ファンタジー小説も歴史小説も大好物の自分にとって、実に美味な作品です。
いわゆる歴史小説ではありません。歴史好きならお馴染みの時代の、お馴染みの歴史上の人物が多く登場しますが、あくまで舞台は、現実の歴史そのものではなく、それを下敷きにしたファンタジー世界です。
それでも、主人公の少女に、これでもかこれでもかと言わんばかりに降りかかる苦難や試練は、女が女であるというだけで物のように扱われた時代の重さや苦さに満ちています。が、現代的な価値観に照らし合わせて『可哀想』などと言ってしまうことは、非礼を通り越して無礼に当たるでしょう。それほどに、彼女の生き方は強くて、真っすぐです。
そんな彼女を護る従者の青年は、同時に師であり、家族でもあります。しかし、ただ一方的に護られているだけではなく、時に彼女の真っすぐさが彼を救うこともあります。その関係性は純粋に人間的で、だからこそ、実に貴いです。
びっくりするほど多岐分野にわたる知識量と、それを世界観内に落とし込んでおられる発想力、それらに裏打ちされた文章は、どっしりと腰が据わっていて、実に読みごたえがあります。作品世界的に、暴力表現や残酷表現、また性的な表現も中々こってりしていますので、それら全てを含めてファンタジーと歴史で織られた物語を堪能してみたい方は、是非。
この作品は賛否が分かれると思います。歴史原理主義の人は目くじらを立てると思いますが、それ以外の純粋にストーリーを楽しむ人には読みやすい作品だと思います。
架空の年号とかを使い、明確にパラレルワールドをにおわせていますが、中身は本格的な歴史ものです。文語体ではないですが、文芸寄りの文章で、これがこの物語に重厚さを与え、一話一話の読みごたえに繋がっています。
この物語の一番の魅力は、ヒロインです。与えられた運命に立ち向かい、そこから立ち上がる感動物語であり、それをささえる人達の真剣さです。そう、どんなにつらい状況でも、頑張ってみようと思える作品です。だから、今、悩んでいる人にこそ読んでみて欲しい一作です。
豊臣秀吉が天下統一をなした瑞祥(ずいしょう)と呼ばれる架空の時代を舞台に、凍える東北の地を亡国の姫さやとその従者紫月が駆ける。
過去のために、未来のために——
さや姫がほんとうに気の毒で、乱世とはいえまだ十二歳の少女にはあまりに辛すぎる……。そんな彼女が失意の底からどうにか自力で立ちあがろうとするさまを読みおえたとき、この子の行く末を最後まで見届けなくちゃと熱い気持ちがわきました。
ええん…さや姫好きです…大好き…だからどうか幸せになって(泣)
そんなさや姫のそばに寄り添う紫月も、少ない言葉はしやふるまいから深い愛情の持ち主であることが感じられて、登場のたびほっと安心してしまいます。
少年少女の荒旅の果てには、どんな未来が待ち受けているのか。
重厚な世界観に浸りたい方におすすめです!