第56話 ピラミッドへ突入 ☆☆
「どうせ、お嬢ちゃんが聞く訳はねぇーずらが、一応は言っておくだぞ」
と、ルイジ提督は諦め顔で
「おみゃーさ達の強力な魔法とも違う。とにかくシッダ様の法術は異質だべぇ」
どういうこと?
「ワシらも昔話でしか知らにゃーが、あの方を害しようとしたり、部屋を無断で
何だそれは? 気が狂う、記憶を失くすって、幻惑魔法か何か?
腕だけが消えるって、強制転移、いや、空間魔法?
「身体が突然こなごなの肉片に破裂したとか、無数の
「ちみもうりょう」って何?
(異界に住む飢えた魔物たちだ。そんな言葉も知らないのか?)
あ、そうそう。
漢字で書くと難しいんだよね。
で、それが?
結局は全部やっつければいいんでしょ。
(軽々しく言うな! 肉体どころか魂までも寄ってたかって
あ、そうだ。
じゃあ、逆に、御馳走してあげればいいんじゃない?
(はあ!?)
うん、決めた。
チミモーリョーさんたちとグルーマンディーズ・パーティー
ふふふ、この私に勝てるかな。
(ふざけるな! 大食い勝負ではないぞ)
別にふざけてませんけど。
あちらさんは、なにやら数百年も、全く美味しいものも食べていらっしゃらないらしいから、一緒に何か美味しいものを食べようと思っただけですけど。
で、料理の美味しさと私の健康な食欲に驚嘆してくれて、一気にお友達になったりして。
何かマズイことでも?
(ふぅ…… 魑魅魍魎と美食パーティーをしようなどと、そんな事を考えるのはお前だけだな)
そして、いよいよ例のディ〇・ブラ〇ドー改めシッダ様と御対面だね。
楽しみぃー。
そして今朝、私たちはピラミッドに向かう坂を上っている。
不安げな顔で見送ってくれた提督と海賊衆に手を振って、「てくてく」と歩く。
えっ、なんで一気に翔んで行かないで、わざわざ歩くのかって?
それはねえ、ゆっくり景色を楽しみたかったのと、朝ご飯を食べ過ぎたから、ちょっと運動して消化のためだよ。
(主に後者だな)
なにしろ朝から昨日は食べきれなかった各種のカレーやら、スペイン風かメキシコ風の朝食やら……
あ、そういえば、あの砂糖を振りかけた甘いチュロスと、パリッと揚げたトルティーヤを敢えてピリッと辛いサルサソースで軽く煮たのにチーズをかけた、確かチラキレスっていったっけ、あのコンビネーションは絶妙だったなあ。
(人の名前は覚えないくせに、料理の名前はちゃんと記憶するのだな)
横に添えたポテトサラダやベーコンも、食材の質が良くて美味しかったし、なにしろ和風の朝食にはびっくり!
鰯の稚魚を釜揚げして干したという、本格的なニボシでダシをとったお味噌汁から始まって、うっすら甘い卵焼き、大豆の味がしっかり活きた豆腐の冷奴にアジの干物まであったもんね。
極めつけは日本米を炊いたご飯で、ふっくらもっちりして、和食にはやっぱりああじゃないとね。
まさかここに来て本物の和朝食が頂けるとは、さすが「二ホン人」の血を引くっていうだけあるなあ。
ガイアさんの作っってくれた例の朝食とは全然違うぞ。
(あれだけの朝食を全種類たいらげるとは……)
とかなんとか、食事の余韻に浸りながら振り返ってみると、白っぽく整然とした街並みの周囲には、手入れの行き届いた畑や果樹園が一望できる。
ワサビ畑はどこだろう。
あれは確か涼しい山の水が冷たくて綺麗なところで育つから、ここから離れた山村で栽培してるってことかな。
とすると、そんな所にまで平和な統治が及んでるってことか。
いっそう興味が湧いてきた。
シッダ様って、どんな人だろう。
(…………)
ピラミッドは街の中心から南西に数マイル。
丘の
「ふん、なによ。シッダ様とか言われてエラソーにしてるみたいだけど、ちゃちな神殿じゃん」
これはもちろんイシュタル嬢・談。
その「ちゃちな神殿」は、高さは100フィート近く、9段の階層からなり、頂点は祭壇という堂々たる造り。
基底部分はおよそ200フィート四方で、4面のそれぞれに階段がある。
典型的なこの地方のピラミッドだ。
(
えっ、わかるの?
(ああ。階段の段数が91段、それが4面で364段、頂点の祭壇部分の1段を足すと、ちょうど365段になるだろう。1年の日数と一緒だ。ケツァルコアトルは創造神であると同時に太陽神であると信じられているからな。それを祀るピラミッドには、この様式のものが多い)
へーっ、へーっ、へーっ。
今のウンチクには珍しくちょっと感心しました。
(ケツァルコアトルを祀る神殿を我自身が訪れるとは、奇縁だな)
で、提督の話では、この内部の幾らかが空洞になっていて、その最上階にシッダ・ルータ様が座していらっしゃるという。
なんでも、そのシッダ様は、遠い昔は街の中の居館に住んでたんだけど、ある時期からピラミッドに移り住んで、滅多に姿を現さなくなったんだそうだ。
そして、何か用事がある時は自分から丘を下って街に降りて来て、それ以外は人々がピラミッドに近付くのを許さないらしい。
ということは、昨日わざわざ街までやって来て、海賊衆が一緒に戦うように言ってくれたのは本当に稀なことで、だったら私たちに好意的な相手だと思いたい。
でもねえ……
(どうした?)
ピラミッドの中って通路と石室なんでしょう? で、その石室は王家とかのお墓じゃん。棺桶なんかが置いてあってさあ。
そんな所に住んでるなんて、随分な趣味してるなあって思って。
墓地の真ん中で暮らしてるのよりも、もっと気味悪いかも。
(人間ならな。だが人外の者なら、そんなことは気にかけまい)
あれ、やっぱり人間じゃない何かなの?
(さあな)
まーた勿体ぶって。
なーんか知ってるなあ。
(まだ確信がある訳ではないからな。それに、どうせ会ってみれば分ることだ)
まあね。
じゃあ、いよいよピラミッド突入といきますか。
提督に聞いた通り、正面に大きな青銅造りの扉がある。
それを魔法で開錠して中に入ると、狭い通路の中は当然ながら真っ暗だ。
「アスラ様、お任せを」
ベリアル君が気を利かせて指先を光らせ先導してくれる。
悪魔が極小ながらも光の魔法って、ちょっと笑える。
天井が低いのでフェンリルの巨体はちょっと、と思ったら、オスカル君はみるみる身体を小さくし、小型犬のサイズになった。
ゼブルさんが言ってた通り大も小も自由自在で、便利だなあ。
ぷぷぷ、でも、その姿で私たちの後ろを速足で付いて来る様は何だろう。
いや、可愛いんだけどさ。
思わず「お手!」とか「ステイ」とか言っちゃいそうなぐらい。
「オスカル」なんて立派な名前より、
でもね、フェンリルだよ、小型犬サイズの。
それが人間に遅れまいと、ちょこちょこと一生懸命に駆けて来るのって、やっぱ可笑しいでしょ。
あーっはっはっ、笑っちゃ悪いから口には出さないけど、吹き出しそうなのを我慢し過ぎてお腹が痛い。苦し―っ。
(いつもいつも楽しそうで、結構なことだな)
い、いや、楽しいんだけど苦しくって、大変なんだってばぁ。
(…………)
そんなこんなで10ヤードほど進み、まだまだ苦しいのを我慢しながら、再び青銅の扉があったのを開け放つと、そこは……
広大な密林だった。
はああ?
フィーネ・デル・モンド!~遥かな未来、終末の世界で「美食王になる」的に冒険を満喫していた少女が、なぜか魔王と、そしてついに神(?)と戦うことになっちゃった件~ Evelyn @20011215
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