新しい僕 初めての朝
教室にいつものように誰よりも早く席につく。
今日はしっかり椅子のガムを持参のウェットティッシュで拭ってから座る。僕より早く登校してガムをへばりつけるとはご苦労なことである。
朝のしばしの静寂に浸り物思いにふける。
と、珍しく早くに誰かがご入場か。
「おはよっ え 誰?」
誰って誰に向かって誰と問うているのだろう。僕は後ろを振り向くがまだ誰もいない。木下君もまだだ。
きょとんとするクラスメイトの女子に自分の鼻を指差し少しばかり目を開いてみる。
「山本だけど?眼鏡してないから」
「え.....嘘でしょ」
いや嘘なわけない。僕は僕だ。眼鏡装備を泣く泣く断念し、髪は言われた通りワックスをつけ、眉は母が少し整えたくらいだ。あとはぴっちり閉じてた制服のシャツをひとつボタン開けたぐらい。
たしかに、いつも前髪が目辺りまで覆っていて僕のキャラも手伝いまじまじと顔を見てくるような人はいなかった。
しかし、今目の前にいるクラスメイトの女子は、まさにまじまじと人の顔を見つめ、固まっている。
もしかして、また悲鳴上げられるのかな......。
オバケ見たみたいに。僕ドラキュラみたいだから青白いし。あ、ひじきかプルーンも必須だな.....きっと貧血気味だ。
「あの、どうしたの?」
「あ、いえなんでもない。おはよう山本くん」
「おはよう」
山本くん?今まで山本!ってみんな呼んでたのに。ついに取り憑かれそうとでも思ったのか。
それにしても落ち着かない。いつもの眼鏡と視界を覆うのれん前髪が無造作にふわっとしている。
胸元もスースーする。ピッとしてない感が頼りなく感じる。締め付けが足りん。裸にされた気分だ。
「おは.......太陽?」
え、愛まで止まった。これは、これは大事だな。きっと何か大きな間違いを犯したに違いない。
春斗はまだか?ああ、春斗はギリギリだから......。
「おはよう 愛」
「おはよう」
挨拶だけとりあえず交わしたものの愛はそれ以上絡むことなく席についた。
次から次に僕に疑問を投げかけてくるようなクラスメイトの反応が怖くなり、教科書で視界を遮った。
「おはようございます。」
「あ、おはようございます」
「何かあったのですか?まさかあのグループにはいったのですか?」
木下君だ。さすがだ。
「いえ、馬鹿にされずに対等にやり合うための手段です。木下君、何かあれば頼ってもよいですか?」
「はい。喜んで」
背後から響いたその声は全てを理解したかのごとく落ち着いていた。
カッコつけて対等にやり合うとは言ったものの、これ完成度が低ければただの、イケメン風になれなかったモヤシだ。かなり痛い人であろう。春斗に確認してもらおう。
「おはよーっ。」
「......あ......あー!」
なんだその叫びは春斗
「ムスコ!やばいぞ」
「あ、やはり.......間違えたかな」
「違うって。ヤバいくらいあっさりイケてしまった」
「えっ。」
そうなのか....でも内側からくる陰は変えられない。陰は陰でいいよな。
3文字の掟だ。は?別に
陰とクールは紙一重だ。
「あれ?おまえ山本太陽か?」
あ、こいつは彩花食堂に参列していたクラスメイトだ。
寺原くんだ。茶髪ちょいワルヤンキーの種に属する。
「ああ」
「どーしたの?急にイメチェン?」
「朝起きたらこうなってた」
「ハハハハうけるっ。おまえなかなかおもしれーじゃん」
「ふっ 君はなんにも面白くない」
「なんだよ せっかく褒めてやったのにぃ~」
「愛ちゃん、見た?山本のビフォーアフター」
なんだ、今度は彩花軍ではないが、クラスのチャラ男 中崎くんが人をテレビのネタみたいに使って愛に近づく魂胆である。
「見た」
「どんだけ頑張っても山本は山本だな」
「そう?カッコいいじゃん太陽」
カッコいいじゃん 太陽
カッコいいじゃん 太陽
僕はその言葉を噛み締めた。6時間目までノンストップで行けそうだ。
先生、僕10分休憩いりません。
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