ミス百合 前半
「凛ちゃん、愛の練習って順調?」
「うん。なんかさ太陽くんに頼らずにやるんだって張り切ってたよ」
張り切ってた?!愛が。
最近ずっと続いている素っ気なさとは裏腹の話に僕にはもうちんぷんかんぷんであった。
◇◇◇
そして、ミス百合当日
僕らは学園のホールと呼ばれる高校にしては豪華な体育館に併設するステージ前の客席にいる。
結局僕は何も愛のサポートは出来なかった。させてもらえなかったのだ。
3年生2年生が終わり、次は1年生のスピーチ。
公表されていなかった候補者が並ぶと歓声があがった。
愛と彩花、そしてよく知らない子があと二人。
「やっぱり彩花は出るんだ」
「そりゃでるわなあ」
そう言った凛ちゃんは自信満々だった。
彩花の英語スピーチ。
『将来、国際人として藤堂グループとしての知識・才能の大切さ』みたいなちょっと堅苦しくて、アンチ庶民な内容だったが、学園の先生や理事たちは頷いていた。というか、おじさんおばさん達英語理解してるのか!とツッコみたい。
対する愛の英語スピーチは庶民的だった.....。
『学校は既に社会である』いじめられた友達に手を差し伸べる人の大切さ、どんな逆境にも立ち向かう勇気は大人になり社会に出てから財産となるって、これ僕の話が盛り込まれているではないか.....。
「凛ちゃん、凛ちゃんが考えたの?原稿」
「いや、内容は愛だよ。私はより自然な英語にしただけ」
理事達は頷きはしなかったが、英語のネイティブ講師の先生がスタンディングオベーションを空気読まずぶちかましていた。
その後は、特技だった。
「なー愛ちゃんて特技何すんの?」と春斗が聞いても凛ちゃんはニヤッとしただけだった。
「ムスコ、もしかしたらいきなり少林寺拳法とかかもよ」
「あ、そうかもね。僕がバレエ男子なくらいだから」
まさか、指の関節外せますとかそういうシュールな部類ではないだろうし。
ステージではフルートを奏でる彩花。
上手いかなんだか分からないが正統派な特技ではある。さすがお嬢様だ。そこは認めよう。
と、次は愛。
僕は緊張気味に見守る準備をしていたらアナウンスが入った。
「ダンスパートナーに参加予定の男子生徒は更衣室で着替えてください」
「えーっ今!」
「ムスコ 行けっ」
「.....うん」
僕は後ろ髪を引かれながら更衣室へ向かう。
と、ギターの音がした。それから歌声。
それは、鳥肌が立つほど心を揺さぶる。ん?生演奏?
曲は僕が好きなルルクのバラード。
思わず会場入り口に戻りドアの隙間から見た。
ギターで弾き語りをする愛。愛、素敵だ....。
しばらくして......っヤバい!着替えなきゃ。
僕は更衣室へ走る。
そこには、先輩たちと、要くんがいた。
「よっ山本くんか、噂の」と言われ「あ、はい。こんにちは山本です」といった瞬間、僕は持っていた衣装諸共びしょ濡れになった。無色透明の水ではない.....下を向いた僕の髪から滴る水はうっすら赤かった。
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