手をつないで登校した日
翌日の朝、僕は愛と駅で待ち合わせし、一緒に登校する。照れくさいが僕らの意志は固かった。
僕は愛の手をつないだ。
凛ちゃんと春斗も後ろを歩く。
「凛ちゃん 俺らも手つないどく?」「あほか」
いつもより時間を遅くしたから、かなりの人数が駅へ向かう。
「えっマジだったのかよ」「うっそー」「なんか脅されたんじゃないの」「ありえない マジ?!」
同級生が小声で非難してくるが、お構いなしに登校した。
昨日愛からいっそのこと手をつないで登校しようと提案があったのだ。愛と付き合っています宣言までも、陰キャをこじらせた虚言壁とレッテルを張られた僕が哀れで言ってくれたのかもしれない。
普通のカップルであれば記念すべき交際公表パレードとなるのだろうが、僕からすればこの格差カップルの公表はさらなる攻撃を受けるか否かの挑戦となるのであった。
だがクラスメイトは意外に穏やかに僕らを受け入れてくれたのだろうか、いつもと変わらぬ一日が終わろうとしていた。
愛がごみ捨て当番から戻るのを待つこと10分以上経過。遅いなあ......。ゴミなんてポイッとひと投げで終わるはず。
僕は体育館裏の焼却炉まで向かった。
そこには人の塊ができていた。
愛、愛をかばう様に立つ陰化した要くん、その前には仁王立ちの彩花とマーサと数名のルーズソックスの足が並んでいた。
「太陽と別れないなら学費の件、お母様を止めないから」
「どうして、親のことは親の問題でしょ」
「何なんだよ、やっぱりおまえは根性汚い女だ」と彩花に食いつく要くん
僕は咄嗟に駆け寄った、彩花の前に立った瞬間
得体のしれないバケツの汚水をかぶったのだ
「や 山本太陽 あなた....」
「なに、この水.......文句あるなら僕に言え」
そしてすぐに僕は愛の冷たい手首をもってその場を去った。
「愛、何があった?」
「彩花が、太陽と別れなければ、また学費止めるって。彩花のお母さんが、最近また言い出したらしい。たぶんお父さんが、うちの母さんと一緒になりたいって言ってるのかも」
「え」
「お父さんね、婿養子なの。藤堂グループは彩花のお母さんの会社」
僕は何も言わず、いや何も言えずとりあえず運動場横の蛇口で頭、顔を洗った。同時に頭の中も凍てつくほどだった。やっぱりあの交際公表が良からぬ事態を生んだのか。
「あぁ僕臭いかな あの水ってさ.....」
「たぶん掃除の後の.......」
「はあ」
「ありがとう 太陽。学費の話、一度母さんに聞いてみる」
「うん」
愛はびしょ濡れの僕を見て笑った。カッコつけてた髪型もしおれきったのに、タオルを出して僕の頭をゴシゴシ拭いて
「太陽かっこいい 大好き」
僕は何度でも汚水かぶるよ。君にかっこいいっていわれるなら、大好きって言ってもらえるなら。
そんな考えからきっと僕も笑っていた。
彩花はあのバケツ、要くんにかけようとしたのかな。
要くんもなかなか頑張ったんだな。
でも、愛を守るのは僕だ。厄除けの名にかけて。
☆
帰宅後
「太陽 おかえり バレエは?」
「ただいま」
「ママ、うちの学園て学費高いよね」
「そうね。私学の中でもなかなか高いほうよ。私はミス百合だから全額免除だったけどね〜太陽はミスにはなれないわね。残念」
「え?その制度って今もある?」
「さあ、分からないけど。ミスコンは学年末でしょ。3年生だけかしら」
僕は待てず、木下君に連絡した。
『高等部としてありますよ。審査項目は英語スピーチ、プロムダンス、特技、成績』
英語スピーチは凛ちゃんが先生
プロムダンスはママと僕
特技はなんだろな。
成績、僕が一緒に頑張ろう。
と勝手に僕は希望を見出したかのように胸を高鳴らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます