塾でのひと時、あのおじさん誰
放課後僕は塾にいた。しばしの学園メンバーと離れる世界で静かに過ごす。
塾にいる間は陰キャだとかイケメンだとか関係なくひたすら勉学に集中するのだ。
塾ではむやみに人に絡もうとするような生徒もいないのがありがたい。僕はここにいるほとんどの人の名前すら知らないのだった。
僕は休憩時間自販機の前で悩んでいた。
お茶にするか、黄色い体に悪そうな炭酸にするか。やっぱりお茶かな......。
ポチッ
わ!なんで勝手に.......背後から緑茶のボタンを誰かが押した。
ガチャーン 緑茶が有無を言わさずころがり出てくる。
「早くしないとお金また戻っちゃうよ」
僕の背後からしたその奇麗な声は まさか......。
「――え。なんで」
「入った。塾。クラスはA 太陽はSでしょ。」
「............」
嬉しくて声が出ない僕をよそに愛はベンチに座り僕に背を向けた。
「愛 愛? あれ 愛?」
呼びかけるも無視.....近寄れば耳にイヤホン
左のイヤホンを外し「ん」んだかふだか言って差し出した。
なに、これ一緒に聴いてって?
僕の鼓動は暴れていた。
Lのイヤホンをもらったのに、愛の左側に座る僕。
「近い!逆」
「あ、すいません」
あわてて右側に座る
「これさ、好きなんだ」
聴いてみたら、僕が好きなアーティスト、ルルクのバラードだった。男性バンドだ。
こ、これは精神崩壊レベルの情景
耳から流れる美しい歌声、ときめきを誘う切ない歌詞、メロディー
目の前には、凛とした美しい澄んだ君
風にそよぐ黒髪、色白で透きとおりほんのり薄紅色の頬
曲の主人公になった気になってしまうではないか.....。
「痛っ」
プチっとイヤホンを引っ張られた
「行くよ 始まるよ」
「あ、はい」
だめだ。愛の前では僕はイケメンにはなれないようだ。
そもそも僕はイケメンではない。イケメンのような甘い囁きなんて、僕の辞書には無い。
授業が終わり、見知らぬ生徒が愛をちらちら見ているのが気掛かりだ......。こら!!ガリ勉どもそんな目で見るんじゃない!
塾の帰り、並んで歩くも沈黙である。
いつもは春斗がいる。春斗が居ないと会話が弾まないのだ。
「太陽」
「はいっ」
「なんか企んでんの」
「ん?企む......」
「......急に雰囲気変わったから」
「あ、それは......僕への嫌がらせを止めるため、舐められないため」
「ふぅん......私のことは大丈夫だから」
「あ、うん」
僕には愛に、いじめられてた?とか彩花と何故仲悪くなったかなんて聞けるわけがない。
僕は正義のヒーローなんて無縁だ。ただ愛をいじめる奴らが許せないだけだ。
きっと愛以外の誰かだったら知らないふりをしたかもしれない。僕には万人を助けようなんて心も力もない。
駅の手前で
「私、用事あるから じゃっ」
足早に去っていく愛を僕は見えなくなるまで見送る。
が、ん?スーツ姿の男の元へ走り寄った愛。
かなり向こうだから見えにくい。ぬぉー眼鏡!あ、家だ。
僕はもちゆる限りの視力を全集中させこめかみをプッシュしながら焦点を定める。
スーツ姿の男が、愛の頭をぽんぽんしているではないか!!?
春斗は愛には父親はいないといった......。
しかも、妙に若い。父親にしてはおしゃれなおじさんだ。
まさか、まさか 援助的交際......
いやいやいやいや絶対に無い。いくらそんな世の中、時代だと言ってもごく一部の話。愛に限ってそれは無い。親戚のおじさん?
僕はあれやこれや考えながらとぼとぼと家に帰った。
「ただいま」
「おかえりなさい 太陽!あらまた浮かない顔ね。何があったの?その美しいお顔が台無しよ太陽、なんでもママには言ってね」
「ありがとう ママ 何でもないよ」
「あっそうそう。ジャージ、返すの忘れてるわよ。お洗濯したまま」
「あ、木下君の。明日返すよ。」
なんで、借りた物返すのにラッピングしてあるんだ.....リボンまで付けて......。
「すごいわね。その木下君って子、ボクシングの子なの?」
「え?」
「ほら ジャージに。『木下ボクシングジム』って」
え?!?
ジャージには、小さくタグがついていた
『KINOSHITA ボクシングジム』
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