粋
俺は早朝の仕込みを終えて、窓から家の外の道を眺めながら、一息ついていた。
この時間、学生やサラリーマンが多く通る。その中の極大リーゼントを撫でつけた学ランの男に目を止めた。上背は180センチはあり、学ランはコートのように長い。
「化石みたいに気合の入った兄ちゃんだな」
学ランの男は鋭く周囲を威圧している。
「不良にしちゃ早起きだが、堅気の皆さんを朝から怖がらせるんじゃねぇよ。野暮だねぇ」
その学ランの男の前に人だかりができていた。学ランの男は気にせずズンズンと進み、人は彼に弾かれて道を開けていく。
「やれやれ、不良は回り道はできねえかい。野暮だね」
しかし開いた道の先、人だかりの中心には、品のいい服を着た婆さんが頭から血を流して倒れている。
「おっと、こりゃあ事だね」
その婆さんに中学生くらいの女の子が縋りついていた。
学ランは女の子を怒鳴りつけた。
「こんな子まで脅すのかい。野暮だね……と言う所だが、これは粋だね」
女の子は目を覚まさせようと、婆さんを揺さぶっていた。しかし、頭を打っている場合、決して動かさないのがセオリー。学ランはしゃがみ込み、婆さんの意識と呼吸を確認していた。
やるじゃねぇか。
と思った瞬間、学ランは近くにいた男をぶん殴った。
「忙しい野暮天だね、こいつは」
しかし、ふと気になって映像を巻き戻してズームすると、どうやら殴られた男のスマホが録画状態になっていたようだ。
「ははん、野暮天は動画投稿者の方かい。俺でなきゃ見逃しちまうね……粋だよ」
俺はドローンを飛ばして窓を増やし、多角的に学ランを監視する。案の定、そこから学ランは髪のセットを始めたり、服を脱いだり着たり、靴を頭に乗せて口をとんがらせたあげく……などなど無茶苦茶やり始め、そのたびに俺は、
「野暮だよ!」「粋だね」「いや、そりゃ野暮……粋だ」「野暮!……か~ら~の~」
と目まぐるしく入れ替わる野暮と粋の判定に躍起になっていた。これまでにない野暮と粋のせめぎ合いに夢中になりすぎて、俺は
「盗撮、盗聴の軽犯罪法違反容疑により逮捕する」
肩に手を置かれるまで、部屋に人が入り込んでいたのに気付かなかった。
見張られていた? ドローンで場所がばれた?
刑事がどこかに電話をかけた。するとモニタの中で学ランの男が立ち上がり、こちらを見て手をふった。
思わず笑みがこぼれた。
「なんと、いやはや、まいったね」
こいつは粋なオチだよ。
なあ、あんたもそう思うだろ。
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