インビテーション

「あ、木下君 ジャージ長いことすいません。洗ってあります。」

「わざわざありがとう。可愛らしい」

「ああ母が勝手にラッピングを。」


「木下君、ボクシングジムって、ボクサーなのですか」

「あ、ジャージに......。ボクサーだなんて恐れ多い。元プロの父がジムを経営してまして、時々練習してるぐらいです。試合経験はまだないですから。」


「まだない?今後はある?あ、いや僕は先日自分の弱さを痛感しました。と言ってもケンカした訳ではなく、万が一ケンカを売られた場合。暴力に立ち向かう防御力も攻撃力も皆無なのです」


「はい。となると......やりますか?.....ボクシング」

「え」


 僕はケンカ担当を探していた。しかし、木下君にケンカ担当になってくれだなんて口が避けても頼めない。力だけ借りるなんて考えは都合が良すぎるのだ。


 彼は真面目で誠実な男だ。

 ここは、自分でやるしかない。


「はい」


「ムスコ 木下君 何を朝から難しい話してんの〜?」


「ちょうどよかった。春斗 やろう ボクシング」


「は?ボクシング?おまえナイスファイトで明日が見えなくなるんじゃ無いのかよ」


「これは別だ。元はと言えば春斗、君が宣言した。僕らは格闘家だと。」


「あー。あれなら元はと言えば愛ちゃんじゃん。言ったの」


 僕ら3人は愛に視線を送った。

 気づいた愛が、心なしか笑ったような気がした。

 よし!強くなる。僕は強くなるぞ。



 ☆



 昼休み何やらみんなが騒がしい


「呼ばれた?」「呼ばれたー!」「毎年すごいよね彩花の誕生会」

「行く?」「そりゃ行かなきゃ......」「けっこう楽しいしね」


 どうやら彩花誕生会のインビテーションが配られているらしい。

 愛は素知らぬ顔をしている。


 と、彩花が僕らのお弁当食べてる机にやってきた。


「はい!これ 是非ともお越しくださいねッ」と春斗と僕にも封筒を置いていく。


「それから 愛!ちょっと」


 え.......愛を呼び出し??彩花の後をついて愛は教室を出た。教室中の空気が凍ったのだった。





 愛がインビテーションの封筒片手に教室へ戻ってきた。ぽちゃんッと音を立てたかと思うくらい椅子に力なく座る。食欲も失せたのかお弁当箱も閉じてしまった。


「愛......」

「太陽、春斗.......行こう......これ」


 と封筒を力なくひらひらさせた。

 僕らはただコクリと頷いただけだった。


 いったい何を話したんだろう。気遣いゼロの彩花がひと目を避ける内容って、しかも愛が、泣く泣く出席せざるを得ない理由って。

 ワケワカメである。

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