ファンタジーの無限さと歴史の重厚さが層を為す、極上のミルフィーユ

ファンタジー小説も歴史小説も大好物の自分にとって、実に美味な作品です。
いわゆる歴史小説ではありません。歴史好きならお馴染みの時代の、お馴染みの歴史上の人物が多く登場しますが、あくまで舞台は、現実の歴史そのものではなく、それを下敷きにしたファンタジー世界です。
それでも、主人公の少女に、これでもかこれでもかと言わんばかりに降りかかる苦難や試練は、女が女であるというだけで物のように扱われた時代の重さや苦さに満ちています。が、現代的な価値観に照らし合わせて『可哀想』などと言ってしまうことは、非礼を通り越して無礼に当たるでしょう。それほどに、彼女の生き方は強くて、真っすぐです。
そんな彼女を護る従者の青年は、同時に師であり、家族でもあります。しかし、ただ一方的に護られているだけではなく、時に彼女の真っすぐさが彼を救うこともあります。その関係性は純粋に人間的で、だからこそ、実に貴いです。
びっくりするほど多岐分野にわたる知識量と、それを世界観内に落とし込んでおられる発想力、それらに裏打ちされた文章は、どっしりと腰が据わっていて、実に読みごたえがあります。作品世界的に、暴力表現や残酷表現、また性的な表現も中々こってりしていますので、それら全てを含めてファンタジーと歴史で織られた物語を堪能してみたい方は、是非。

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