開きたかった扉
肝試しはクラスごとにお化け役クラス、客役クラスで行われる。僕らはお化け役クラスとなった。
「太陽くんはどこに待機?」と凛ちゃんに聞かれ
「あの物置かな」
「ふぅん どうしよっかな、愛は?」
「うーん。」
みんなバラバラになり各自待機する。
お化けなら任せなさいっ。僕は懐中電灯片手にさっき使ったバーベキュー用品が収納されている小さな物置に入る。
わあ 暗くてほんとに怖いな。隠れるほうが肝試しに近いのだ。
誰かが通ったら扉を開け、懐中電灯を顔の下から照らして出てやろうと、ベタな演出を考えていると、落ち葉を踏む足音がした。隙間から靴らしきものが見える。
あっ来た。一人目のお客様。
扉に手をかけた瞬間、外から鍵がかけられた。
え?
鍵なんてあったかな。係の人が閉めちゃったのだろうか。
この物置はみんなの隠れている建物から離れていた。
しまった。叫ぶ?お化け役放棄して叫ぶ?
「ギャーーーッ」
有無を言わさず叫んだのは僕である。
今背後から誰かに肩をポンポンとされた......確実にポンポンとされたのだ。
怖い......振り向いたら本物がいたら......どうする
「......太陽......太陽」
え その声は......
「愛?」
懐中電灯を照らすと愛が眩しそうにした。
「あ、ごめん。えっなんで?」
「なんでって、なんで閉められたの?!」
「分からないけど......なんで愛まで居るの?」
「私 一人で隠れるの怖いし、太陽行くって聞いたからここに入ってた......」
「え」
「え、ごめんね。勝手に」
え......え。
僕は愛と物置に閉じ込められたのであった。
「ど、どどうしよ。叫ぼっか?ぼ、僕ありったけの声出して叫ぼうか」
と愛がくすくす笑い出した。こんな状況でよく笑えるなぁ。と感心する。
「そのうち探しに来るよ。凛は知ってるんだし」
愛は余裕なようである。
僕は全く余裕がない。二人っきりの帰り道も、教室で不意に目が合うときも、遠足のバスも、毎度毎度余裕なんて無いんだから。
「じゃ、じっとしとく?でも、ほらこの辺叩いたら聞こえるかも」
と僕は懐中電灯で扉を叩く、が誰も来ない。そもそもこっちは肝試しで来ちゃ駄目ですよエリアなのか。
「太陽」
「あ、はい」
「太陽は楽しい?今」
今?そりゃ余裕ないけど、楽しいですよ。愛がいて、遠足も。
「.....うん」
「私も。太陽が学校来てから楽しい。ありがとう」
「あ、うん。凛ちゃんも帰ってきたしね。良かったね」
また沈黙である。
「太陽」
「ん?」
「あのさ.....」
どうしたんだろうか、愛が何かを言いにくそうにしている。
「あの、私 トイレ行きたいかも」
えーっ。今?このタイミング
「どうしよう。トイレトイレ、やっぱり叩き続けよう」
それでも誰も来ない。
僕はすっかりトイレの心配で頭がいっぱいだ。
僕は愛に自分のジャージをかけた。寒くなってきたしトイレ我慢したらより寒いはず。
「大丈夫?」
「うん。大丈夫。」
「太陽.....」
え、どうした.....僕はもう愛がこんな状況で居ることとトイレであたまの中は既に満員御礼である。
「太陽は好きな人いる?」
な........なんて?トイレ我慢しながらそれ聞く?ああ何か話さなきゃもたないのかな。
「......んと。えっと、あっと.....いる」
「へぇ 誰?」
いや待ってください。君だよって言えるわけ無いけど万が一言われてしまったらどうするの。
そっか、愛は告られるのには慣れている。でも、僕には先が滝だと知ってて川に飛び込む勇気は......ない。
「ひみつ」
「わぁ太陽がひみつ?」
「なんで僕にだって秘密の一つや二つ。そうだ愛は要くんとさ......」
「え?」
「いや。何でもない」
早く誰か来てよ。僕は精一杯心の中で叫んだのだ。
「私は.....好きなんだ。」
え......やっぱり。愛は要くんが好きなんだ......やばいではないか。僕、これは立ち直れないかも知れない。期待なんてしてなかったけど。厄除けとしてさよならすべきなのか。近くにいるだけで嬉しかった。友達になれて嬉しかった。
薄暗い中愛を見たら、まだ何かを言おうと......もういいよ。言わなくて......。
「彩花のお誕生日で私を連れ出してくれたりさ」
「あぁそうだね。手引っ張ってね」
「殴られても、やり返さないし」
「へぇ」
「彩花に物申してくれたみたいだし」
「そうなんだ」
「は?」
「え?」
「もう!バカ。私はね、毎日お弁当一緒に食べて、一緒に帰って、大した話しなくても隣に居てくれる人が好きなの。かっこいいのにかっこ悪くて、急に髪型変えて眼鏡やめてほんとに見た目もかっこ良くなっちゃって。その人が好きなの!」
「あ......愛」
と、外から扉があいた。本当に新たな扉が開いた......これは僕が開きたかった扉なのか。
「お前たち、大丈夫か?誰だ鍵締めたの」
先生がやって来た。
飛び出した愛は凛ちゃんに詰め寄った。
「凛!凛がやったの?」
「まさかっ。そこまではしないって、私」
そのまま愛はトイレに走ったのであった。
僕はしばらく、物置の前で三角座りし、整理した。
あれは.......愛は僕を好き.....と言ってくれた....。
僕はほぼ失神した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます