オープンワールド

「おぉ~」

「第一声マジ何も変哲なしの感嘆」

「マジ残念」

「うるせーよ」

 山腹の、木々が少しだけ開けた場所に数人の軽装の若者たちが立っていた。彼らの後ろには大きな洞穴があり、奥に階段が見える。

 緩やかな斜面には短い草が敷き詰められ、草と土と岩でまだらになった獣道がふもとに向かっている。風が強く吹き、少女が髪を押さえた。

「今、『肌で』感じた」

「あと鳥の声とか」「匂いとか」「リアル~」

そう言って笑い合う。

「マジでこのクオリティでずっと続いてんの?」

「しかも80億人が常時ログイン」

「楽しみしかない」

「じゃ、ぼちぼち」

「攻略しますか」

 彼らはふもとに向かって歩き出した。

 映像はそこで終わった。

 明るくなった会議室で、イタリアンスーツの男が目の前に円卓に座る老人達に向かって朗々と語り始めた。

「いかがでしょうか? 彼らの感動が、目の輝きが伝わっているでしょうか?」

 老人達は無表情。男はそれに構わず、

「いわゆる『ひきこもり』の数はこの国に約70万人。それだけの人材が、世界が自分に開かれていないと感じ、閉じこもっている。我々は、彼らに世界はあなたに開かれていると伝える。もう一度、彼らを光の中へ」

「そのために、現実と仮想世界を混同するまで、半年以上ずっと仮想現実漬けにするっていうの? まるで一昔前のSF小説ね」

「混同ではなく、現実の再発見です」

「大丈夫なのかね」

「もちろん。健康上の問題はなく、本人及び保護者の了解も得てます」

「そうじゃなくて。これ、薬物も使ってるだろう。記憶も多少改ざんしているな」

「ご心配なく。アスリートがやるような筋肉強化や暗示程度です。『現実』が覚めないよう」

 そのとき、会議室の扉が勢いよく開いた。そして、ぞれぞろとラフな格好の若者達が入ってきた。手にはバットや木刀。

 まず入口近くにいた老人がバットで殴られて倒れる。次。その次。会議室に悲鳴と怒号が響いた。

 男の前にもバットを肩にかついだ少年が立った。男は笑みを浮かべた。

 「警備員はどうした。やったのか? 全部? 全く、恐れを知らない……素晴らしいぞ! しかし、これは悪手」

 後ろから振り下ろされたバットにより男は前のめりに倒れる。

「おい、まだ喋ってたぞ」

「ごめん。俺、こういうの最後まで聞かない系」

「バカ。なんか、イベント始まりそうだったのに……」

 少年は頬についた液体を手で拭った。手の甲にべったりと男の血がついた。

「おぉ……これ」

「「マジ、リアル~」」

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