九九連続殺人事件の解決

「犯人が、分かりました」


 そして広間に50人近い関係者が全員集められた。

 探偵が口を開く。

「71人もの人間が死んだこの連続殺人事件。それを繋げ、犯人につながる糸を、やっと見つけました」

「もったいぶらずに早く言いたまえ」

 さらにためた後、探偵は言った。

「それは、九九です」

 探偵は裏にあるホワイトボードに式を書いていく。1×1、1×2……9×9。

「殷一が胃血、殷二が煮、殷三が酸……二人が死、兄さんがロック……これらは全て被害者の死の状況を指し、全てが九九の見立てなのです」

 警部は手帳を捲りながら唸った。

「殷一さんは、毒で血を吐いて死に、殷二さんは、風呂で煮られて死んだ。殷三さんは、青酸カリで……まさか、そんな」

「9人目の被害者がインクを丸呑みして死んだ所で私は見立てに気付いた。だが犯人には至れず、それからさらに62人もの被害者を出してしまった」

 探偵はそこで言葉を切り、少し目を瞑った。

「71番目の被害者の死因は、体中を蜂に刺されてのアナフィラキシーショック。この被害者は、商売に失敗、知人に騙され借金を背負い、妻に浮気された上に大嫌いだった虫に囲まれて死ぬという四重苦を味わっている……つまり、ここで『蜂死致、四重苦』の見立てが完成する。しかし、ここに犯人のミスがあった」

「ん? ふむ……そうか」

「そう。8×7は49ではない。56です。犯人は九九を間違えた。7×8、『死地は誤銃ロック』はあっていたのに。つまり、犯人は」

「8の段が苦手……?」

「そうです。では何故? 私はこう考えた。もしかして犯人は、まだ8の段を習っていなかったのではないか……?」

「な、まさか……!」

「つまり、犯人は」

 探偵は、ゆっくりと右手をあげ、空を彷徨わせ、やがて一人の人間を指差した。


「この中で最年少……小学2年になったばかりの亜由美ちゃん、あなただ」


 静まり返った広間に、遅れて、ぱちぱちという、小さな拍手の音が響いた。

「その通りよ。探偵さん。すごーい」

 驚愕する大人たちの中、可愛い拍手の音だけが響いていた。



 当時、亜由美ちゃんはこう語っている。

「九九がどーしても憶えられなくて。ママも鬼みたいに怒るし。そんなとき何か印象的な事と一緒に覚えればいいって思いついたの。ね、いい考えだよね。でも間違って覚えたら意味ないや。あーあ、最後の9×9で、先生を殺してやるつもりだったのに」


この事件の後、急速に「ゆとり教育」が推し進められる事となる。

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