サンタクロースへの手紙
「パパ!」
飛びついてきた息子の向こう側に、腰に手を当てて怒る妻がいる。
「見てよ!部屋中砂だらけなの」
「悪いのはレオさ」
息子に反省の色はない。
「また重くなったな。うん、26kgはある」
「そんなにないよ」
「さては、ここに」
たくさん入れたな、とお腹をくすぐると、息子は歓声を上げてソファに逃げた。
私は息子の隣に座った。テーブルの上で妻の淹れたコーヒーが湯気をたてる。
「さあ、エリアス。イブは明日だが」
エリアスは無言で、手に持った封筒を振った。
「ギリギリだな」
私が手を伸ばすと、エリアスはそれを遮って言った。
「レオが、サンタなんかいないって」
「……それでケンカを?」
エリアスは目を伏せた。長いまつ毛が憂いを帯びる。
だが、すぐに顔をあげて言った。
「だから、証明したいんだ」
「何を?」
「サンタはこの手紙を不思議な力で読むはずだよね。ここに手紙を読むためだけに来るわけはない。だから、本当にサンタがいるなら、この手紙は明後日の朝まで、このままのはずさ」
テーブルに置かれた封筒は、古めかしい封蝋により封印されていた。
「開いた」
深夜、私と妻はほっと息をついた。
封蝋の形はキレイなままだ。本物の蝋でなくて助かった。
しかし、私が手紙を取り出そうと、封筒を逆さにしたとき、ザラザァという音ともに封筒から砂が零れ落ちた。
遅れて、私は息子の罠にはまったことを知った。
封蝋は囮だ。
「確か去年のプレゼントは」
「電子天秤よ、あなたの開発した」
「精度は十分だな」
エリアスは予め手紙の重さを量っているだろう。
砂を元に戻そうにも、部屋はまだ息子がばらまいた砂まみれだ。
私達は、再び顔を見合わせ、どちらからともなく、肩を震わせて、笑った。
クリスマスの朝。
エリアスは、プレゼントのドローンを手に屈託なく笑っていた。
その横には、電子天秤の上に乗せた手紙がある。
私たちはその光景をにこやかに眺めていた。今年も守りきったという満足感と共に。
まさか、『サンタのギフト』としてはハズレだと思っていた、私の『絶対重感』が役立つとは。昨夜は思わず二人で笑ってしまった。
在庫切れの旧式のドローンも『組合』を通して数時間で手に入れることができた。
息子は、大人たちがこの日にかける努力をまだ知らない。でも、それでいい。
エリアスは8歳。サンタとの契約はあと2年。
それまで、守りきって見せる。能力などなくても、あの日、抱いた小さなかたまりの重さを、私達は忘れはしない。
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