精美な筆致で描かれる哀しき人間ドラマ。

 星、岩、波の三神の伝承が伝えられる地での物語。星の女神に仕える姫エレナは、自らに付く騎士として少年ヴァンを拝命する。幼少期に出会いを果たした二人は仲睦まじい関係を築くが、年齢を重ねるにつれ、互いの内にある想いは友情以上のものへと転化していく。しかし、ヴァンが自らの出生の秘密を探るために王国を出たことを皮切りに二人の関係は分かたれ、非情な運命に翻弄されることになる……。
 豊かな情景描写と星や波といったモチーフが幻想的な世界観を創り出し、読者を物語の世界へと誘ってくれる。だが、何よりも特筆すべきは登場人物の心理描写である。主役の二人は当然のこと、脇役から敵役に至るまで心情が濃密に描かれており、一人一人が確かな存在感を持って物語を牽引している。運命が試練を与えれば与えるほど、それを享受せざるを得なかった彼らの苦悩が浮き彫りになり、その悲愴さは何度読んでも胸を打たれる。
 甘やかな恋愛模様や派手な戦闘描写などはなく、筆致はどこまでも静かであるが、それでも先を読み進めたいと思わずにはいられない。人間の悲哀が心に刺さる珠玉のファンタジー。

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