初めてのカラオケへ

 春斗とカラオケに行った。ビジュアル系ブーム真っ只中。大きなコンサートの時は、コンサートホール付近にビジュアル系女子、男子が多数出没した。つんつんヘアだったり、ピンクヘアだったり。

メイクも目を黒く囲んで。いいなと思ったりするが自分がそれをする度胸はない。


 「じゃ、ムスコなんか歌ってみ」

 なんだこの巨大なリモコンの様な液晶画面は、この付属のペンで......あ、か、さアーティスト名....から選ぶ


 「おそっ」

 「あ」


 よし!気合が入り僕は得意げに片足をカラオケボックスの椅子に上げて斜め上のモニターをあえてウザったく見ながら歌う。もちろん靴は脱いでだ。汚してはいけない。


「きっしょ」


 と言いながらも春斗は大笑いした。人に笑ってもらえるって案外気分が良い時もあるもんだ。

笑われる事は全てが悪じゃないのかもしれない。


 歌い終わるとすぐに春斗の曲が始まった。イントロ中にわざわざマイクを通し

「こういう甘~いバラードでイケメン度はア・ガ・ル」


 ほう。では拝聴いたしましょう。


イケメン春斗の弱点......。自覚なしのおんちである。

器用に半音音程を外し、流れゆくメロディーから置いてかれ最終的には聴いている者の内耳あたりを攻撃し目眩を起こさせた........。エンドレスアタックだ。僕はその後数曲で昇天した。


 駅まで向かう途中、夕方過ぎてナンパ目的の男達が出没しだした。


 ロン毛の革ジャンを着たダンスしながら配ってる兄さんのテレクラ宣伝ティッシュを受け取りながら、ってか早く終わらしたいからって4個とかいらないです。


 交差点で何やらナンパされて困ってそうな子に目がいった。


 スラッとした足を短いデニムとブーツでサンドした。綺麗な長い髪をおろした子に、サーファー系チャラ男が腕を掴みながら話しかけている。やりすぎだろ......。


「ねーいいじゃん。お茶だけ!ね。」

「急いでるんで」

「急いでなかったらいいのー?俺すっごいタイプなんだけどー。どこの学校?高校生?専門?大学?」


 1 人であんな美人にナンパとは勇気あるなあ。ああゆう人種は。


 「ムスコ、あれって」


ん?.....もしかして、あのサラッサラ黒髪ロングは愛?


僕らはささっと走り寄った。顔を確認。


っ!!愛さまです。


私服が意外に今風でビックリした。


「あ」

「愛!な 何してるんだよ。行くよ」


僕は考える前にそう言った。


「なに?」

いやいや、今僕は助け舟を.....。

「なんだオマエら」

チャラ男も一緒になって、僕達を虫けら扱いする。


 こりゃだめだ。僕らは愛を両脇から掴んでそのまま駅まで歩いた。


「愛 なんであんなのパパっと振り切らないんだよ!いつもの感じで」


「は?信号赤だったから。待ってただけ」


 え.....あぁたしかに。青になった所を僕らが近づいて一緒に渡った.....。


 愛は何も困ってなかったんだ。


「愛ちゃんどこ行くの?」春斗の質問に


「別に、帰るだけ」 とだけ言って右手をひらりとふって去った。


 愛はかなりクールなんだ。

木下君が言うみんなの人気者時代の愛を僕らは知らない。


 そして美しい。ギャルだの清楚系だのそんな言葉は失礼なくらい、美しいのだ。

ただ、愛想はない。


「愛ちゃんどこ行ってたのかなー。もしかして、デートっいやそれは無いわな」


「何故に無いと断言できる?」


「ムスコ知らないのか、愛ちゃんには父親が居なくて、なんかワケありで、『母さんみたいにはならない 男なんて絶対いらない』っていってるじゃん」


初耳ですが。愛は春斗にはいろいろ話すんだなあ......少し残念である。


「聞いたこと無かった」

「あ、じゃ俺口滑った系?」

「今僕は聞かなかった......系にする」


 ほら、やはり僕は愛の厄除けである。

僕は使命を全うすべく今 意気揚々と鍛錬を重ねている。


「ムスコさ、その話し方なんとかしろよ。もうちょい力抜いて、キャピるくらい」


「力抜く?キャピる?いつから春斗までギャル語を習得した?」


「はあーんじゃあ、俺の真似して」

「はあーんじゃあ、俺の真似して」


「うるせっ。じゃとりあえず無口になれ。あまりべらべらうんちく垂れるな。『は?別に』くらいの会話でいけ」


 なんだそれは。3文字程度で意思疎通など出来るのだろうか。あ、愛を見習えということか。

は?別に。女なんていらないし

そうゆうことか。


「あ、それからその眼鏡、コンタクトにしろ。カラコンは?」


「は?別に。カラコンとかいらないし」


「うるせっ今はそれ言わんでいい。コンタクトにしたら?」


「大して視力悪くない」


「は?なんの為に眼鏡してるんだ。やっぱりヘンコだな」


「すいません」

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