『それは、私の仕事じゃない』って割り切って考えるアメリカではとても珍しいと思うよ。」と驚かれた。
この時ほどではなくても、普段から手が足りないときには、マネージャーから率先して手伝ってくれる。ベテランのトーリーは、私がハウスキーパーのことで悩むときにはいつでも相談にのってくれる。また私も、フロントデスクやメインテナンスの人が働きやすいように協力することもある。
マネージャーのメリーやメインテナンスの人は口を揃えて、「これまでいろんな人と仕事をしてきたけれど、今のチームが一番働きやすい」という。
私は、いろいろあってもお互いに助け合って仕事ができる職場でありがたいと思っている。
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