ミス百合 後半 僕は踊る
何すんだよとかまたボコボコしてる時間はない。僕は更衣室隣のトイレで顔と頭をゆすぐ。
良かった、目に滲みる系とかヒリヒリ系のものではない。絵の具だろうか。
それにしてもこんなに、ぼとぼと.......タオルだってない......。
服はなんとか絞ったとしても、愛を相手にびしょ濡れでは踊れない......思考が停止した。解決策が見いだせない。
あっアイツらが脱いだ制服を拝借するか.....。
僕は更衣室に戻る、既に無人、会場へ行ったんだろう。脱いだ服はちゃっかり持っていったようだ。
「......はあ」
―――その時だ。僕の頭にタオルがかかった。ふわりと柔らかな大きなタオル。
「あーあ やっぱりな」と誰かが呟いた。
「それ、バスケ部のだからちょい臭いぞ」
「ほら、俺のシャツちょうどいんじゃね?」「いや俺のだろ」「おいっ誰かズボン脱げや!山本にかせるサイズのやつ」
「おっ俺脱ぐよ ムスコとだいたい一緒だ」
クラスメイトの男子達だった。
僕は、涙で滲んでみんなが黒と肌色と白の塊にしか見えなかったけど、クラスの男子達だった。
「いそげっ。山本」
「ありがとう」
僕は誰かのシャツと、春斗のズボンを履いた。
「これさ、ミス百合の後のイベントで使う予定の蝶ネクタイ。する?」と言ったのはチャラ男中崎くんだ。
「うん。ありがとう」
「それからちょっと」と春斗はいつも持ち歩いてるワックスで僕の髪型を整えた。シャツにパンツ姿の春斗である。
「「「ファイト―!!山本ーっ!!」」」
ファイト.......ファイトってこんなにいい言葉だったのか。明日が見える気がした。
僕は会場へ急いだ。
既に全学年のミス百合出場者達はホールのダンスフロアとされた場所に立っていた。
その前には男子達が整列している。
「では、男子生徒 ダンスのお誘いスタート!」
僕は小走りで上靴キュッキュッ鳴らしながら、しまったっ。上靴が濡れている。
僕は観客席に上靴と靴下を脱いで置いた。
すると、愛の前には陰化を解除済みの要くんが手を差し出している。
すかさず僕も愛の前に。
愛は僕の手を取った。裸足の僕の......。
とそこに木下くんが僕の黒いバレエシューズを持ってきた。そうだ、学校で愛と練習したいが為にいつもロッカーに置いていた。
曲が始まる。僕は初めて愛と踊るが、踊る事には昔から躊躇はない。
よし!行くぞ。
「愛 僕に任せて。」「太陽」
ああ 久しぶりに近い愛。
いかん、今は完璧にステップを、愛をリードしながら動くんだ。
と、またアイツがやってきた.....。要くんは先輩女子のお相手をしている。
なんでわざわざ僕らのテリトリーエリアに近づくんだ。
すると、要くんはその長い足を僕に引っ掛けた。
こんな事をしたら愛にも迷惑がかかるとこのエセイケメンは分からないのだろうか。僕を陥れることに夢中になりすぎて色々と見失ったのか。
嘲笑うかのような笑みを浮かべた要くんの表情はすぐに曇る。それもそのはずだ。
舐めるなよ!バレエ男子を!
僕はよろめきながらも、バランス感覚は抜群であった。だが僕の少しのよろめきに、大きくバランスを崩したのは愛だった。
僕は咄嗟に愛の手を強く引き、そこからぶっつけ本番アレンジをかます。
愛は僕に回転させられ、腰を支えられ二人で弧を描く様に歩き、ラストは背中を反らせまた戻しぐいと抱き寄せた。
僕らのクラスが拍手した、会場の大勢もつづいて拍手喝采であった。
「太陽 かっこよかった。ありがとう」
僕はドレスアップした愛に間近で言われ、きっと顔面真っ赤である。近くで僕を見上げる愛はこれまた姫のように可愛らしい。
「愛 きれいだよ」
「その蝶ネクタイなに?」
「さあ」
◇◇◇
出場者がそのまま待機し、僕は席へ。
みんながハイタッチしてくるのだ。部という活動もしたことない僕は、人生初のハイタッチ。
「蝶ネクタイ!蝶ネクタイ!」と小声で中崎くんが催促するので返した。
そんなに大事なのだろうか。
と、木下ボクシングジムのジャージらしきウェアの春斗。
「あ、春斗かえるよ、制服」
「いいよ。まだ必要だろ」
まだ必要?僕の出番は終わったけど。
凛ちゃんは、緊張してじっと前を向いているようだ。
「それでは、今年度のミス百合の発表です。ええ 本来であれば卒業を控えた3年生を優先したいものですが、今回は1年生が大変頑張ったのではないかと審査員一同意見が一致しました。ええ この百合丘学園は切磋琢磨し着実に実力あるものが上へ行き、上へ立ち共に向上していくのがモットーであり、平等教育だけではな......」
長い......長いのである。話が。
「では、ミス百合の発表です。ミス百合は
藤堂 彩花さんに決定いたしました!はい、どうぞ壇上へ」
会場は拍手に包まれる。
うちのクラスだけ小さくブーイングであった。
「絶対愛ちゃんの歌みんな感動したよね」
「あのダンスだってさすごかったじゃん」
「学園の色.....ですかね。それを汲むのもまた戦略です。賢さです。」と木下くんが言った。
たしかにそうかも知れない。彩花がが劣っているわけじゃない。立派なミス百合である。
愛も笑って拍手していた。
そうだ愛はやり切ったんだ。
いっぱい褒めよう。
◇◇◇
片付けをしていると、ステージに先輩男子と中崎くんがいた。蝶ネクタイをして。
漫才でも始まるのか。
「みなさん!おつかれっす。アフターミス百合のお決まり今年もやります!みんな校庭に集まれーっ!主張したい生徒、叫びたい生徒は屋上へカモーン!」
「なにあれ......」
「太陽くん 行くよ!」
凛ちゃんに手を引かれる僕であった。
そうだ。人気のテレビ番組のマネか。
塾で話してた他校の子も叫んだと聞いたことがある。
「凛ちゃん、これってさ告白とかカミングアウトするってやつ?テレビの?」
「そうだよ」
やっぱりか。凛ちゃんが僕に何を言わんとするかは容易に分かった。
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