彩花の誕生会

 僕らは会場近くのコンビニ前で待ち合わせをした。


 全員念の為普段着よりは少しマシな服を着て来た。愛が上品な黒いワンピースを着ている。

 褒めちぎりたいが、僕にはそんなスキルがあるはずがない、今はそんな雰囲気でもない。


「なあ いきなり俺ら吊るしあげられるとか無いよな?」

「......春斗 黙り給え」

「有り得るかもね.....」

 愛の表情は完全に曇っている......。僕にはかける言葉が見つからない。くるくる頭をまわし、絞り出た言葉が

「ぼ、僕らがいる」

 だけだった...... 。


 会場は貸し切りの披露宴会場かってくらい大きなホテルの中にあった。

 彩花は本当にお嬢様なんだ.......。


「すげぇな.....さすが財閥の娘だな」

「え」

「ほら、藤堂とうどうグループの」

 なんだ春斗はなんでそんなに詳しいんだ。


 前で堅苦しい挨拶が続く。

 と、真っ赤なドレスの彩花が出てくると拍手喝采が会場を包んだ。


「皆様 本日はわたくしの16歳のお誕生日をお祝いくださりありがとうございます。こんなに沢山の友人に囲まれて幸せですわ。そして誰よりも、お父様、お母様に感謝いたします」


 あれ、あの男の人.......愛を塾の帰り......え?

 僕は思わず愛を見た。


「あれね 私のお父さん、戸籍上は違うけど」


 周りのキャーキャー声が聞こえなくなった......。衝撃で。愛と彩花の父親は同じ.......。


 彩花の取り巻きがいつの間にか僕らの近くで、楽しげに騒ぎ出す。ああ、これは帰ろうかとしたら


 彩花の母親がやって来た。

 いかにも、お金持ち感を前面に押し出したようなマダムだ。


「あら 愛さん 来たのね。高校になれば大人の判断も出来るようね。偉いじゃない母親に似て。じゃ約束通り学費は任せなさい。」


 学費......周りもざわつく。

 このおばさん、娘同様やる事が汚い......。


「おい 何してる。........ 何のつもりだ」とあの男性、父親は彩花の母親を引っ張って行った。


「どうゆうことー愛って彩花の親に学費世話になってるの?」「マジで そんな貧しいの」「やばくない?たしかあの古い団地でしょ」


 愛が困ってる......愛が肩を震わせてる、どうしよう。ここでこいつらに喚き散らしてもどうもならないだろう。

 愛を連れて出よう。


 僕はざわめきの中愛に手を伸ばす

 と、愛の震える肩を抱いて誰かが立ち去った.....要くんだ......。


 そうだ、そうなんだ。僕は知らなかった話。きっと要くんは知ってた話。


 僕よ、僕はただの厄除け。震える愛を受け止めようだなんて考えるんじゃなかった。

 馬鹿者。


 でも要くん、今更愛を守ろうとするなら、なんで愛がいじめられてもハミられても助けなかったんだよ......。


「おい、ムスコ おい ムスコ 大丈夫か?ひでぇ顔してるぞ 怖いわ......」

「春斗 僕 使命の域を超えてもよいのか 超えても」

「は?なに 何言ってんだよ」


 僕は会場から飛び出した。

 やっぱり

 やっぱり愛は僕が守るんだ。

 納得行かない。


 でも、僕の目に飛び込んできたのは

 愛の頭を撫でる要くんだった.....。


 帰ろう。帰ろう。お家へ帰ろう。あれ春斗は.....足がガクガクする。惨めでガクガクなんて初めてした。自分で自分を笑ってやりたい。


「太陽 太陽.....帰ろう 」

 僕を呼び止める声がした。振り返る勇気がない。


 意を決して振り返ると、愛がすぐ僕の側にいた。

「愛........」

「帰ろう 太陽」

 なんで、愛まで帰ろう連発.......。

 愛はいつかの時みたいに細い腕を絡ませて僕の腕を組んだ。ガクガクからドキドキになんてそう簡単には切り替わらない。とりあえずガクドキで歩き出す。


 後ろで爽やかイケメン要くんがこちらを見ていた。

 そうだ彼は彩花の恋人、会場を飛び出したりしたら処刑される。


 僕は複雑極まりない感情でその場をあとにした。


「もう遅いから送るよ」


 僕は愛の駅まで一緒に電車に乗った。

 アナウンスの声が響く。通学時間と違って空いている。

 ガタンゴトン。って電車の音こんなに大きかったっけ。

「......大丈夫?」ありきたりな言葉しか出ない。

「.....うん。慣れたから。でもまた酷くなるかな......。今日参加しなかったら学費援助ストップするって言われたんだ。ありがとう......一緒に来てくれて」


 もどかしい......愛はなんにも悪くないじゃないか。


 厄除けに出来ること......それはただ離れないことか。


「あ 春斗は?」

「あ......」


「じゃあね。」


 僕は精一杯大きく手を振った。

 いつもは帰り際振ってくれなかった手を振り返してくれた。

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